第42話 私が一体何をしたァァァ!!!??


何なんだこの騒ぎは!!


外に出ればどんなときでもマスコミが取材に来る、夜中カーテンの外を見ると誰かいるのにはもううんざりだ


近所の人や私の知己の方々、一軒ずつ話を聞いているらしい



・・・・・胃が痛い



そもそも病院で患者が良くなる、これは素晴らしいことだ


私は医者として患者のことを一番に考えている


患者のためならば医療従事者は増やせるだけ増やし、先進医療も受けれる体制を整え、治療以外でもできる限りのことをしてきた自負はある


飯がマズければ可能な限りば美味しくするように言うし、不便な部分は改善していった



経営は黒字だし、スタッフは入れ替わりはあっても待遇を良くしている


私は登仙病院の三代目で父や祖父たちに、誰にも恥じない生き方をしてきたつもりだ

この土地に生まれ、この土地で死んでいくんだろう



病院は私の家であるし、ここで治療を受ける患者は寛解すればよりよい人生を送ってもらいたい



もちろん治すことができる人だけではない



今の医療ではまだ治せない、いわゆる不治の病もあれば医療行為によって人が死ぬこともある


医療というのは「治すための行為」を「先人達の知識を学んだ上で行う」もので、その結果治療行為によって死ななくていい人を殺してしまうこともある


大多数の人間が治るであろう治療も少数の人間には毒になる場合があるのだ



私もそういう結果になったことはある


その人を治療するために行った最善と思える行為をとった結果、最悪の結末を迎えた


しかし私は誇りを持ってこの仕事をしてきたし今後もするだろう、より多くの人が助けられるのなら


自分のやってきた行為について非難を受けたこともあれば称賛を得たこともある


だが



「答えてくださいよ-!」

「責任は誰がとるんですか-!!」

「地下に実験室があるんですか-!?」

「不正受給は真実ですか-!!?」



なんだこれは・・?



テレビをつけると私の病院が映し出されるし、スマホのニュースでも私や私の病院が映し出される



なんなんだこれは・・・・





何が奇跡の病院だ・・何が誤診だらけのヤブ医者だ・・・


癌患者が10人以上健康状態になる?ありえない、金儲けの為に癌と診断し、ベッドで寝かせることで保険や治療費を病院が受け取るというのは昔見たことがある


けしからんと嘆いたものだが常識で考えれば今の登仙病院はそう捉えられるだろう



しかし待ってみてほしい、この病院には急性の癌患者は少ない



少数の、それも初めからこの病院で診断を受けた患者はともかく、他の病院から回されてきた患者は他でもカルテが残っているはずだ


地域や病院ぐるみでの医療費の割増請求?まだその方が真実味がある


少なくともステージ3より重症の終末治療中の患者が全員快癒するってよりはね


何度も査問委員会に呼び出され、マスコミには突撃をくらい、深夜にだってインターホンが鳴ってコメントを聞かれる


嫁と子供たちは実家に避難して家には帰ってこない



何度カルテを調べても間違いない、どの先生も病気だったと、間違いないと断言してるのに検査しても癌はない、生検で明らかにがん細胞があったはずなのにだ


カルテにも確かに癌はあった、機器がおかしかったのかと3度も調べたがどれも異常はない



物理的にも記録的にも癌はあった



腫瘍というものは時に消えたり、大きくも小さくもなることはある


これは検査する時に撮したい部分そのもの自体が肺のように大きくなったり小さくなったりして大きくも小さくも写る場合


検査の僅かな呼吸や動き、測る単位なんかでずれて見え隠れする場合


そして最後に体の状態で腫瘍の有無が変わる場合なんかがありうる



だが何度も検査は行うため、消える性質を持たない癌がそうやすやすと消滅することなどあり得ない、医師をかえ、検査機器をかえ、検査を別の機関でも行ってもらう



やはり治っている


癌の患者であったという結果などどこにもなく、健康そのものだ



マスコミは迷惑も考えずに連日連夜押し寄せてくるし、日本中から癌患者が噂を聞いて転院したがっているそうだ、そんなに簡単に治るのなら私の弟の癌も治してほしい


弟が癌ということで新技術を人体実験で試しているのではないかと聞かれたこともある


いやそもそも弟は兄である自分に診られたく無いと別の病院にいるし、ここよりも贅沢な環境の病院に頼み込んで入れてもらっている


この病院は新薬を使う研究機関はないし私は宇宙人でも無ければ地下に政府の秘密実験場もない、母親の「戦隊物が好きだった」という証言から私はマッドサイエンティストとして疑われ、改造手術をする場所すら壁を検査して探された


無論、政府の秘密機関なんてこの病院にはないし隠し部屋や隠し通路は存在しない


何人も壁を調べる人が来たが見つかったのはほんの数センチのコンクリートの空洞だけ



大穴の空いた院内の壁も「質の悪いコンクリート」と「ガスの爆発」が常識的には原因だと思う、いや、思いたい


目撃した看護師によるともう治療の余地のない状態の患者が殴り壊したらしい、どんな気功の使い手だ、体の中が超合金か何かで出来てるんじゃないか?



しかもその場所は改築歴もあったが鉄筋入り強化コンクリートだったそうだ



投薬治療で髪も抜け、寝ていても辛いはずの、それも余命宣告を受けた少女ができることでは断じてない


よく似たロボットにでもすり替えられたという方がまだ説明がつく


治るだけではなく68歳の患者が車を持ち上げている動画やこの病院の上空に光の柱が立つ動画などでてきて本当に意味がわからない、どちらも監視カメラで写っているし、3階から外の木に飛び移ってまたその木から3階に戻ってくるなんて奇跡動画をこの目で見られるなんて本当に信じられない


病院のスタッフ全員と患者が私にドッキリを仕掛けてきたという方がまだ現実的だ


スタッフの疲労具合から彼らも同じことを考えているんじゃないか?


マスコミに追われてるんだろう、休暇の申請や辞職届が後を絶たないが一斉にいなくなられると困る、患者のためにこらえてもらう


今からでも廊下の角からドッキリの看板を持った家族とかがでてきてくれないかな?



「こんにちはー」


「はーい、こんにちはー」



廊下を歩いていると出てきたのは・・なんだ?どこかで見たことのあるような少年だけだ


挨拶されるのはよくあるし挨拶を返してそのまま廊下を進む



待合室まで通りがかってちょうどこの病院のニュースが映し出された



思わず見てしまう



テレビで私のことを神か仏か、はたまた宇宙人か、マッドサイエンティストに現代の奇跡と評し、病院と私の顔のアップが映し出されたのを見て、私は崩れ落ちた

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