第404話 恨みと姉


姉は逝った


何が良かったのか、なんでこうなったのか



この子、この少女さえ居なければよかったのではないか?



気がつけば横に白エルフと狼、他にも捕まった奴らが居た


皆あのクソに目を潰され、戦えぬまでに壊されていた


白エルフは肌が焼け、狼は牙まで抜かれている


スライムの消化液にまみれた俺を背負っていた白エルフは背が焼け爛れ、狼は毛皮が一部ごっそりとなくなっている


一人ずつ少女に治してもらう



黒い目、黒い髪、腰まである長い髪を肩の辺りで結んだ少女


レアナー様が守護している、今代の勇者だそうだ


勇者とは英雄を率いる豪傑が多いが・・・・か弱い小さな子に見える


治療のために英雄の腕一つ持ち上げられていない、非力


知性も感じず、頭も足りてない


どこぞの長命種かと思えば異世界の純人種、完全に子供だ


長命種の俺からしたら赤子のような歳だ


一度の治療で全部治るわけではない、彼女が倒れるまで治療は続く



治す力は本物だ、だけどそれは守護神任せで無理矢理だ



未熟









上半身の肉を治して貰った、少しなら動ける



治療をしたまま意識を失い、前のめりに倒れたヨウスケ





そのヨウスケの首に手を伸ばす





こいつが居なければ





こいつが、魔王がクソみたいに争っていなければ





姉は死ななかったんじゃないか?




細い首だ、苦しまずに・・・





首筋には姉が食って治した傷跡がくっきりと残っていた






・・・・・・・・・








捕まってた奴らは英雄や豪傑という強者が多かった、いつもなら挑みに行っていただろうか?


ただ心にぽっかり穴が空いたようで、ただただ治療に専念する



「あの子には感謝しなくてはいけませんね」


「そうだな、また外に出れるとは思いもしなかった」



この2人には感謝してもしきれない、俺のせいで余分に傷を負わせてしまった


まだお互い消化液の傷跡は治りきっていないが歯や舌を先に治してもらえた


これまで一緒に生きてきて、話したいことがあったなのに


ただ、今は何を話せば良いのかわからない



「すいません、火傷は特に治りが遅くて、治すのにナイフで切ったほうが痛みも少なくて良いのですが」


「好きにしろ」


「痛みを止める薬を使うと後で感覚が狂うかもしれませんが飲みますか?」


「いらねぇ、さっさとしろよ」



腕の皮を削がれ、治癒魔法で少しずつ治される


目を治したことからも能力は高い


だがまだ治せる範囲は極小だ


肩から皮をめくるように切って、治される


ヨウスケは汗を流しながら全神経を集中していて、それだけでも倒れそうだ


周りのやつに聞いてみるとこの異世界人はまだこちらに来て1年と少し、高位神官並みの魔法を使っているのに、まだ力の制御ができていない


歯を噛み締め、魔力の制御に失敗して姉に噛まれた腕の傷跡から出血していた


それでも一心不乱に私の腕を治した





この距離なら以前よりも容易く殺せる





だめだ、わかってる



こいつは悪くない




悪いのはいつだって悪い奴で、こいつは悪くない




2人にも言われた




ヨウスケには感謝しないといけないと




それを繰り返し言われて一瞬怒りで睨みつけてしまって、恨んでいることがバレてしまった




「お前の姉は、死霊になってもなお自我を保っていたが大神とヨウスケが居てよかった、そう我は思うがな?」


「どういう意味だ!?」


「生きたまま死霊になる事例はある、意識のあるまま乗り越えてリッチーやヴァンパイアになるものもいる」



知ってる、わかっている



「死霊化が進むと魂が少しずつ汚染されてしまう、お前の姉は意識のあるまま逝ったそうじゃないか?それも最後は生前の姿で、とても幸運なことだと我は考える」


「・・・・・」


「そうだな、彼女はどこぞの神に仕えていたそうじゃないか?」



よくお祈りしていた


姉はよく結界を見回って「いつもこの里を護ってくださってありがとうございます」そう口癖のように言って祈っていた


そんな姉が好きで、横で一緒に祈っていた


姉に「良い子ね」そう褒められるのが好きで



「シーダリア、お前を守ろうとしたその姉が魂までも穢されてその神の元に行けないなど、報われないではないか」


「・・・そう、だな、わかってんだ、わかってんだけどな」


「ならば」


「わかってんだよ!おねーちゃんはあの子を傷つけた、にも関わらずあの子は助けようとしてくれて、魂まで救ってくれた!!恨むなんてお門違いだ!!わかってんだよ!!?だけど!この虚しさは、この憎しみを誰にぶつければいい!?なぁ!!?教えてくれよ!!!」



理不尽に当たってしまった


子供のような癇癪、自分でも情けねぇ


だけど考えちまう、あいつが居なければ、姉は死ななくて、まだ里でいつものように編み物をして、結界を見に行って、一緒に笑えていたんじゃないかって



「シーダリア・・お前に話しておくべき話がある」


「なんだ?」


「お前の姉、ルーリリア、リリアはお前を私達に託した、もしもお前が道を誤りそうであれば私の代わりに姉として助けてほしい、と」


「は?なんだよ・・それ」


「お前が拷問を受けている時、我らは交代でリリアのもとに居た」


「あの魔族がリリアにシーダリアを殺させようとしているのはわかっていましたしね、リリアが狂わないように話し相手をしていました、わずかではありますが彼女に浄化の術を使っていました」


「何故姉としてと言われたかはわからん、だが約束した以上、我らはお前の姉としてあることとした、お前の姉のことを、我らの姉のことを教えてくれるか?」



感情のままにすべてを吐き出した


自慢の姉で、優しい姉で、死んでほしくなかった、ずっと生きていてほしかった、俺よりも長生きしてほしかった、もうすぐ姉の祝言だった、幸せでいてほしかった


わんわんと幼子のように泣いて、2人に姉のことを日が暮れるまで語った

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