第166話 助けられた信徒


今日もレアナー様に祈る



―――・・・・・本当ならあの日死んでいたと思う



父と母は人間のクズで酒浸り、気が向けば僕らを殴る



「神田の家には関わるな」学校ではよく言われる、当たり前の話だ


給食費だって払えていない厄介者だったと思う



ねぇさんも働いていい年齢じゃないし僕もそうだ


だけど働かないと食べれないから工場で頼み込んで雑用をさせてもらっている


お金としてはちっぽけなぐらいだろうけどそもそも働いていいわけではない


ねぇさんが頭を下げてありがとうって工場長に言っていたからこれでいいんだと思う


ねぇさんは朝から晩まで働いている


新聞配達や飲食店でのバイト、工場でも働いている



「ほら今日はこんなにもらえたよ!」


「「わーい!」」



ねぇさんは自分だってお腹が空いているのに僕たちにバイト先で貰ったものだって持ってきてくれる


僕たちには布団はないから捨てられていた毛布一枚で一緒に寝る


ねぇさんのあかぎれた指先を見ると心が痛む、肩を揉もうとしても肩が固くて全く指が入らない


ねぇさんが卒業さえしてちゃんと働くことができるようになったらもっとちゃんとした暮らしが出来るらしい


それまでねぇさんと僕と妹の莉子の3人で頑張ろうっていつもやつに隠れて言っていた



「お?いいもんくってんじゃねぇか?親に隠れて何してんだお前ら?」



ねぇさんが持って帰ってきたバイト先の料理をやつが食べてた


莉子は殴られたのか部屋の隅で固まっている



「や、やめろよ」


「あぁん?」



ねぇさんにはやつには逆らうなって言われている


ねぇさんは昔こいつにつけられたタバコの丸い痕は残っている


こいつの機嫌が悪いとずっと殴られる


何度か警察の人が来たが、その後は酷いことになる


警察の人も役所の人も助けてくれない



逆らうなんていいことは一つもない


だけどそれは、その料理はねぇさんが僕たちのために貰ってきたものだ



「それは僕たちのだ!酒だけ飲んでればいいだろクソ親父!」


「このっ!親に向かってなんて口を利きやがる!」


「がっ」



振りかぶった拳で殴られてしまった


どうしても我慢できなくて言ってしまった



「でかい口叩いてんじゃねぇぞ役立たずが!!」



我慢できなかった


ずっと怯えた暮らしに、痛みを堪えて学校に行く生活にも


なによりもねぇさんが笑って暮らせない生活に



「おらっ!謝らんかい!!ボケがっ!!!」



前にニュースで見た


僕みたいに虐待を受けている家庭で子供が大きな怪我や死んだりしたら親は警察に捕まるし残った子供は施設に預けられるんだって



「親に!向かって!この!出来損ない!が!」



何度も殴られ、蹴られ、踏まれた



「何笑っとるんじゃ!はぁはぁ、役にも立たんお前らを住まわせてやってるだけ感謝しろ!」



何度も何度も殴られて、痛みもなくなってきて、これでこんな生活から抜けられると嬉しくなった


もしも、僕が死んでもねぇさんは、莉子は笑って暮らせるだろう


少なくともご飯は食べれる



「・・・・はは」


「お前なんぞ産ませるんじゃなかったな出来損ないの屑が」


「光太!大丈夫!!?」



まずい、ねぇさんが帰ってきた


痛い、痛くて堪らないのにねぇさんが心配で、でも身体は動かない



「お前の教育が悪かったからこうなってるんだよ、お前のせい、だ!」



ねぇさんが殴られた


悔しくて、我慢していればよかったと後悔した


誰だっていい、ねぇさんを助けて、神様、いるなら僕の事はいいから、ねぇさんは、莉子は助けてよ




「何やってんだゴルァっ!!!!!」



ねぇさんを殴っていたクソ親父が吹っ飛んでいって、僕の意識はなくなった




同じアパートのおっきなお兄さんに助けられた、らしい




「すいやせん、厄介を持ち込んじまって」


「いや、いいよ、子供は護るべきだからね、君たちはレアナー教に助けを求める?」


「はいっ!この子たちだけでもお願いします!」


「わかった、おねーさんはいいの?うちで働くならこの子たちのことも見れるでしょ?」


「いいんですか私まで・・?」


「うん」


「一生懸命働きます!よろしくお願いします!!!」


「六太も気にしなくていいよ、子供を護るのはレアナー教では当たり前だしね」



彼が杖を僕に向けると動かせない身体が楽になった


六太兄ぃはもっとはやく助けられればよかったって僕たちに謝ってきたが六太兄ぃが謝る理由なんてどこにもない


むしろ僕たちをあの家から連れ出してくれて助かった



あのクソ親父とは二度と会いたくない



だけど次の日には警察の人達もきたし「子供を返せ」とか心にもないことを言うクソ親父も来た



「ふざけないで!光太はあんたが殴って死にかけてたんだよ!??莉子も私も殴られました!なんで警察はそんなやつを連れてくるのよ!」


「いや、しかし、お話を聞きたいのです、ご同行をお願いできませんか?」



ねぇさんがレアナービルの前で上着を脱いで下着のまま背中を警察に向けた



「12回!警察署に助けを求めに行きました!この傷はそいつにつけられたものだって見せました!」


「悪い友達にやられたんだ!俺じゃない!それよりも俺は親だ!誘拐だろこんなの!!」



洋介様はまだか!?そう後ろで聞こえる、僕はこれ以上前に出るなって大人たちに掴まれている


今、元杉様はいない


レアナー様は11歳以下なら絶対にまもってくれるらしい



騎士だろうと警察だろうとレアナー教徒がみんなでまもってくれる



だけど11歳を過ぎているねぇさんはレアナー教徒だけど護られるだけの存在ではない


一度連れて行かれたらどうなるかわからない


ここの一番偉い人は元杉様だ


他の人になにかあったら元杉様が問題になるかも知れない


だから下手に動けない



「しかし我々も仕事でして」


「なんの騒ぎ?」



元杉様は歳の割にちっさいけど強い


警察が僕たちを引き渡してほしいとか言ってきていたはずなのに元杉様が来た途端に黙った



「新興宗教の詐欺師が何しに来たんだ?!俺は俺の娘をとり返しに来たんだ!お呼びじゃねぇんだよ!」


「元杉様、すいません」


「神田さんは帰りたいの?」


「絶対に嫌です」


「だってさ?話は終わりだよね?帰ってよ」


「ふざけんなよ!そいつにはこれから稼いでもらわんといけねぇんだよ!それとも何か?レアナー教はこいつに稼がせてんのか?見てくれはマシだしな!体を売らせてんなら親の俺にも金ウォガッ!!?」



クソ親父は目にも留まらぬスピードでボコボコにされていた


元杉様の影がクソ親父の周りをパパパッと動いたと思ったらクソ親父は崩れ落ち、元杉様は元の位置に戻っていた



「いでぇっ!?い、今の暴行罪だろ!!おい、お巡り!?」


「ほ、本官は何も見ていない!」


「わ、私も!!」


「てめぇら、ふざけんなよ!?クソが!!」


「本官に暴言を吐いたな!公務執行妨害罪だ!」


「は?」


「確保!」



奴らを追っ払ってからねぇさんのタバコの痕や傷跡、それとあかぎれを治してくれた


「怪我してるなら言ってよね」と言っていたが普通は怪我って簡単に治せるものじゃない


軽く言う元杉様だが普通こんな事はできない、この人についていこうと思った



だけどこんな強い元杉様だけど勉強はできない



一緒にレアナービルで勉強しているが文字は汚すぎて読めないし掛け算も割り算も出来ていない


俺たち兄妹は学校に通ってレアナービルに帰ってきているが元杉様は逆でレアナー教で働いてから勉強を教えてもらっている


春日井様と六太さんにスーパー銭湯に連れて行ってもらったときに教えてもらったが異世界で何年も過ごしたから勉強できなかったらしい


体を見て唖然とした


僕たちもクソ親父に殴られて傷があったんだけど比じゃなかった



「生傷はすぐに治るんだけど何度も大怪我したら傷跡が治るのはゆっくりなんだよね」



それだけ苦労してきたんだろう



六太兄ぃはよく僕たちに目をかけてくれる


もともとアパートで2.3回話しただけなんだけど僕と名前が似てるって目をかけてもらっていた



慣れないビルの暮らしを住みやすいように教えてくれる


仕事の合間にベッドを作ってくれたり、料理を取り分けてくれる


ねぇさんのことを「綾野ちゃんに似てたんだ」とか言うがたまに写真を見ているところをみると付き合っていたけど別れた相手とかなのかもしれない


ねぇさんに六太兄ぃさんは独身であると伝えると頭をひっぱたかれた

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