第16話 そんな顔を見せたくなかった


もう無理だな



-おねがい、持ってきてもらいたいものがあるんだ-



モバイルバッテリーを持ってきてもらって以来、来るのを止めていた



「・・!!・・・・!!!」



はいってくる前に廊下から母親の声がわずかに聞こえた


多分落ち着いて接してあげてとか言ってるのだろう



だけど私を見た瞬間、奈美はボロボロと泣いてしまっていた



投薬治療でボロッボロだからなぁ



「私は大丈夫、じゃないけど、来てくれてありがとう」


「元気じゃ、なさ、そうだね、はやく元気になってよぉ」



泣かせてしまった


ずっとメッセはしてたけど、投薬治療のことは言ってなかったからね



「お願いしたもの持ってきてくれた?」


「うんっ、うん」



買ってきてもらったのはノートといくつかのペン、それと、婚姻届だ


死ぬかもしれない、その前に結婚ってものをしてみたい


ノートとペンは久しぶりに字を書くしどうせなら綺麗に書きたい


前触れ無く吐いてしまうことがあるので婚姻届も何枚かもらってきてもらった


ペンも似たようなものなのにやはり書いてみるときれいに書けたりかけなかったり、買ってきてもらってよかった



「これ、ありがと」


「お金はきっちりと!金の切れ目は縁の切れ目って言うからね、ピッタリだけもらうよ」


「お礼も込で」


「だめ」



1万円を渡そうとしたがきっちり1円単位でお釣りが返ってきた


その後は何枚分も書いてどの字がいいのかなんて話した


途中お母さんがケーキと紅茶を持ってきてくれたりして、ほんの少しの間だけだったけどすごく癒やされた気がする



-春樹、お願いがあるから病院きてくれる?-



本当に短いメッセージだ、だけど何度も消して何度もうちこんで、やっと送った




春樹は予定があるらしく3日後に来てくれた


春樹には緊急って言ってなかったし春樹にも予定はあるもんね



「はる・・か?」


「え?大丈夫?」



なんでか真莉愛さんもついてきてた



「なんで真莉愛さんも?」


「女の子がいたほうが病院は助かることあるからって」


「私出てるね」



すごくいらない気遣い!


だけど大事な話って言ってるのになんで連れてくるかな


すごく険しい顔の春樹、そりゃそうだよね、こんな事になってるって一度も言ってなかったし



「それよりどういうことだよ!」


「私さ、死ぬかもしれなくてさ、できたら治ってから会いたかった」


「言ってくれよ・・!」


「言えるわけ無いじゃゴホッ・・・んん」


「大丈夫か?人呼ぶか!?」



手で止めて用意しておいた飲み物を一口だけ飲む



「これはおくすりの効果だからね、それよりお願いがあって」


「何だよお願いって」


「これ、書いてほしいの」



とても苦しい、胸がドキドキと痛い


いつも結婚してくれーっていってた春樹だ、きっとすぐに書いてくれるだろう



「これって・・・!」


「婚姻届」



ペンを出して渡そうとしたが受け取ってくれない






「待ってくれ」


「・・・え?」



少し苦しそうになってる春樹


ほんとに急だし仕方ないよね


私も癌のことを聞かされたときは頭回ってなかったし仕方ないか



「ほら、俺の親とかにも言わなきゃだろ?だから、さ?」


「え?あ、そうね」


「持って帰る」


「わかった」



私もひどい顔だろうけど春樹もすごく青い顔で帰っていった

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