第433話 モンスター
歳三さんは気にかけてくれたのか色んな話を聞かせてくれた
少子高齢化、老人ばかりの日本、田舎社会、結婚の現実、就職、ブラック企業、収入、親との同居、離婚率、不倫、趣味、日本人の生き方
良いことも悪いことも、いろんなことを教えてくれた
もちろん全てが正しいわけではなく、この人なりの視点だろうけど嘘はなさそうだ
<世界が違えば生き方も結婚も、幸せも全く違う・・・とても興味深いですぅ>
歳三さんの身の上話もしてくれた
普通に仕事をしていて、ある日親が病に倒れて介護のために仕事を辞め、農家をしつつ介護生活
一昨年両親が亡くなり天涯孤独に、34歳になって農業をやめてまたサラリーマンに復帰
生活が安定したので婚活に参加してみて失敗続きの1年で今35歳、良い出会いがなく女性不信気味
この会場では最年長、背も低く、事故で顔に大きな傷がある、女性とうまく話せず、低収入
だから今日の婚活は諦めて僕と話そうと思ったそうだ
背の低さや顔の傷、収入の低さは関係あるのだろうか?
目の下から耳の前まである大きな傷、そういえば日本ではこういう傷の人は少ないよね
「この婚活ってのはおかしな奴も多くてな、正直この会場に来るのは今日が最後だと思ってる」
「変な人?普通に話せてるじゃないですか?」
「女性には全然なんだ・・・今日はまだマシだがあそこのチャラ男は女性をとっかえひっかえして遊ぶのが目的で結婚する気はない、あっちの可愛いおねーさんは年収2000万超えてないと相手にもしてないよ・・まぁ今日はまだマシかな?なにせ奴が来てない」
会場を見ながら話していたのだけどなにかピリピリしたスタッフさんが一人の女性に話しかけに行った
「すいません美智子さん、今日のイベントは35歳以下でして・・・」
「だから参加してるんだけど?」
「貴女の年齢だと今日は参加できないでしょう?」
「私は35よ」
「あなた42でしょう!?」
「ちっ、なによ・・・折り合いがつかなかったんだから仕方ないじゃない、せめて若い男じゃないと!!!」
42歳のおばちゃん、見た目もドワーフのようだ
スタッフのお姉さんは笑顔も対応もすごく丁寧である・・後でレアナー教にスカウトしようかと思っている
「だったら年齢を問わないイベント日に来てください!」
「一番若い男を出しなさい!!こっちは客よ!」
一番若い男、僕だ
客、お金を払ってお客様として来ているという認識があるのだろうか?
以前『お客様は神様』という人がいたけどこの人はそういう考えなのだろうか?
とても興味深い
もう帰るかとコートを着ていたのだけど立ち上がる
「あれだよ、このあたりで有名な婚活の魔王だ・・・え?行くの?」
「興味深いですしね」
会場の視線を集めている彼女たちだ
彼女たちに向かう
「こんにちは、どうかしましたか?」
「まぁ、いい男が居るじゃない!?」
「ちょっ!?」
スタッフのお姉さんがどうにかしようとしていたのだけどペシッと弾き飛ばされて尻餅をついた
「年収は?ちょっと離しなさいよ!」
「大丈夫です、ちょっとお話を聞きたくて」
「だ、大丈夫ですか?」
「ふんっ!どきなさいよ!!」
カーペットに座ってしまったスタッフのお姉さんの笑顔が完全に消え、一瞬だけオーガみたいな顔をしたけど美智子さんは全く気がついていない
「お話聞きたくて、あちらの席で話しませんか?」
「わかったわ!」
先程までいた席に行くと・・・歳三さんが彼女の椅子を引いてくれた
「それで、私の何が聞きたいのかしら?」
「今日初めてここに来たんで色んな人に話を聞いているのです」
「なるほどね、あ、これが私のプロフィールよ」
差し出された書類は今日のイベントのものとは少し形式が違うようだ
顔写真・・・だれだろう?
目の前の美智子さんは体つき全体が丸い
写真のスラッとした人とは太さがまるで違う、写真の人が細身のエルフならこの人は太ったドワーフぐらい違う
なにかの手違いだろうか?
名前 遠藤 美智子
年齢 35
性別 女
職業 ソーシャルインフルエンサー
趣味 華道、茶道、琵琶、日本舞踊、短歌・俳句、着付け
その他
なにか渋い顔をして彼女の後ろにいる歳三さん
「貴方は結婚に何を求めますか?」
「一度きりの人生、私は私の素晴らしい人生を謳歌したいわ」
「なるほど」
「貴方は?結婚に何を求める?」
「僕?僕は・・・大切な人と一緒に楽しく穏やかに過ごしたいです」
ふとした日常
黒葉と一緒におにぎりを食べ、はるねーちゃんと体を動かし、ヨーコと一緒に映画を見る
ビルの水道管がどうの、この本が面白かった
あっちのお店のご飯が美味しかった、ルールのシャンプーかえてみた
今日はすごい雨だね、ごろ寝しようか
なんでもない日常
そういう日常を大切な人と過ごしたい
「とてもいいことね!貴方のプロフィール用紙は?」
「帰るところだったのでもうありません」
「仕方ないわね、いいわ、このままでいいから教えてもらえるかしら」
「はい、結婚相談所って、とても興味深いですね」
「そうね、でも今日でもう来る必要はなくなるかもしれないわよ?ふふん」
なぜか鼻の穴を広げてこちらを見る美智子さん
「色んな人が人生のパートナーを探して、相手の外見や性格、趣味に年収、いろんなことを摺り合わせて結婚する」
結婚は向こうの世界ではとても身近なものだった
単純に幸福を求めての結婚だけではない
人々は魔物や飢餓、貴族に瘴気といった脅威にさらされていて簡単に死んでしまう
自分や家族を守るために家どうしのための結婚、愛のない結婚もあった
命を助け合うためだけ利害だけで考えられた愛のない結婚、その内、愛も芽生えることもあるかもしれないが不幸になることも多い
だから僕らレアナー教はそういうのをぶち壊すこともあって国によっては邪教扱いされるのだ
「そうね、長い人生、大事なことよ・・」
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