第165話 夏といえば花火だ
「聖下、こいつ、この霊団の術者じゃありませんか?」
「・・・・」
どうしたのさ
ケーリーリュが阿部さんの足を掴んで引き摺ってきた
聞いてみるとなにやら怪しげなものをぶつけられてそれが目に入ったらしい
なんかケーリーリュ、目を擦ってるしひどい匂いがする
渡されたものも呪具のようなものが多かった
怪しい、のか?お守りの類いにも見えなくもない、後で黒葉に聞こう
店主さんや従業員さんたちと話して考えていたことを話してみる
この5年ほど経営がよくなくて旅館を閉鎖しようと考えていたそうだ
なのでうちの専属になるように説得してみた
「レアナー教で働きませんか?」
「というと?」
「レアナービルからも近いしみんなの休憩ができる土地がほしいってのもあるんだけどさ、偉い人がきたら治療待ちでめんどくさいことがあるんだ」
吾郷たちがきた時もそうだったんだけど世の中を動かすレベルの人間は特別扱いしている
治療の順番や内容に貴賤はないといいたいところだがそうではない
レアナー教が守られるためにも便宜を図ることは人間という社会の中では必要である
行列に並ばれてる間にその人達が襲撃にあえばこちらとしても困る
「安全面を考えて完全にうちの専属になるし宿屋としては一度閉鎖することになるけどお客さんはうちの信徒や偉い人はいっぱい来るようになると思うよ」
「レアナー教に資金はあるのですか?こちらとしてはもう店を畳むだけと思っていたので願ってもない話ですが従業員にも生活はあります」
「1000億ぐらいならあると思うよ」
「思うとは?」
「アタッシュケースにいれたまま収納にいれてるし・・いくら持ってるかは分かんない」
収納からドカドカと五つほどケースを取り出して開けていく、それと金貨の詰まった箱も開けて見せた
何人も大富豪さんが来たしすごい金額があるはず、使うあてもないしここはちょうどいいのだ
慰労にもなるし警備しやすい立地
どんな人だろうと治癒してすぐは結構暴れる、ここの従業員さんは偉い人の対応をしていたんなら慣れているだろう
できれば施設ごと買い取る形で店主さんたちにはお給料を出すようにできればいいと思う
ケースを開けるごとに店主さんの表情がヒクついている
「で、では偉い人とは?!こちらとしても保証してくれる方がいれば安心出るのですが」
「吾郷でいい?」
「吾郷・・・?」
「総理大臣、知らない?」
「・・・・・従業員一同、末永くよろしくお願いします」
吾郷に「いつでもいい」と言われていたし電話をかけようかと聞いてみたのだが止められてしまった、なぜだ
「うぅん」
阿部さんが起きたようだ、腹を抑えながら青い顔をしている
「起きた?阿部さん?」
「・・・少年、すまなかった」
「なにが?なんで怒ったのかよくわかんないんだけど」
なんで怒ったのかは察しが付くけど一応聞いておく
またレアナー教なんて嘘だーとかそういうのかな?レアナー様が認められないって言うなら全面戦争なんだが
「超常の証明をしているのに常識にとらわれて無条件に拒否し、傷つけてしまった」
「謝罪を受け入れます」
全く傷はついていないのだがこういうときは「わかった」とか「うん」って答えるよりもしっかりと答えたほうが本人にもその周囲の人間にもいい
「それとよく覚えていないのだが私は死ぬのだろうか?よく覚えていないが腹が死ぬほど痛い」
全く動けていない阿部さん、冷や汗もでているようだしお腹を見てみると拳の形がくっきりと見える
「ケーリーリュ?」
「害のない幽霊越しになにか投げられましたので、一発殴ってしまいました」
修行中の事故だし仕方ない
杖を取り出して阿部さんに【治癒】を打ち込む
「おぉ、これが治癒・・・?これはどういう原理なんだろうか?この治療のカスケードは?」
「まって、カスケードって何それ」
カスケードっていうのは簡単に言うと順序とか効果って意味だった
薬を飲むとどこにどうその薬効が働いてその結果どういう変化が体内で起きるのか
難しい言葉で意味不明だったが3回目の説明でやっとなんとなくわかった
幽霊に限らず色んな話をした
SFの領域だったり、はるねーちゃんの魔道具についてだったり、ケーリーリュさんについてだったり空中浮遊や幽体離脱についても語り合った
僕としては魔力でシュッとしてバーっとしてるんだけど
「痛みには10種以上の表現があるように魔力の使用方法もそういった擬音が適用できるのならそれを理解して分析できないだろうか?いやそれよりも先にこの魔道具の素材を成分分析し魔力という未知の要素がどのように影響しているのかブツブツ味はブツブツブツそもそも魔力とはブツこれを分析すればブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」
よくわからないがはるねーちゃんに渡した魔道具と同じものを渡すとブツブツいいながら目を見開いて固まってしまった
「洋介・・・もうあんたって子は・・・・・」
「いひゃいいひゃいいひゃい」
やけに疲れたようなはるねーちゃんがやってきてほっぺを引っ張られた
なんとか謝って許してもらえたけど後悔も反省もしていない
修行では手に入らないものは多い
間合いや踏み込み、奇襲に魔力のこめ方と言った経験値は実戦でしか得られない
地面のぬかるみといった足場の悪さや視界の悪さもない
建物内だから崖から落ちる心配もないし、他の魔獣に襲われることもない
ほっぺが赤くなるまで引っ張られた後は外に連れ出されて花火をしている
「そうだ、花火出しなさい」
「花火?」
「ケーリーリュが帰る前に見せたくて」
花火ってきれいだな
神官たちの【清浄化】も綺麗だけどこれは別の綺麗さがある
<わー綺麗ですぅー!これはなんですぅ?>
「普通の花火です」
煙玉でカラフルな煙を上げたり・・ヘビ花火という謎の花火を見もした
煙玉を見てヨーコとケーリーリュは「合図に使えそうですわね」とか「毒のように撹乱に使えそう」と言っていた
花火だからね、見て楽しむものだからね
<これは美しくないですぅ、何がいいんですぅ?>
「僕もちょっとわかりません」
光り終わった花火の柄でツンツンしているがこれは終わったのだろうか?
ロケット花火をしていたら楽しんでいるらしいヨーコとケーリーリュはお互いに打ち合って飛んでいくロケットと並走して観察していた
「私はこれが一番好きですね」
「線香花火?だよね?」
「そうです、人みたいで儚いような、でも確かな綺麗な美しさがあって好きなんです」
<儚い?>
「終わるとわかります」
黒葉の持つ線香花火は先端の小さな光の粒から不思議な光の線が舞い散っていき、段々と光は減り、最後には燃え尽きて落ちる
<人の一生のように見えるのですぅ、人は生きて死ぬ、その間に周りに様々な光を世の中に残しますぅ>
<不完全で、愚かで、勇敢で、何かをするのには良い影響も悪い影響もあって、光っては散り、消えていくのですぅ、だからこそ愛のある生き方をするのがいいのですぅ>
難しいような理解るような
レアナー様は産まれた赤子を見るように慈母のような眼差しを線香花火に向けている
いつか僕にもわかる時が来るんだろうか
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