第540話 領地の商売2


とにかく高く売ろうと思って商売してるのだがやはりと言うべきか邪魔が多すぎる



「うちのその商品を独占させろ、でなければどうなるかわかってるのか?」


「どうなるのでしょうか?」


「そうだな、貴様らの領地の監視を命じられている・・・もしも売らねば・・わかるかね?」


「わかりません、新興商店の店主にもわかるように教えていただけませんか?」


「ふん、貴様らの領地がなくなってしまうということだな、さず勇者様は悲しむだろうな?部下の失態で領地がなくなってしまうなど」


「脅しですか?」


「そうだ、貴様らは仲間思いであんな腐って使い物にもならない下民共を大切にすると誓ったんだろう?さっさとこのチョコとやらもあるだけもってこい」



笑ってしまいそうで困っていたしこの辺でいいだろう


部屋には相手の護衛もいるが、鉄級ほど、こちらのちょっと鍛えた子供程度の実力しかない



「捕らえなさい」


「「「はっ!」」」



部屋に入ってきた段階で諦めていた護衛の方々、すぐに抵抗の意思はないと示してくれていた


護衛が呆れるほどに喚いていたのに動かない護衛に真っ青になった


自分の置かれた状況をやっと理解したのだろう



「なっ、こちらはヤーカイム子爵の使いだぞ!?離せ!離せー!!!??」



この部屋は音と見たままを残す異世界の道具で記録している


ヤーカイム子爵の従士殿は監禁行きだ


あそこの領地ならお父さんは公爵待遇であるはずなのに、こんなのがいっぱい来る


誰でもわかりやすい『元杉屋』を名乗ったは良いものの明らかに舐められている


出来たばかり商店には現地の商店や貴族、王族との繋がりはない


全員が元難民で構成されていて『穢れつき』などと危険視されて邪険に扱われるし、何なら殺してでも奪い取りに来そうだ


その上お父さんは各国で人々を救ってきて優しい使徒であり「自分の身よりも浮民や奴隷に心を砕いてきた」と言う話は有名である


浮民に優しいのなら我々にもと考える輩は後を絶たないし強く出ればなんでも言うことを聞くとでも思っているのかもしれない


このムッスロンは侯爵家の11男で母が商会をやっていた経歴がある、文字書き計算もできて少しばかり太っていて恰幅がある


だから領地の金庫番から異世界商店『元杉屋』の商会長となった


貴族の対応や商売を決めるのはこの我の役目



覚悟はしていた



だが、日に何件も来るゴミども・・


我、もう疲れたよ、お父さん・・・



商売なのだから売れそうなものがあると聞けばやって来るのは当然と言えば当然なのだが・・・


そもそもこちらには「この領地で商売をして安く売る必要がない」のだ


世界中に点在する秘境・辺境の領地には定期的に領地の人間が行き来している


無駄にも思う気もするが魔族や魔獣、貴族の横暴などはどこにでもある


だから仲間が行き来することで「この領地には仲間がいる」と周りに見せつけているし、問題はどこでも起きるのだから皆で対処すれば佳い


それと・・やはり瘴気に強く侵された人はここに連れてこられるようになっているが、いつの間にか瘴気に侵された人がアンデッド化して領地が全滅なんてことになっていれば率先して自分たちで解決しないといけない


ただでさえ偏見を持たれている領地なのだ、これ以上悪評が立てば魔物ではなく人間に襲われかねない


だから、どんなに嫌な役目でも自分たちで処理しないといけない・・・まぁ人の行き来によって重症者はこちらに送られてくるようにしているからそういった事例は発生していないが、心構えだけはしておかねばならない



一つの領地のことだけを考えてはいけない、全体を、全土の事情も考えて動かねばならない



幾つかの魔族領地から離れた土地であれば狩猟ができたり畑が作れる、彼らに物資を渡して食料は他に回す


全体が飢えないように食料の調整も必要なのだ



我々には既に鍛えられた兵もいるし、領地には子供でも英雄に近い戦闘力を持つ人が出てきている


領地間を移動して荷を届けるというのに傭兵を雇う金も必要ない


この領地に来る前からもともと英雄の領域に入っていた関羽・ヴァン・元杉のような元将軍やこの領地でお父さんの養子となってから他の神に加護を授かった人もいる


彼らを十二将として称号を与えて各地の領地で働いてもらっているので自分たちを襲いかかってくるような賊はほとんど居ない


いても領地を巡るものは戦闘力の高いものばかりなので負け知らずだ


商人としては良くはないがお父さんの最大の加護と言えば運命の神と愛の神だ


どちらも賊にまで落ちた相手や無理を言ってくる貴族に対して魔獣と同じく駆逐対象となっている


故に見かけ次第、むしろ襲いかかっていく


こちらには異世界産の『ボイスレコーダー』や『ビデオ』といった音や映像を記録できる装置がある


証拠さえあればレアナー教が聖戦を発動可能という名目があるので襲いかかってきた承認や貴族からは遠慮なく貯めたお宝を根こそぎ奪っていける


賊でもやめようと考えるのに、貴族や他の商会や組合はなんでこうも強気に出れるのか・・・


あとで子爵の国に手紙と動画と音声で抗議しに行かないといけないな



お父さんは大量に食料と共に「これは売れる!」というものを大量に持ってきてくれる


正直何がどういい物なのかよくわからない物ももってくるが何に価値があるのかよく見極めねばならない


『ロケットハナビ』など火をつければ飛んでいっておおきな音を立てる道具なんて荒野から来るアンデッド対策にもってこいだし、軍の連絡に大いに役立つ


微妙に文字がわからないエシャロットはお父さんへの忠誠も高いし領地の行き来は任せられるほどの戦闘力は有しているが・・教育を受けてないだけあって書類仕事や商売は任せられない、この際だからちゃんと教育を受けてもらう・・・ニホン語もだ


お父さんは余裕ができれば全ての子供達が教育を受けられるようにしてほしいと言っていたがまだまだ難しい



お父さんが新たにもってきたなかでも特に売れそうだったのが服だ



清浄化や浄化の魔法があるから身体を拭う回数は少なくて済むがそれでも汚れの元は取れないし、だんだんと生地自体が傷んでくる



驚いたことにサイズ別に何千枚も、全く同じ形状と規格のものをもってきてくれた


こちらの服と違ってボソボソすることもなく、少し伸び縮みする


しかも手製の辞書によると・・・この服、洗っても良い



普通、服は素材によっては洗うことは出来ない



洗えばそのまま穴が開くなんてよくあることなのにどれも全部洗ってもいいなんて素晴らしい、だが・・・



「お、お父さん?これだけの高級品、この量、資金は大丈夫でしたか?」



仕入れしてくれたお父さんが心配である


何千枚、いや、下手すれば何万枚もあるがこれだけで全財産支払ったんじゃないだろうか?


この仕入れで最後?終わり?いやいや、これだけの商材、絶対に売れるとはわかっているし売ってみせるがお父さんの思い切りには肝が引きちぎられて声も出ないような思いがする



「それがこれって、向こうだと安い定食屋で1食分で1枚買えるんだって!」


「・・・・・・・?」



なにいってるかわからない


服といえば、生地となる素材を採取し、糸に加工し、それを編み合わせて生地にする


それを服に人が一つ一つ加工するのだから人の手が多く入るし、高価で当然だ


しかもこの生地、生地の目が細かくて肌触りも良くてサラサラしている


これは明らかに腕の良い職人の作りだ


なのにこれが安価、だと?



「本当はいっぱい色があるんだけどこの色だと汚れが目立たないかなってこの色にしたんだ、白いシャツとかはやっぱり黄ばんだりするらしいね」



それと大量に買うことで1枚あたりの値段を下げて買ったらしい


灰のような色だが、他にも色とりどりの鮮やかなシャツ、パンツとスポーツブラジャーという胸当てを渡された



「えぇと、ぶいねっくでのーすりーってやつらしい、試しに着てみて」



大きさはバラバラだけど、サイズで数字と文字で書かれている


ヴァンさんは着れない、立派な体型にドワーフのヒゲが邪魔をしてうまく着れなかった


エシャロットはパンツもシャツも着れた


パンツは男女両方履けるタイプらしいが、獣人であるエシャロットには尻尾もあるし履きにくそうだ


尻に尻尾用の穴を開けられるように加工しないといけないな


我は少しばかり太っているし腹の布が足りない、スポーツブラジャーを着てみるが・・なかなかに良い


胸のあたりに柔らかい胸当てが入っていて防具の下穿きに良さそうだ



「あ、それはじょせ・・・なんでもない」


「似合ってますか?」


「う、うん・・・」



腹は出るが、獣人やエルフは肌で魔力を感じたり、毛が多い人は露出が多い


ビーツも帰ってきたので渡してみるとやはりスポーツブラジャーを選択した


ビーツは脱ぐと全身毛深いからできるだけ毛と接触しないほうが良いらしい



「痒くなるし蒸れる」


「なるほど」



下着であっても肌が擦れて痛むことなんてよくあるのだがこれらはそんなことがない


毛深くはないがエシャロットにもサイズのあるものを探して渡すとこれはこれで気に入ったとのこと



「でもどっちかって言うとシャツの方がいいな、腹が寒いのは気になる」


「ふむふむ」



ビーツもエシャロットも犬の獣人だがビーツはお腹は出したほうが良いと言うし、エシャロットはお腹は隠したいという・・種族さというよりも好みの問題なのだろうか?


ヴァンさんも自室から薬を使ってヒゲをなんとかして着てくれた、選んだのはスポーツブラジャーだ



「これは・・・薄いあて布がヒゲにちょうど良い」


「そ、そうですか」



ヴァンさんはムッキムキなので今にも破れそうだが、伸縮性があって良いようだ


女性の意見も聞きたいがラディッシュは仕事で出ていていない


お父さん居ないと思って隣の部屋に言ってみると、大量に茶色いダンボールという箱で服を出しまくっていた



「とりあえず服いっぱい買ってきたから、領地の子に上げたり売ったりは任せて良い?」


「わかりました」



しばらくしてラディッシュが帰ってきて「これは女性用だ」としばかれたがこれはこれでありかもしれないとエシャロットを見て言っていた


胸に入った柔らかいあて布の大きさ、大きな胸も入れるサイズが合ったそうだ・・我の胸にはぴったりだったのに・・・



「少し太り過ぎよムッスロン」



むぅ・・いや、売れるのなら男性用だろうが女性用だろうが良いだろう・・・


ただニホン世界には獣人や亜人はいない純人のみの世界だそうだし、獣人の尻尾や鳥人の背の羽に対応してはいないため売れる対象も限られてしまうがお父さんが注文してみるとのことだ・・・こんなにいい生地のものが安価だなんて一体どんな世界なのだろうか?


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