第119話 無力と開放


気がついたら体ごと握られていた


あまり声が出せない、腕の両肘よりも上で掴まれていて、息も吸いにくい

多分肋骨も折れてる



私のことはいい、目の前で何度も傷ついてる元杉神官が酷い目にあってる



何度も刺されて、斬られて、殴られて、打ち据えられて



傷だらけに血だらけでとても見ていられない


なんとかしたくてもどうすることも出来ない、元杉神官が剣を振るおうとしても私ごと前に出されて邪魔になっている


私が人質になってるから手の打ちようがないのだ



周りを見ると兵士やオークような化け物がいる


痛む頭に痛む胸、身動きの出来ない私



なにか、なにかできることはないか



「グッフフ、勇者といえどもこんなものか」



私を握った化け物に腹が立つ、後ろを蹴ってもまるで意味は無いようだし噛もうにも口が届かない



振り回されて目が回る、気絶してしまいそうだ



どうしようも出来ないのかと全力で体を動かすが外れもしない


握られているのに痛みはない、だけど全く抜けられそうにない



アァ!アァ!アァ!


ガンガンガン!ガンガンガン!



突然兵士たちが叫び始めた


叫び声の中に「聖下」や「勝ってくれー」と聞こえる



「グフフ?どうだ?勇者よ?貴様を応援してる声が聞こえるぞ?」


「ハァ・・!ハァッ・・・!!」


「だが残念だったな、貴様の血は俺の力になる、長引けば俺はどんどん強くなる!!」



うるさいうるさい!元杉神官を傷つけるな!


必死に考えるが私には今どうすることも出来ない



「お前を殺したら兵士共も殺してやる、寂しくはないだろう?グフフフ」



兵士たちの叫びに違和感を感じた、なんだ?



ズダン、ガーン、ズダン、ガーン



翻訳されない、なにかの叫びが聞こえる


兵士たちの中にちらりと遥が見れた


何かを叫んで腰に指を指している?



なに?



あっ


私にできることはあった


身体が洗濯機の中のように動いてる中、手探りで目的のものに触れる

あった!でもテストは出来ない



遥の方を見て、目を合わせる



遥は剣と盾を持って頷いた



私にもできる、だけど痛む頭と胸



だからどうした



これをやるのは怖い、下手したら死ぬかもしれない



だからどうした!!やるんだ!!!



空いてる片手の指を広げてカウントする


遥が気付いてくれると信じる



5.4.3.2.1......0!!!!!


バチチチチチッッ!!!!!


「グォォガァアアアアアアアアアアアア!!!??」


「けほっっ!?」



収納袋のスタンガンを押し当ててやった


握りつぶされるかと思ったが不思議と痛みはない、弾けたように投げ飛ばされて遥にキャッチされた



「洋介!私は魔道具で大丈夫だからやっちゃいなさい!!」



元杉神官は膝をついて自分と私達に魔法をかけてくれた


胸の痛みが引いていくが動けない、視界が揺れている

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