第123話 ルール


ミャー


「おお可愛いな、大きくなれよ」



私が鳴くとこの人間はよろこんだ


大きな手で撫でられると気持ちがいい



「私よりもおっきくなれよー!」



今日も私は乳を吸う


俺は一緒に生まれた兄弟の中で一番大きく育って狩りにも早く連れて行ってもらえた


大きくなって親のように人を乗せることもできる


仲間と狩りに行くのも楽しいが人間たちと行くのも面白かった


仲間とだけ行くと肉だけだが人間たちと行くと実もくれる



一度、外で実を見つけて食いに行くと親に怒られた



あれは人間たちが作って育ててるようだ


親たちに怒られたがあとで大きな男にいっぱい貰えた



「すまんなぁ、お前はまだ若いのに腹が減ってたんだよな」


「ミャー!」


「ははっ、くすぐったいな」



この男はいつも飯を持ってきてくれる


たまに男が親に乗って屋敷の外に走りに行ったりもしてついていくのも楽しかった


まだ小さな人間ぐらいしか乗せられなくてこの男は無理だ



「この屋敷よりも大きくなれよ、よーしよしよし!」


「コルルルル」



頭を撫でられるのが好きだった



「こいつは派手でもなく隠密に向いた毛柄でもない、もったいないですな」


「いや、俺の大きさに耐えられるミャーゴルは貴重だ、大きければ大きいのも良い」


「ですが大きくなってもこれまでの大きめのミャーゴルとそこまで変わらないかと」


「まぁそういうな、それにこいつの力強さは大きさだけじゃない、魔力も使ってるようだぞ」


「・・・・・跡取りのグナイ様には見栄えというものも大事なのですが」


「ははっ、そんなこと言ってトゥガールもこいつに乗りたいだけだろう?」


「ばれましたか」



グナイは俺たちにのる男たちの中で一番大きくて、それでいてなにやら偉いみたいだ


肉を食い、実を食い、いつの間にか親たちよりも大きくなれた


仲間で一番速く駆けることが出来たし、一番うまく獲物を狩ることができる


仲間には見えないものが見え、空中を何歩かだけ踏むこともできる



男との狩りは楽しかった



自分だけでは倒せないものをこいつといれば狩れる



「なぁ、俺はさ、ほんとは領主なんかよりも門番になりたいんだ、わかるか?」



この男はよく喋る、特に自分に乗って駆けてるときや飯を一緒に食う時によく喋る、喋っていた



「トゥガールも父上も領主になんかなりたくないと裏で言うが本当なんだ、嫌な貴族共の相手をして、今の俺みたいに前に出してもらえないそうだ」



ペディの実をかじりながら聞く



「たまに来てた勇者様なんて異世界の人らしい、こっちのしがらみなんぞ無視して魔王を倒そうとしてる、まだ14か15か、俺の息子よりも年下なのにな、お前を撫でてた息子だ、わかるか?」


「ゴルル」


「子供が戦わなきゃいけないのなんて最悪だろう、それも異世界では刃物一つ持ったこともなかった子供がだぞ、俺達の世界の騒動に巻き込んじまってさ、みてられねぇよ」


「ゴルルルルル」


「俺よりも領主には叔父上や弟のほうが向いてるんだ、向いてるやつがやった方がいいに決まってるのに加護や血筋や生まれた順がどうとかさ、そんなこと考えるぐらいならもっと戦って生き残ること考えろってな、いくつもの国が滅んでるってのに、こら、くすぐったいって、ルール、こら、ははは」



だいたい何を言ってるかわかるが興味はない、難しいことはわからん


ブツブツ言い始める前に尻尾で首のところを擦ると話が終わって良い


グナイといるのは楽しかった



だけどオークに殺された


強いオークが敵で自分もやられた


自分の折られた骨などよりも、グナイが殺されたのが、悔しかった



「そんな顔するなよ」


「ゴルル」


「お前は、生きろよ、ルー・・ル・・・・・」



最後に触れられた手はもう動かない、何度も見てきた



これは、死だ



憎い、豚が憎い


群れの中で治す者に治してもらい、豚を焼いている群れの仲間たちから離れる


自分は群れに戻らず、一頭ずつ、豚を殺していった、生きる価値など豚どもにはない


痛む骨を無視して一匹ずつ慎重に狩っていく



長い間、豚どもを狩っていた


奴らを狩るまで帰らないつもりだったがグナイの住む街の、グナイの巣から臭いがした



どこからかわからんがあの時グナイを傷つけたやつの臭いだ


久しぶりに巣に帰る


豚を襲った後で自分も傷ついている、治す者がいれば良いんだが




治す者がいたので治してもらえた、まだ完全ではないが大分ましだ


近づいてきた人間から臭いがした


まだ自分の傷は治りきっていない




グナイと戦った豚の臭いがかすかだがはっきりする、グナイの武器と一緒にだ



今すぐにでも喉笛を掻き切りたい



だが治す者を護るのも俺達の仕事だ、後で狩ったほうが良いかもしれない


真っ赤に染まるような怒りの中でそれだけは守ろうとした、グナイならそうしていた


だが豚の狙いは治す者だ


別のものが狙いではないのならば戦闘は避けられない、ならば遠慮はいらないはずだ



ゴルルルルルルァッ!!!!!!



俺もあの時よりも強くなったが豚は更に強くなっていた


グナイの槍を使っているのが腹立たしかった、だが負けた


せめて治す者が無事なら良いんだが



もう動けない、それはわかっていたが「あきらめるな」ってグナイが言ってるような気がして、僅かに動く足一本でも這って行く


グナイがちらついて見える



ユーシャが来た


何か、耳の長い人間と話している、だが今はそんな余裕はない


やつを倒したい、追いかけたい



「わかった」



なにかユーシャがつぶやいた、そういえばこいつは戦うものでもあるが治す者でもあった


そして意思が伝わりやすいものでもある、多分ユーシャは人間の形をした仲間なんだろう


「ルルルォ」


オークは主の仇だった、負けて悔しい、やつを殺したいと精一杯伝える



まだ俺はやれると先程よりも力強く前に出る



「治したらそのオークと黒葉を追える?」


「ルルルァっ!!」


勿論だ、役に立って見せる!だから治してくれ!!



ユーシャの治す力は凄まじく、傷はすぐに治った


これまでにない速さが出せるし、何かを注いでもらうと自分の殻が破れていく気がした


臭いを追って走る


グナイの街は傷ついた者だらけであの豚を許せない



グナイが護ろうとしたものまであの豚は傷つけるのかっ!



地を駆け、壁を蹴り、空を疾走った



「ルルォッ!!」



やっと追いついた、俺が噛みつこうと思ったがユーシャが斬りかかるのがわかる


ユーシャはグナイよりも強い、自分が攻撃するのをこらえて斬りやすい駆け方をする



治す者が心配だ


後ろから飛びかかろうと回ってると壁に阻まれた


噛みつこうとしても引っ掻いてもびくともしない





何も出来ないのかっ!この豚に・・・神よ!!!!!




<****  *** ********  **********  *** ****>




何かが聞こえた


頭に直接はいってきて気味が悪い


だが意味がわかってきた



ユーシャを助ける事ができて、あの豚を殺すことができる方法がある



すぐに集まった豚どもの上を駆け抜ける


空を駆け続け、自分の祖たる神が加護をくれたとわかった


はじめは意味がわからなかったが頭の中で馴れ馴れしく話しかけてくる



洋介にも加護をあげた神でもあるらしい


やはり勇者の洋介はミャーゴルの一匹だったか


どんどん自分が変わっていく、進化している


とにかく洋介に貰った魔力で空を疾走る



目的は人間だ



あの膜の中で戦うことが出来る人間がいるらしい


他の街でその人間を見つけるとその人間に剣を向けられた



「何?ミャーゴル?誰の差し金?」


「ルルルル」



祖先の神様!どうしたら良い!?



「加護付き?どこかの貴族か」


「敵襲!敵襲!!」


「ミャーゴルがいるぞ!!乗り手を探せー!」



睨み合ってるあいだに人間が増えていく


神がいうには今なら人とも頑張ったら話せるらしい


短く伝えるのが良いらしいけど言葉で伝えるってどうしたら良いんだ?あの豚がグナイを殺した時の話からしたら良いのか?


頭に聞こえる通りに話せって言われた



「ルル、ルルルゥ。ゥー、ユー、ユーシャ、ヨスケ」


「喋れるの!?霊獣クラスじゃない!」


「ア、ブナイ、ルル、タタ、タテル、ツレタク、カミ、イテル」


「元杉が危ないの?武器をおろしなさい!」



なんとか話してもらえた、意味は分からないが必死に神の言葉を話す


向けられた武器は降ろされ、俺に乗ってくれた女、急いで戻る



「急いで!」


「ルルォ!」



青い空から色の変わった空に焦りが湧いてくる、とにかく速く帰らないと



真っ暗な中帰ると光る膜の中で戦ってる豚を見つけた



「私の言う通り飛びなさい、あのオークを殺すためよ」



素直に街の中に遠回りで入って豚のいる門に近づいておろした


もう体が限界だが集まっている兵士に飛び込むように走っていく女を追う


ガクつく足にいうことをきかせて戦いに行く



群れを押しのけて前に行く、大きな衝撃を膜から感じた



モクモクした煙はあの豚の顔から上がっている


勇者はおもちゃのように吹き飛んでボロボロだ



あの女はどうした!間に合わなかったのか!!?



結界の前まで歩いていって頭突きする


びくともしない


だが押しているとふっと膜が消えた


あの豚の首が飛んでいた



転がる槍に近づいていくと今度こそグナイの顔が見れた


いつものグダグダ言った後に自分の尻尾で困ったように笑った、あの優しいグナイだ


優しかったあの手に頭を入れると撫でてくれて、ふっと消えてしまった




「・・・・ルルルォ!」



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