第554話 遠い一人の苦しき旅


■■■が妊娠して、流石に旅を続けられなくなった


せめて産まれるまでは■■■の側を離れようとは考えていなかったがそうもいかない


このままでは、貴族や仲間によって■■■は足手まといと僕の知らないところで切り捨てられかねない


僕たちとしてはそもそも魔王とか知ったことじゃないんだけど、彼らにとっては人類の存亡をかけた一戦だ


それに魔王を討伐してこの世界にいるにしても、神様に■■■■に帰りたいと願うにしてもここで数ヶ月の停滞は軋轢と恨みをうみかねない


この旅をしていて、道に転がってる酷い匂いの死体に、僅かな食料を奪い合う人々に・・この世界の人間でなくても危機感は感じる



だからといって僕たちだけ旅立つにしても出産は命懸け、■■■と会えるのが最後になってしまうかもしれない



絶対に嫌だ嫌だと自分の中では思っていたが■■■に説得されて旅立つことになった



「このままだと毒を盛られかねないし・・・この子のためにも行ってほしいの」


「だけど、でもさっ」


「わかってる、私だって寂しいしこれが■■■■といれる最後になるかもしれないって、でもね」



■■■の神の加護は霊と話したりできるものである


他の神々よりも一般的に信仰はされずらい


だからこの地ならその神様と姉の神様が国を納めているとかでまだ他の国よりかは大切にされるし身の安全が確保できそうだ


更にここなら出産して僕が帰って来るまで安全に居られて・・・いや、何なら住み続けてもいいよという言われている


どう考えても、■■■を残して行くのが良い判断だとはわかっている


ここなら旅の途中に危ない出産をすることもなく、できうる最高の環境で出産に望める



「悪いことばかり考えちゃ駄目よ?それにうまく行けば子供にも良い環境を作れるじゃない」


「でも、もしものことがあったら!」


「そりゃ出産は危険よ、だけど魔王の後にも、出産の後にも未来が有る、両方うまくやれれば素敵と思わない?」



たしかに、出産はとても危ないものだけど、それで確実に死ぬわけじゃないし、僕たちの未来のためにはこの旅は重要なものだ



「二人で困難を乗り越えて、最良の未来を目指しましょう?」


「・・・・・わかった、愛してるよ■■■」


「私もよ■■■■」



こうして旅立ち、手紙でやり取りしていたのだけどお互いの近況はいつも酷い


お互いに一人になって迫られたりプロポーズされることも増えた


色々と問題はあるがそれでももう少しの辛抱だとお互いを励ましあい-赤ちゃんに蹴られる感覚が結構怖い-とか-今すぐ帰って触れたい--駄目働いてなど-という手紙のやり取りだけが心の支えだ


魔王というのは絵本に出てくるような竜や悪魔のようなものだけではなく、それに組みした魔族が出てくる


彼らには彼らの生存競争のために戦い、言語もあれば知性もある


残忍に村人を殺すものもいれば、死に直面して命乞いしてくるものもいる



・・・ある意味■■■がいなくてよかったのかもしれない



戦いは激しさを増していき、辛さが増す中、手紙だけが本当に楽しみとなっている


ただ・・新しく生まれてくる子の婚約者に僕らよりも年上の男性の貴族が立候補してきたと聞いて帰りたくなった


すぐに帰ってそいつの頭ねじ切らないと



20人の仲間に止められた、クソが



手紙が届かないことも増えた、どこの国も協力的ではあるけど多くの国々を通過しているため手紙がバラバラに届いたり、2月も前の・・他の配達員が届けてくれて返事も出した手紙を持ってきてくれるものもいる


そして、進んで行くに連れて、手紙が途絶えた



魔族の領土、敵地だ



ただ魔族というのは瘴気に適応したものだそうで、魔族から魔族が産まれる以外にも人間にも魔族は生まれる


僕の仲間にもそういう意味では魔族の人もいる


見た目が大きく変わるものもいるし、変わらずに瘴気に耐性があるだけのものもいる


隠れて生きるものもいれば人間社会からはじき出されて人を強く恨むものがいる


普通の魔物より瘴気に耐性のある魔族は手下に不死者を操る場合が多く、人間社会で言う禁術というものを発展させているそうだ


魔族同士であっても派閥があり、お互いを憎み合っているのを少し哀れに思う


だって、新しく生まれた子供が魔族だったら、殺すか捨てるしか無いのがこの世界の基本だ・・反吐が出る


仲間の魔族・・・いや、瘴気に耐性のある亜人は同族であるにも関わらず相当差別されてきたそうだ


魔王も邪神だか悪神が選んだり生み出すし勇者も同じ、僕ら異世界人を巻き込むなよとは思うけど■■■■は、いや地球や他の世界もこの世界とのつながりがあるそうだ


だから稀に勇者として僕らのような存在が召喚される


魔族も突然勇者として使われる僕を哀れに思って謝ってくるやつもいるし、魔族側につかないかと誘われることもある


僕と■■■は神様から強い加護をもらってるから瘴気のある魔族の領地でも暮らしていけるとは思う


だけど子供が住めるかわからないし、もし仲間になることを了承しても妊婦である■■■には身の危険が迫ることになる


お互いに嫌な立場だとわかりながら殺し合う


仲間も、大分減って、また補充される


初めに仲間だったものはもう残っていないがそれでも生き残ったものは皆家族だ


神様が加護をくれる、先祖が加護をもらっていたら加護を得られやすいとか、神様も注目するような働きをすれば加護を得られるとか試練を受ければとか色々あるそうだけどそうやって超人が生まれる


魔族側にも加護を授ける神様は存在するが魔族側よりも人間側のほうが加護を授ける神は多い



僕のため、いや、人間社会の存続のために命を賭して散っていき、また補充される



魔族は魔族で、生存領域を守るために魔物を率いて戦う


やっと、今代の魔王の場所がわかったが魔族の王と一緒にいて、かつて無い激戦が予想される




―――――・・・本当に嫌になる




負けるかもしれない、誰も生き残れないかもしれない


だけど、僕が死んだとしても、■■■と子の生活は保証されるし、勝って帰れば全てがうまくいくはずだ


重厚な城門を、力神の加護を使って殴り壊す



「行くぞっ」



お互いどうしようもなく、しなければならないのならやるしかない・・・全ては■■■と、生まれてくる子供のためにっ!!

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