第487話 海の側の領地とセーセルリー
「長!今日の魔法も凄かったです!」
「長、商談とリッカーブル伯爵の使いが海龍を買いたいと申し入れてきています!」
「わしゃつかれた!お迎えがくる前に休むことにするよ!領主様も来てるでよ!」
「「お疲れ様です!」」
海龍はそれなりに強い魔物のはずなのに誰も動じていない
むしろここではこれが当たり前なのか皆手際よく動いている
セーセルリーは慕われてるようだ
「え?お父様来てるの!?」
「聖下が!?おい!!ここはもう良い!元杉聖下を探せっ!!」
「祭りじゃ!祭壇作ろうぜ!」
フードを被って大人の影に隠れる
海龍は大きく切り分けられたものを男達で解体していた
巨大な蛇のようなタイプの龍でなかなかに価値がある
鱗も骨も革も武器や防具に使えるそうだ
専門家らしき人達が台の上で大きな刃物で手際よく解体していっている
「さあ!稼ぎ時だよー!」
「どいたどいた!危ないよぉ」
活気があるのは何より
あまり僕はここに顔を出していないとはいえ知ってる人にも気が付かれていないようだ
「おまたせしましたじゃ」
「ううん、お疲れ様」
そういえばゲガガガとここに来るとものすごい鳴き声がするはずなのに聞こえない
セーセルリーをよく見てみると彼女の魔力が村の全体を漂っている
鰐竜ゲーガの鳴き声を聞こえないように村をなにかの魔法で覆っているようだ
「ここの守りは大丈夫そう?」
「そうですのぅ」
聞いてみるとクラーケンも海龍も幼体であれば楽に倒せるが成体であれば倒せはしないまでも撃退程度なら出来るそうだ
ゲーガはそれらよりも弱いが人であれば英雄級とはいかないまでもパーティを組んでの討伐が必要であるし、倒した所で下から回収する手段がない
いや、このおばあちゃんなら絶対やってるよね
「たまに暇を見つけては狩っておるのじゃが・・なかなか減らせて無いですじゃ」
やっぱり
ゲーガは魔法も効きにくいし巨体もあってなかなかに重量があるはずなんだけどな・・・
ここにも食料品を詰めたコンテナと雑貨品のコンテナを置いて商売をしてもらうことにする
決定権はセーセルリーに任せる
「そんな・・こんなしわくちゃのババアに更に仕事を押し付けるなど・・・!幼父は鬼じゃ!」
「ごめんね」
「やっぱりもっと頼ってくれてええんじゃよ?」
この人ひょうきんというか愛嬌があるというか・・偉い人らしいけど偉ぶらないし、こう、人をおちょくって遊ぶ事がある
「それとセーセルリーへのお土産」
「これは?」
瓶を取り出して渡す
「芸術品のように美しいですじゃ・・・・・」
「果物のはちみつ漬けとドライフルーツだよ」
セーセルリーは果物に目がない
この領地だと果物はなかなか入ってこないと思うから持ってきた
それにしても鬼からの前言撤回が早かったな・・セーセルリーは人を笑かしたり驚かすのが好きなおばあちゃんだ
初めて会った時は、かっこいいおばあちゃんだったのに「寿命じゃ・・・お迎えがきたんじゃ・・・・・」とか言って死んだふりするからホントびっくりした
僕はとーさんで慣れてるけどなかなかに悪戯好きで困ることもある
「ほぇぇ・・」
イタリアで買い物した時に見つけたもので果物のはちみつ漬けは桁違いに色がキレイだった
中に入った果物の種類は幾つかあるが詳しくは分からない
しかし赤いいちごが宝石のように瓶の外からでもゆらりとと艶めいて見える
ガラスに近いものはあるけど地球のガラスのように透明度が高いものじゃないしは硝子でできた瓶自体がとても珍しい
まじまじと瓶を色んな方向から覗くセーセルリー
喜んでくれているようで良かった
レアナー様にもちゃんと奉納するから髪の毛くいくい引っ張らないでください
一応セーセルリーは海龍を討伐したし疲れているかもしれない
今のうちに瘴気に蝕まれた人がいる場所に向かう
瘴気は気配でわかるがやはり結構な人が村の外れに居るようだ
村の外れだけど・・・元の村の人数を超えてるね
瘴気を浴びた人間は死ぬとアンデッド化することもあるしこういった隔離措置は必要なのだ
本来はこの領地で治療行為はしていないが僕の領地だし難民は集まっている
「・・・」
「あれ?疲れてるんじゃないの?」
「元気いっぱいですじゃ!」
セーセルリーはテキパキとこの領地の発展や貴族とのやり取りや収益を教えてくれた
クラーケン・海龍・ゲーガの素材の売買をして、それでも赤字らしい
そもそもここの王も無税であることと貴族としての年金もあるはずだったのに僕が年に一度直接取りに来ないといけないからと渡さない
周りの領地も商人に対して大きく関税をかけて儲けている、と
「ぶっ殺してやりたいですじゃ」
「ごめんね、これなくて」
「世界の窮地ですのに来れるわけが無いですじゃ!」
しかも僕が魔王討伐の間も年金話が続いていたようでレアナー教国の勇者領地からの支援でギリギリでやっているそうな
難民さえ見捨てればやっていけるだろうに・・だけどそれはしないっていう僕の方針もある
困らないようにってお金はまとめて預けていたけどここがそうなら他の領地も経営はうまく行っていないのかもしれないな
区別されている区画に行くと・・いつものように悲しいほどに寂れていた
痩せこけた人々に村人と神官たちがその世話をしている
「我らが父、勇者ヨウスケが来られた、治癒を受けたいもの、レアナー教に改宗するものは集まるが良い!!」
いつものように治療していくことにしよう
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