第539話 領地の商売
お父さんが魔王を倒してくれて家族の繋がりが感じられなくなった
魔王の核を使ってアオキチキューに帰ったのか、それとも・・相打ちに・・・
―――いや、きっと帰ったのだと信じよう
可能性から悲観的にもなってしまったが、レアナー教国から『魔王を倒して異世界に帰った』という知らせが届いて安心した
魔王はこの大地に住む全ての住民の居場所を奪い、尊厳も財産も奪った
食べ物が収穫出来ず水も飲めなくなっては、生き物は住めない
建物はみるみる朽ち果て、人々は病に倒れた
魔獣はそれまでより活発に野を駆け、地獄が生まれた
瘴気で病になったものは死ねばアンデッドになる
だから、魂が穢されないうちに神殿で殺してもらうこともあったり、親友同士で、家族で・・・来世に期待して殺し合うこともあった
何処の国でも何処の神官様も限界まで働いて、泣きながら祈っていた
自分の力足らずによって『命』という取り返しのないものが眼の前で消えて実感していくなど最悪だったろう
命を自ら絶った彼らの選択肢は間違ってるとも言えるが・・・そんな選択肢を拒んだ人にとって地獄は続く
一緒にいる人が最愛の人であるからこそ他人と殺し合い、そして奪い合った
酷い世の中だ
国を奪われた人々は誰かから奪われた苦しみも痛みも知っているが、それでも奪わなければ死んでしまう
だから、どうしようもなくて奪ってしまう
受け入れてくれた心優しい国もあったが、死ねばアンデッドになるかもしれない存在を受け入れた国はまっさきに滅んだ
そうして難民は受け入れられなくなったどころか、魔物と同じ討伐対象になった
ヴァンさんのようにドワーフの将軍が軍と民を強い力をもって放浪していったのはまだ幸せだったのかもしれない
アンデッドになれば家族を傷つけないように介錯してくれて、普通に死ねば葬儀をしてくれる
彼らは他国の軍隊だって退けられる力を持っていた
もちろん仲間に入れて欲しい難民は多かったがそれはヴァンさんにも無理だった
受け入れてくれたのはお父さんだけだった
勇者元杉、異世界人で子供、愛と結婚の神レアナーの加護を受けた魔王に相対するもの
最後の勇者が誕生した時、その勇者にはがっかりだった
それまで何人もいた力の強い勇者は皆死んでいった、なのに新たな勇者は力も知識もない子供
新たな勇者を殺してもっと力の強い勇者を召喚すればいいという意見はあった
神に反する行いだし、邪教徒の行いだが気持ちはわかる
ドワーフの将軍のような元々強い存在が召喚されて更に強い加護を授かるのと脆弱な子供が加護を授かるのではまるで違う
だけど難民は彼に救われた
どこの神官様でも人の瘴気を少し祓うのが精一杯だが、彼は桁違いの浄化の力で人の瘴気を癒やした
褒め称えられ称賛された彼は国々から報奨を得た
何処の国でも、勇者に与えられた領地は辺境や僻地だった
難民を押し込めるのにちょうどよかったのだろう・・なぜなら難民はそのままアンデッドとして敵になるかもしれない
領地を出れば槍を向けられる食べ物もまともにない何もない領地
まるで罪人を裁く流刑地だ
だけど、たったそれだけでどれだけ救われたことか
そこにいるだけで命を狙われることもない生活、病を癒してもらって痛みで苦しむこともない体・・・それだけでも充分すぎる
更に彼には何の得もないのに勇者として手に入れた財を全て投じてくれた
これまでの力強い勇者とは違う、本当に優しい勇者だった
領地は安定し、人材がいくらでもやってくる領地は見る間に発展した
多くの国々が滅亡したが全ての人間が死んだわけではない
多くの優秀な人間がいた『技術階級』『貴族階級』・・・国の中枢になくてはならない人材、人はいくらでも居た
「治ったからうちの領地に返せ」そんなお貴族様がいたが幾つもの加護を授かったお父さんは、名前をつけてくれてはねのけた
檻に入れられ剣を向けられて物のように運ばれて、それでも治ったなら役に立てなどという要求をするなど恥を知らないのだろうか?
受け入れられた皆感謝し、世界一の都市にしようと盛り上がっている
お父さんはたまにこちらに帰ってきて、様子を見てくれる
婚姻や結婚の騒動もあったが我々は我々で恩を返さないといけない
お父さんはアオキチキュー、今はニホンというらしいがそこに帰ってレアナー教を布教しているようだ
きっと大金がかかるだろう
現地の貴族とは連携していないようだし、国によっては金が使えない
お父さん一人で布教を始めて看板を持って布教したらしいし・・お父さんは大金を持っているとは言っても幾つもの領地に殆どを使っていたはずだ
ならば今が頑張りどころだと、異世界の商品を売ることになった
少しでも儲けてお父さんの役に立ちたい
異世界から大量の食料を持ってきてくれるがそれもお父さんの私財からだ
既に返しきれないほどの恩を受けているというのに・・・返しきれるかは分からないがそれでも精一杯返していこう
「恩?そんなのいいよ」
「しかし、それでは我々の気が済みません」
「恩を受けたと思うなら、その分誰かに優しくしてあげるといいよ、助け合い助け合い」
泣きそうなほどの言葉に全身全霊を持って応えようと思う、貴族共から毟れるだけ毟ってみせよう
お父さんは様々な商品を仕入れてくれた
しかしもってきてくれても、それらが全て売れるわけじゃない
そもそも「何に使うんだこれ?」とよくわからないものもいっぱいあった
一番売れたのはチョコレート、とんでもなく美味しい
金貨で簡単に売れる
「これは、美味ですね」
「さすがお父様だ」
「売れそうですね」
次がコピーヨウシという紙、黄ばんでいない真っ白で筆の先が引っかかることもなくサラサラとかける
統一された紙は特別な紙として売ることで高級商品として成立した
「何だこの絹のような滑らかさは!??」
「これは何処の国にでも売れそうですね、しかも高価なのにこんなにたくさん・・・!!」
「炭!早く炭もってきて!!湿気とらないとこんな薄い紙ぼろぼろになっちゃうわ!」
なにげに便利なのがデンタクだ
アラビア数字という数字は初めはわからなかったが使ってみると文字で書く数字よりも簡略で、計算もしやすい
習得に時間は必要なものの文官の計算の仕事が一瞬で済むと金貨8枚で売れる上に魔晶石もいらずに日に当てるとずっと使える、きっとレミーア様からの恩寵品である
もちろん売れるものばかりではない
カレーコというチョコのようなものは食べれたものではなく、腹を下した
だが、基本的に異世界の商品は何でも売れる
そもそもどんなものであっても希少な品であるから売れるのは当然と言えば当然なのだ
もっとニホンの技術をこちらに広めたいところではあるが―――文明によるそれぞれの発展度が違いすぎる
お父さんの広めた画期的な発明、スイセントイレ
公衆の便所など、汚くて当然であるし、男女同じ部屋で数人がするものだ
個室であればそれだけ犯罪や事故も増える
酔っ払いや小さな子がトイレに落ちるのなど危険なことも多いし、子供がいれば親がが見ているの当然のことだ
お父さんは操作一つで股ぐらを洗える魔導具をアブサンに作らせた
トイレには木製のような匂いの染み付くものは使わず、全て水に強い素材で作り、床も床ごと掃除するための穴がつけられた
臭くて汚い、大部屋で人としなければいけない時とは天と地ほどの差がある・・・流石に音楽が鳴るとかは意味がわからなかったが異世界ではわざわざ楽団がトイレにいるのだろうか?
研究開発に長けた人材が集まっていたとは言え、とんでもない道具は理解もしにくいし当然売りにくい
召喚される前、ニホン世界で平民の子供であったお父さんがこんな画期的な道具の数々を常識として親しんでいたというのだから驚きである・・・きっと、それだけニホンは発展しているのだ
基本的には商売はうまく行っている、というよりもうまくいかないほうがおかしい
かなり儲けたが・・それでも商売をして金がなければ、きっと飢える人も出ていただろう
こちらで集めた財をもっとお父さんに返したかったが、今でも増える難民もいるし、食料の買付けに使うように言われている
何よりレアナー教国の領地にいる子供たちの数は他の領地に比べて12万ほどと少ない
なぜなら魔王の領地はここから遠く離れているし、ここよりも他の20ある領地のほうが近い
何処の領地も畑もない土地から始まったのだから食料は足りていないし、もともと不毛の荒野であったここは食料生産には全く向いていない
世界の地図が変わるほど瘴気は広まって何処の国も食糧難だ
いつかは領地の心配もなくなって恩を少しでも返せる日がくればいいと思うがいつになることか・・・
ただ、このムッスロンは難民となる前は誇り高き商人だった
これだけの商材を前に『売れない』などという商人の名折れにだけはならないとレアナー様に誓った
溜め込んでいるゴミクズ非人道的貴族の頭の毛から足の爪までむしり取ってくれよう
・・ただ、一緒にやる仲間がちょっと難ありだ
異世界の商品を扱うともなれば何十もの国と何千といる商人と深い知識をもって手練手管で商売を成立させなければいけない
貨幣の価値も国によって違って様々だし、文化や風習、国の事情まで知らねばならない
選ばれたのは顔の怖いビーツとどう見ても娼婦のラディッシュ・・そして、計算もできず、文字も書けないけどやる気だけはあるエシャロット
更に上司はお父さん
・・・・・・・・・・・・・大丈夫かなこれ?
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