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「ま、まあ、とにかくまずは自己紹介をしませんか?」
再び訪れた重たい空気をぶち破ったのは、またもや気弱そうな少女だった。
この子、案外見かけによらな…………いや、もしかしたらそうじゃなくて、ただ自己紹介が大好きなだけの子かもしれない。さっきも自己紹介したがってたし。
なんて冗談はともかく、そんな気弱そうな少女の発言ににいち早く反応したのは凛々しい少女だった。
「そうね、それじゃあ私から。私はヴォーナ・イムライネ。医学科志望よ。出身地はこのシェスターナで、そこのアニーとは幼馴染ね」
「えと、アニレイ・テールマです。私も医学科志望で…………その、よろしくお願いします」
幼馴染かあ。道理でよくアイコンタクトを取ってたわけだ。
にしても、幼馴染で同じユニットって、そういう星の元に生まれたのか、それとも何か都合を合わせてもらったのか…………ま、そんなことどうでもいいか。
などと私が考えているうちに、次は知的そうな少女が口を開いた。
「それでは次は私が。私の名はコルネイ・パラリオ。医学科志望です」
「あら、コルネイさんも?」
「はい。偶然ですね」
うげ、これはめんどくさそうだなあ…………と私は脳内でぼやいた。
私は、基本的に医学科を志望するような人間とは相容れないのだ。世のため人のためなんて、到底考えられない。医者を目指そうなどという高尚な人間とは、どうにも相性が悪いのが私という人間だった。
「次は私ですか…………私はイヴネリア・ヒューストンです。魔法研究科志望で、出身地は西のゴルネア領。よろしくお願いします」
「ゴルネア領…………あそこはたしか魔法の研究が盛んよね?」
「はい。私の父も魔法研究者で、卒業後は父の手伝いをする予定です」
「そうなの?私とアニーも同じよ」
「そうなんですか」
そうして小柄な少女───イヴネリアが自己紹介を終えると、最後に私の方へと視線が舞い込んできた。
「…………えと、魔法科志望のフィル・ママーニエ。南の辺境から…………まあ、逃げてきたって感じかな」
「逃げてきた?」
「んー、まあ色々あって」
別に隠すような事情でもないが、特に面白い話でもない。適当に話を誤魔化した私は、そのついでにこの場を切り上げようと声を出した。
「とりあえずこれで全員だよね?それじゃあ次は課題が発表される五日後に───」
「あ、ちょっと待って」
そんな私の言葉を遮ったのは、ヴォーナだった。
というか、先程からずっとヴォーナしか他の人の言葉に反応していない。
「せっかくだし、親睦会でもしない?ちょうどお昼時でしょ?」
ヴォーナの言葉にコクコクと頷くアニレイ。
コルネイもその提案に賛同すると、イヴネリアは何故か私の方をじっと見つめてきた。
「フィルさんは参加しますか?」
「私?うーん…………」
この後の用事と言えば、十二時の依頼更新だ。
私は生活費やレク・サレムの学費などを自分で稼がなければいけないのだが、そのために冒険者として活動している。冒険者というのは簡単に言えば街の外に蔓延る魔物と戦う職業のことで、誰かが街の外に出る必要のある用事を依頼として冒険者ギルドの方に提出し、それを実際にこなしている人たちが冒険者と呼ばれているのだ。ちなみに正式名称は違うらしいが、当事者である私ですらよく覚えていない。
そしてそんな冒険者ギルドが請け負った依頼は、一日に一度十二時に更新されることになっており、通称が十二時の依頼更新というわけだ。つまり私にとっては仕事に関する大事な用事なのだが…………
「まあ、行こうかな」
「それでしたら、私も」
こっちの方が大事…………というつもりでもないが、まあ正直私の場合は更新直後に行く必要がほとんどないのだ。というかめちゃくちゃ混むから行きたくもない。
なのでとりあえず了承しといたのだが…………イヴネリアはなぜ私の参加を気にしたのだろうか?
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