第70話 苦難のテレビスタッフ


世の中は奇跡の病院で持ちきりだ


闘病の末に癌を克服するってテーマだけでも視聴率は稼げるのに今回のは「突然その日何人もが同時に治った」っていうあまりにもイカれた話だ


普段なら調べる価値もないが出てくる情報が「治っている」というもの


じゃあ病院が買収されて奇跡の演出してるんだろうとも思うがそれはそれで高給取りの病院にはメリットはないし病院関係者の表情に嘘はない



奇跡の病院、光の柱、光人間、光るビル、どれも薄いとは思うが関連性がある



もちろん全てに網を張っているが捕まるのは登仙病院の院長とスタッフ、それと患者のみで重要人物は捕まらない


光人間内田は消えた、ぱっといつの間にかいなくなった


いないものはしょうがないと登仙院長の会見を待っていたのだがその院長も倒れて取材に行けない


最後の有力な札は光るビル周辺で見られる魔法少女


空を飛んでいる光景が何度か映し出されていたし、空を飛んでビルの窓を拭いている画像なんかもネットに上がっている



だが使えない



この少女、いや、少年だったが飛んでるだけにアングルが下から、膝上のよく分らん服の中が見えそうであるのが原因だ


未確認生物として年齢は関係ないだろって上と掛け合ったのだがダメだった


どう見ても未成年、しかも少女の写真で下着が見えそうなので使えない



顔をぼかした局もあったがすぐにテレビには出なくなった


10歳前後の少年少女のネタには触れられない


ネットの投稿画像も際どいものは削除されたし最低でも顔に黒い目線がはいるようになった



多分だがその件のビルにいるっていうのはわかってる


ビルの「お祈りはこちら」って建前があったのだが突撃前にそれも外されてなくなった


こんなもので諦める訳はない、あったのならそれを建前に突撃すればいいだけだ



だが事もあろうに日和った局がGOサインを取りやめたのだ


ビルの中には明らかに裏社会の人間もたむろするようになった


暴走族やヤクザに詳しいスタッフに聞くと「ヤクザの組長が中にいる」とのこと


流石に不味すぎる、謎の宗教施設の中にヤクザがいてその中に取材対象もいる


特ダネから厄ネタに変わった瞬間だ


何人か凸した局の奴らもいたがヤクザに阻まれて入れもしなかったそうだ



それにしてもふざけてやがる



魔法のメイド少年が癌患者を治したとしよう、光の柱もUMAの目撃情報、地震の発生回数、すべて彼のせいだとしよう、いや一つだけでもいい



説 明 す る 責 任 が あ る だ ろ う !?



局も局でGOサインが出たと思ったら取り下げられる、これで何度目だろうか?


宗教・少年・ヤクザが揃って同じネタになるなんてついてない、ついてなさすぎる



とにかく今できる選択肢は

・登仙院長への突撃→これは見込みなし

・病院スタッフへの質問→飽きられつつある

・金道への取材→高額すぎるし、胡散臭い

・光人間捜索→見つかったとしてももう光ってはいないし見つからない見込みなし

・光るビルへの突撃→ヤクザに殺されかねない

・UMA探し→目撃情報を素に登山可能な体力系スタッフが探索中

・各種専門家への意見調達→本社スタッフが対応

・SNS監視→ずっとやってる



あたりか、もちろんテレビ局という群体で全てに手を割いてやっているがこの辺で他局を出し抜く特ダネが欲しい


ビルの監視班が一度カニの爪のようなものがビルから垂れ下がったという連絡が来た


意味がわからなかったが別の高層ビルからの超遠距離撮影によるとそれはマジであった


カニみたいな見かけの巨大生物、大スクープ!!と思ったが何故か裸の男やムチを持って暴れる女もいて一緒に写ってしまっている


使えねぇ!!!!魔法少年っぽいのは写ってるが後ろ向きで後頭部だけ!!!!使えねぇ!!!!!!



SNS班の洋介アカウントに至っては我々も送ってはいるが反応はない


ダイレクトメールは誰でも送れる設定であるようですでに不特定多数からも多くのDMがいってるはずだ


もしも他局と先に連絡を取り合っているのなら我々はそれよりも先に別の情報を掴まねばならない


どちらにしろ一度休まねばならない、1週間寝ても覚めても仕事してたし


3日張り込んで固くなった体を休めるためにもバッティングセンターとスーパー銭湯に行くことにする


歳をとるとどうにも無理がきかなくなる、軽く運動して体をほぐして1日休めばまた3日は戦える


休む日も他局に出し抜かれないかと結局情報収集をしてしまったりする・・・もうこれは性分なんだろうなぁ



微妙に廃れたバッティングセンター、程よく人がいないのがいい



今日は誰かが打った後なのか空気がほんの少し温まってる感じがする


後ろの席には子供が1人、どこかの野球少年かな?


俺の華麗なバッティングを見るがいい


4番ショート、幸田ー、球団の未来を背負ってーうちまーすっ!!!??



グキャリッ



身体の何処かから鳴ってはいけない音が鳴った


カランカランと音を立てて転がるバットが目の前にくる


アカン、腰、やった



「大丈夫ですか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る