第15話 病院と不幸の連続


起きてスマホをチェックすると春樹からメッセが届いていた



「へへ・・」



心配してるって内容だった


すぐには「大丈夫だからこなくてもいい」って送っておいた


ほんの一言なのにやはり心が少し弾む



「良いことでもあったのかい?」


「え?あ、はい、彼氏から連絡が来まして」



突然知らない人、それも年上の男性に声をかけられてびっくりした


向かいのベッドの人だ



「そりゃよかった、さっき看護師さんが言ってたけどあんた個室が空いたって」


「あ、ありがとうございます?」



父さんと同じ、いやそれよりは上かな?太っていて不健康そう


親切なのかな?胡散臭さが顔からにじみ出てるぐらいには顔つきが悪い



「ベッドの横からなんか落ちてたから忘れないようにな」


「え?あ、ありがとうございます」


「気にすんな、困ったときは助け合いだろ?」



にかっと笑われるがこの人見た目で損するタイプだなと失礼にも思ってしまう


どうせ動けないし少し話してみるといい人である


このおじさんは交通事故で動けないそうだ


自分の顔が包帯だらけで誰かと話すのに少し抵抗はある


だけど他にやることもないしね



「そういえば深夜にあんたに見舞いが来てたぞ」


「どんな人でした?」



スマホを見てもそういう通知はない、だれだろ?



「いや、カーテン越しだからわからなかったけど」


「そうですか、多分父親だと思います」


「そうか、いや、まぁいいけどな」



昼過ぎに個室に行けた


少しの間だったけど病室の人たちと打ち解けられた


隣のお爺さんにはお菓子をもらい、もうひとりのおじいさんには新品の水筒をもらった


なんで水筒?と思ったが孫と息子と娘婿から水筒をもらったらしい


だけどおじいさんは自分の水筒とおばあさんの水筒とそのもらった分を合わせて5つも持ってた


なのでマグボトルで使ってないからどうぞとのこと


ちょっとくすりときた、マグボトル型の水筒はありがたく頂いた



「はやく良くなると良いな」


「ありがとうございます」



しばらくは何事もなく病院生活を過ごした


傷もだいぶ良くなったが包帯だらけ、肋骨も2本折れていて結構苦しい



-あのさ、真莉愛さんってちょっと吉川くんと仲良すぎじゃない?-


-幼稚園からの幼なじみだからね-



これは他の友だちにもよく言われる



-まぁ遥が良いなら良いんだけどさ-



ドアがノックされて・・お母さんが入ってきた、お父さんも、目が赤い、何かあったのかな?



「落ち着いて聞いてください」


「はい」



大きな病気でも見つかったんだろうか



「貴方は骨肉腫の疑いがあります」


「どんな病気ですか?」


「・・・最近は治療法も増えてきて



頭が真っ白になった


膝の骨の癌のようなものらしく、足の手術も必要らしい


更に検査を進めるとリンパにも見つかった


自分でスマホで調べると死の可能性もあるらしい


投薬治療での治療例を説明されて受け入れることにする


父さんと母さんの顔を見るのが辛い、泣きはらした後に無理に笑顔を作っててさ


今より最悪ってあるのかな?


春樹にはどうしてもいえなかった



-なんで俺は行っちゃダメなんだよ-


-顔から階段落ちたのに彼氏に見せたいわけ無いでしょ-


-俺は気にしない-


-私が気にするって言ってんでしょーが!-



髪が無くなり、吐けるものもないのに吐き気が止まらず、悪寒と痛みがミックスして襲いかかってくる


医療マンガやドラマで癌の投薬治療については見たことがある


「長い人生でその時だけなんだから我慢すればいいのに」そんなことを思っていた


だが自分の立場になってそれが甘いと知った



治るかそもそもわからない、不安が痛みという現実の恐怖になって少しずつにじり寄ってくる


体の変化はじわじわと日に日に見えてくる


こんな姿で死にたくないのに体は細く、色は病人のそれ、髪は抜け、唇はカサカサ



これは治療の効果だ



だけど治療をやめるって選択肢もある


そうしたら今のこの地獄のような痛みは終わる


もう、あと少ししかない、かもしれない貴重な時間を痛みと恐怖の続くものにしなくてもいいっていう甘美な選択肢が残っている


絶対にそれを選ぶのもよくないとはわかってはいるんだ


だけど頭をよぎらないときはないほどに苦しいんだ

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