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「なるほど。それでは魔法器なんかも色々持っているんですか?」
「もちろん。…………興味あるの?」
「……!はい!」
あれからヴォーナのおすすめという食事処に来たのだが、気づけば私はイヴネリアと話し込んでいた。
五人中三人が医学科志望で残り二人が魔法系の学科志望となれば当然のことだったのかもしれないが、これは親睦会としてはどうなのだろうか?
…………いや、別に私はそこまで親睦を深める気もないし構わないのだが。
「あの、もしよかったらこの後フィルさんのご自宅にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「ああ、そういう…………」
どうやらイヴネリアはただ父親の後を継ぐために魔法研究者を目指しているというわけではなく、本人がただの魔法好きなだけのようだ。もちろん、父親の仕事の関係で魔法に触れる機会が多かったというのも影響しているのだろうが。
「…………ご迷惑でしょうか?」
「んー…………」
迷惑というか、面倒というか。
しかしこんな小さな子に上目遣いでお願いされては、断るのも忍びないというもので。
「別にいいよ」
私が了承の返事をすると、イヴネリアはその変化の乏しい表情筋を少しばかり綻ばせた。
「ありがとうごさいます。ところで、フィルさんの魔力配列って…………あ、魔法使いにとっては秘匿情報なんでしたっけ」
「ん…………まあそうだけど、別にいいよ。私の場合は今更隠すことでもないからね」
「それって…………」
イヴネリアが驚いたように私を見る。
魔力配列というのは個人が持っている魔力元素の配列を表す言葉で、簡単に言えばその人がどんな魔法を使えるのかという情報のことだ。魔法とは魔力元素がトリガーとなる力であり、その人がどんな魔力元素を保有しているかによって使える魔法が異なる。魔力元素は両親から四つずつ受け継ぐ遺伝子のことで、そのもの自体は百種類以上、人間が保有していることが確認されているものでは、約八十種類あると言われている。
イヴネリアが魔力配列の話をしてきたのは、私がどんな魔法を使えるのか。つまりはどんな魔法器を見せてくれるのかが知りたかったからだろう。
「もちろん全部は教えないけど…………アグマリエンを三つ持ってて、爆炎っていうのが私の異名」
「アグマを三つ!?」
先程までの冷静な態度はどこへやら、イヴネリアは声を荒げて私の肩を掴んだ。
いや、肩を掴んできた意味は分からないけど…………とにかくアグマリエンを三つ持っているというのは、魔法の知識が多少ある者ならば誰もが驚くこと間違いなしのことなのだ。
アグマリエンというのは現状ではかなり有力な用途が発見されている魔力元素のうちの一つで、いわゆる優等遺伝子と呼ばれているものだ。そして魔法というのは当然魔力量によって効量が決まるのだが、アグマリエンを一つ持っている人と三つ持っている私とでは、同じ魔力量でも効量が単純に三倍変わってくる。
「三つって…………もはや凄いというか…………」
「ま、普通じゃあり得ないでしょうね」
人が保有する魔力元素が約八十種。もちろん多く受け継がれている魔力元素やその逆もあるが、本来多くの魔力元素があるのは同じ配列の遺伝子を残さないためと言われており、そこまで偏った遺伝はされていない。そもそも魔力元素というものが発見されたのも人類の歴史を考えれば最近のことであり、意図的に特定の魔力元素を遺伝していくということも過去には行われてきてはいないのだ。
しかしそれは、逆に言えば最近ならそういう実験が行われたこともあるということだ。だがその結果は、『同じ魔力は数が増える度に遺伝される可能性が減る』というものだった。例えば同じ魔力を三つ持つ親からその魔力を一つ受け継ぐ可能性は確率上3/7で、実際に実験でもその確率通りのデータがある。同様に二つ受け継ぐ可能性も3/7なのだが、実際の実験データではその半分程度の確率であるということが示されていた…………といったところだ。
そんな背景の中で同じ魔力元素が三つ遺伝されるというのは、何の意図も介入されていない場合はありえないと断言しても構わないほど珍しいことだった。
「それでは…………」
「ん。そういう目的で生まれたのが私ってこと」
魔法使いになるために───そしてその力で村を守るために生まれたのが、私という人間だ。
両親もそれが目的で結婚させられた人たちで、父は私にあまり関わろうとしなかったし、母は何を焦っているのかと思うほど私の教育に力を入れていた。そして夫婦仲もあまり…………いや、村から逃げてきた私にはもう関係のないことか。
まあ結局その力を頼りに今の仕事をしているわけだから、恨み言を言うつもりもないけど。
「そういえば、自己紹介の時に逃げてきたって言ってましたよね」
「…………」
「あ…………ごめんなさい。深掘りする気はないんです」
私の顔を見たイヴネリアが、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。
私には自分がどんな表情をしていたのかわからなかったが、今の気分が優れないということだけは確かだった。
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