長かった入学式も終わり。

 どうやら一年生は入学式後にユニットルームに集まるのが習わしらしく、一同はこぞってユニットルーム専用の建物となっている通称ユニ棟に向かって移動していた。

 無論私もその一人で、私のユニットは一階の一室だ。移動が楽でラッキー…………と私的には思うのだが、周りをよく見る限りどうやら一階に割り振られたユニットの人たちは皆平民のようで、なんともその手の意思を感じざるを得なかった。楽なことに変わりはないので全然良いのだが。


「…………あ、どーも」


 私の所属するユニットに割り振られた部屋に入ると、メンバーの五人の内すでに二人が待機しているようだった。

 取って付けたような挨拶をすると、帰ってきたのは軽めの会釈。どういうわけかはわからないが、あまり喜ばしそうな反応でないことは確かだ。


 しばらく無言で待っていると、無事に五人全員がユニットルームへと集まってきた。

 真ん中に置かれた机を取り囲むようにして座っている私たち。右回りにどんな人がいるか確認していくと、女の人、女の人、女の人…………そして、女の人だ。


「えーっと、それじゃあ自己紹介…………でいいよね?」


 どこか重い沈黙を破ったのは、私の右側に座る気弱そうな少女だった。気弱そうとは言っても、実際にはこの沈黙を破るほどの勇気はあるようだが。


「そうね、いつまでもこんな空気じゃやってられないし。でも、その前に一つ聞いておきたいんだけど…………」


 続いて口を開いたのが、私の対面に座る凛々しい少女だ。

 いったい何を聞くつもりなのかは知らないが、その少女はぐるっと私たちを見まわした。


「…………この中で、戦える人はいるの?」

「…………」


 再びの沈黙。

 あ、いや、別に私は戦えるんだけど…………


「…………えっ、一人もいないの?そんなはずないわよね?」

「はい。教師側でユニットのバランスを整えているので、各ユニットに一人か二人は戦闘科か魔法科希望の生徒がいるはずです」


 凛々しい少女にそう答えたのは、どこか知的そうな少女だ。


「私は戦えませんよ?」

「わ、私もです!」


 知的そうな少女の言葉に反応を示す、初めの気弱そうな少女と、最後となるひときわ小柄な少女。

 二人の言葉を受けて注目が集まってくるのは当然私で、残りの四人は私の言葉を待つように視線を寄せてきた。


「…………えーっと…………まあ…………」

「…………」


 スッと視線を逸らす。

 そんな私を追い詰めるように、凛々しい少女が私を覗き込んだ。


「戦えるんですよね?それも、相当」

「相当…………?」

「ええ。だって、五人が全員女性で、しかも戦闘系学科の希望者は一人。あなたが相当な手練れじゃなきゃ、バランスがおかしいでしょ?」

「いや…………うーん…………」


 そんなことないんだけどな。本当に。

 まあ、この戦闘訓練で相手にするであろう街周辺の魔物くらいならもちろん余裕だけど…………


「何が煮え切らないの?」

「いや、煮え切らないっていうか…………」


 なんてセリフがもう煮え切ってないか。と脳内で自分にツッコミを入れた私は、困り顔で四人を見渡した。


「本当に他にはいないの?私は魔法科志望だから、みんなを守るなんて芸当は無理だよ?」

「そう……だよね」


 そう反応したのは、気弱そうな少女だった。彼女は私より前にいた二人のうちの一人でもあり、あんな反応だったのは私が頼りになりそうな人じゃなかったからだろう。例の紙切れを見るにユニットメンバーが全員女性なのは明らかだったし、戦闘訓練に不安を感じざるを得なかったのかもしれない。そう思えば、私以外が妙にピリピリしていたのも頷ける。


 …………あれ?私以外がピリピリしてたってことは、本当に私以外誰も戦えないってことじゃ……


「街周辺の魔物くらいなら、私たちでもなんとかなるという教師側の判断なのでしょうか?」

「えー…………うーん…………」


 私に聞かれてもなあ。

 でも、街周辺といえど、一般人でそれも若い女の子が魔物に勝てるわけなくない?私だってそれなりの身のこなしはできるけど、剣一本で魔物と戦えって言われたら…………まず剣を振り回すことすらできないし。かといって、真剣くらいじゃないと魔物に傷をつけることすらできないし…………



 …………どうしようか?

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