第405話 里の者


英雄たちの半数はそのまま勇者の魔王討伐についていくことになった


命の恩だ


絶望しかない状況であれだけ毎日ボロボロにされて、そこから助けられて感謝しかない



ここのクソ貴族は頭が全員魔族に成り変わっていた



あの拷問クソ野郎も、まだ生きてやがる


お礼しないといけない



「これ持っていくといいよ」


「「「ありがとうございます!」」」



渡されたのは貴族の館にあった金品だ


全て無くなると領民が困るが、ヨウスケの自由にして良い分は好きにしても良いと渡してきた


そもそも捕まった俺らがマヌケで、勇者から金をもらういわれはない


ただ俺のように金が必要なため闘技大会に出たものもいた


借金ということで借り受けて急ぎ帰っていく


俺も、姉たちに付き添われて里に帰った



だが・・・・もう里はもう里ではなかった



里には誰も残っていなかった


他所の里のものに聞くとこの周囲で瘴気による病が蔓延していることから領主の兵士が全員連れて行ったそうだ



その後どうなったのか痕跡を追うと・・・何人も売り払うか殺されていた



指示した領主は魔族、来たのは正規軍、軍のものはダークエルフを売り払って臨時収入を得て、逆らう村のものは殺された


瘴気の病が流行したのだ、アンデッドになるにしても殺してバラバラにするなりまとめて聖水をかけるなりして対処したほうが良かったのだろう



姉が守ろうとした里はもう無い



作られた墓標に俺も祈りを捧げた



「我らも祈ろう」


「リリアの仇は必ずとりましょう」


「・・・・・ありがとう」



嫌な世の中だ


魔王は邪神から加護を受けて世界を破壊しようとする


勇者はそれに対抗して選ばれるか召喚される


魔王の瘴気によって人も変異し死ぬものもいれば魔族になるものも居る


ダークエルフも瘴気に耐性はある方で魔族呼ばわりしてくるものも居る



ヨウスケはレアナー様の加護を授かっているが直接戦う能力はほぼ無い


その辺の兵士ぐらいだろうか?いや若手狩人よりも弱い、下手したら村人よりも弱い


あのクソ野郎は逃げたらしい


ヨウスケも追いかけられなかった


俺たちが居たから深追いは出来なかった


ヨウスケの弱さに、そしてクソ野郎の生存に俄然やる気が出てきた



領主が魔族だったこともあり、生き残った村のものは奴隷として売られた



彼らを助けるのには金も、権力も居る



ヨウスケは奴隷反対、亜人平等、貴族上等なレアナー教の勇者


しかも大神自らが守護神とまで成った真の加護持ち


奴隷解放には賛成のはずだ




・・・・・姉のやったこともある




せめてあの醜く残った腕と首の噛み跡が治るまでは手助けをしてやろう


ヨウスケは嫁入り前だろうに、私や姉に恨み言は全く言わない



私の全身を治してもらうのにヨウスケには全身くまなく切り刻まれた


まともだったのは頭を上げさせるために掴む髪ぐらいだった


骨の近くまで溶かされた尻などもう治しようがないと思ったが・・・



加護や恩寵を授かった者は人智を超える頑健さを得る


飯を食わずとも1月問題ないものもいれば俺のように壊れない拳を持つものも居る



まぁ握るための腱も、腕の筋肉も抜き取られれば拳が無事でも意味はなかったが



里に帰るのに貰った金は全部ヨウスケに返した


もう金は必要ない


俺の力を貸す代わりに里の生き残りを助けるように尽力すると確約してもらった


レアナー様との約束だ


教国も動いてくれる



助けられた里の仲間には皆こちらに合流してもらう


里はもう外敵からも身を守れない、踏み荒らされた聖域も閉じて里として成り立たない



これだけの恩、返そうにも返しきれない



命と魂の恩は命を懸けて返さないといけない、生き残った里のものの考えも同じで皆勇者のもとで必死に戦ってくれた


戦闘に向いていないものには新たにできた国際連合軍との連絡役や情報収集に一役買ってもらう



苦しい戦いだ


だけど家族を皆殺しにされたのに、その仇敵が生きて良い筈がない


仲間の死に、臓腑が焼けるように怒りが湧き上がって寝られない日もある


里のものは皆、救われはしたが復讐が目標となって笑顔を見ることはなくなってしまった


ヨウスケ自体も力をつけていったし、彼女、いや、彼がいれば俺たちはどんな怪我も恐れることはない


いつか仇さえ殺せば、その時こそ前に進めるのかもしれないな



だけど、ヨウスケは俺達を悲しそうに見ていた

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