第106話 夜会
お風呂を上がって着替えるとすでに大広間で待ってる人がいた
ドアはなく大きく空いた入り口、建物の様式の違いにこっちに戻ってきたんだなと思えてしまう
中の人々の視線は僕に集まっている、暇な貴族達だ
「ハルカ様、ナミ様、聖下の手を」
「ケーリーリュ、だめ、ふたりともついてきて」
「うん」
部屋に入ると一瞬でわぁっと貴族の人達が歓声を上げた
僕は正直この人たちが「貴族」っていう生き物が好きではない
どこの国に行っても礼儀がどうとかしつこいし、僕に礼儀を求めるぐらいのなら「自分たちで魔王の討伐に行ってよ」と少しは思うこともあった
そのおかげで僕にもチャンスが出来たんだから悪くはないけどね
神や人、精霊には多くの位が存在する
一番偉いのは神であり、その神に従属した他の神や精霊が次点
次に王や教皇、皇帝や部族長といった集団の代表だ、うちのレアナー教には聖王がいる
王たちの多くの場合は神や精霊による加護を得ていたり加護を受けた末裔が人間社会の頂点に立っている
勇者はその上、つまり次点の従属神と王の間に位置する
僕の立場は「聖下」と呼ばれ、レアナー教国の「聖王」の上か同じぐらいの権威を与えられる
国によっては自分の崇める神ではないしこの順位は絶対ではない
神殿では吾郷のような総理大臣のような神官をまとめる「神官長」
地方の神殿の長である「神殿長」
王や神官長、神殿には大臣や管理職のような立場の「大神官」という部下が付き、さらにその下が一般的な「神官」である
貴族の社会も神殿に似た階位があり、大臣や貴族、士族などが存在するらしい
この世界出身の勇者なら地方の貴族や別の神殿に頭を下げていただろうが、僕はアオキチキューとかって呼ばれる異世界出身だ
常識知らずを盾にマナーがあるとわかった上で無視してきた
マナーを学ぶ時間があれば何人も治せる
なのになんでこの人たちがそうしないのか不思議でしかない
もちろんそういう人ばかりではないのもしってるけど
「ささっ、聖下、こちらへ」
奥の椅子に連れて行かれたのでそこに座る、横にはるねーちゃんと黒葉が座りケーリーリュは僕の後ろに立った
それはいいけどヒゲのなくなったリクーマを見てる周りの貴族も面白い
あれだけヒゲモジャだったのにツルツルになっててね、黒葉なんかはお風呂上がりにジロジロ見てて面白かった
「魔王討伐おめでとうございます、我ら貴族一同、民の代表としてお礼申し上げます、聖下におかれ・・」
挨拶されたりするのは疲れるし、覚える気はない
流石に眼の前の領主の挨拶ぐらいは聞くけど耳には全く入ってこない
「こちらは私の息子夫婦と孫夫婦です、こちらが・・」
「あれ?奥さんは?」
「はっ、我が妻アリージュは長男グナイの死に嘆いておりましてな、占い師のところにでも行ってグナイの来世を見てもらうなどとたわけたことをぬかしてまして・・いえ、すいませぬ」
「そう、グナイが・・彼が戦ってるところは見たことはあるけど勇敢だった、彼はこの地に恥じない働きをしたんだろうね」
「おぉ聖下にそう言われるとは・・家督を譲ろうとしておりましたのにわしのほうが死に損ないましてな」
戦ってるところは見たことがある人だし、残念だな
リクーマも戦場では斧と盾をもって戦っていたが見た目は背の高めのドワーフ
だから純粋な人種なのにドワーフと間違えられるんだって話したりもしてね
「そっか、気を落とさないようにね、僕から挨拶いい?」
「すみませぬ、歳をとると涙もろくなってしまって」
泣いてしまったリクーマを下がらせて僕も席を立つ
収納から杖を出して床をとんと叩く
「勇者洋介、レアナー教で聖下なんて呼ばれてます、僕はこちらでいうあおきちきゅー、異世界人で、こっちの2人も僕が連れてきた、こっちのマナーは求めないようにね」
いいながら広間からテラスに向かっていくケーリーリュが2人を連れてきてくれて助かる
【清浄化】は昨日も空に立てたけど今日も空に向けてぶっばなす
今日は雲がないのが少し残念
気合を入れていつもよりも魔力を込める、しばらく光の粒が舞うのが綺麗なのが好きだ
それに街の中なら安全に気を使うこともあんまりないしね
「「「おぉー!」」」
「キャー!聖下ー!!」
「・・・・・」
光の粒を呆然と見つめてる人もいる
「洋介、これ花火みたいで綺麗ね」
「だよね!僕のお気に入りなんだ!」
「元杉神官、身体は大丈夫ですか?」
「うんっ!」
褒められて嬉しかったので周りの山にもぶっ放す、山に当たると山に浸透する分もあるがぶつかった清浄化が飛び散って花火のようだ
光を見てるはるねーちゃん達
僕もこっちでこれをやれるようになってから綺麗だなって思ってた
同じように思ってくれてるなら嬉しいな
「ほぇー」
「・・・・・」
黒葉はスマートフォーンをがっちり使ってる
本人が嬉しそうだからいいんだけどね
あ、そうだ!はいりょだ!はいりょ!!
黒葉の前に立ってカメラに向かう
「こんにちは、レアナー教の洋介です、この光は僕の魔力で出来ていて瘴気っていう空気に混じってる悪い物をなくして魔物を倒したりも出来ますー!健康にもよくて、怪我が治りやすくなったり確か肌にもいいらしいですー」
いえーいって感じで【清浄化】について説明した
はるねーちゃんが僕を後ろから僕の脇のところを抱っこして振り回してご機嫌だ
花火大会のときとかよくこうやって見てたなぁ
光が散っていく夜空が綺麗だ、あんまり長い時間光ブッパ、じゃなかった【清浄化】使うと眩しいって旅で怒られてたし追加で撃つのはやめておこう
「ふふっ、キレイだったね、踊ったりしないの?」
「僕、踊れないし神殿帰って教えてもらおっか」
「わかった!奈美もね!」
「え、あ、私、運動神経とか・・でも、うん、踊ってみたいかも」
もう顔を見せたし帰ろっと
「聖下!うちの息子を婿にどうですか!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます