異世界流・社会不適合者

@YA07

プロローグ


「お前には責任感というものがないのか」


 私がこの世界に生まれ落ちてから、何度その言葉を言われたのだろうか。

 だが、そんな言葉を嘯く連中に私はこう言いたい。責任感があるからこそ、むやみに責任を負わないようにしているのだと。無責任に物事を押し付ける方こそ、責任感というものに欠けているのでは?…………と。

 まあ、そんなこと実際には言わないけどね。自分の言葉に責任持ちたくないし。


「──────であるからして…………」


 そんな私の信条とは正反対なのか。大勢の人の前で偉そうに言葉を紡いでいるのは、このレク・サレムの最高権威者である…………何とかさん。名前覚えてないや。

 まあ名前なんてものは置いておいて、なぜ私がそんな人の言葉を聞かされているのか。それはお察しの通り私が今年度の入学生の内の一人であるからで、そしてたった今執り行われているのが入学式というやつだからだ。


「…………ふぁ」


 漏れ出す欠伸を、半分だけかみ殺す。無礼だとは分かっているが、どうにもふんわりとした話には興味がわかないのだ。まあ、大衆に向けての話など往々にしてそんなものだろうけれど。


 それよりも気になるのは、入学式前に配られた一枚の紙きれだ。

 紙きれの話をする前に、レク・サレムの話をしておこう。レク・サレムでは、基本的にまず三年間をその学び舎で過ごすことになるのだが、その中でも最初の一年間は、全ての生徒が共通の教育を受ける期間となっている。そしてその後は、近接戦闘を学ぶ戦闘科や、魔法戦闘を学ぶ魔法科。魔法研究を学ぶ魔法研究科や、古代の技術や文化を学ぶ考古学科等々、まあ様々な道に分かれることになるそうだ。中でも研究を主とする学科は、三年後も引き続きレク・サレムに通うことになったりもするのだが、魔法科志望の私には関係のない話だ。


 とにかくそんなわけで、レク・サレムには様々な志を持った生徒が集まってくることになる。そこで、そんな生徒たちを十把一絡げにして最初の一年間はいったい何をするのかという話になるのだが…………まあ言ってしまえば各学科のお試しのようなもので、様々な分野の基礎を少しずつ触るといった感じだそうだ。

 そしてその中の一つに、戦闘訓練がある。街中で一生を過ごすつもりの生徒にとっては迷惑な話だろうが、レク・サレムでは、教養として外界の恐ろしさの上辺だけでも全員に学ばせようとしている。その手段として用いられているのが、ユニット制度だ。


 そのユニット制度こそが例の紙きれの話で、この紙きれには教師側から割り振られたユニットメンバーとそのユニットルームが記されている。要はユニットメンバーというのがこれから一年間戦闘訓練を共にする者たちで、ユニットルームというのがその拠点といったところだ。メンバーが教師側から決められているのは、なるべく全ユニットを均等にするための措置でもあるといわれているが…………


「…………」


 例の紙切れに書かれた内容を、再び確かめる。

 そこに書かれている名前に見覚えは一切ないが、明らかに全員が平民の名だ。レク・サレムへの入学者は半数以上が貴族と言われている現状を考えれば…………おそらくはそういう意図もあるのだろう。

 とはいえ、平民同士でも知らない人は知らない人だ。しかもやることは戦闘訓練───つまりは外界で魔物と戦うということ。他人に命を預け、ましてや預かるなんて私には荷が重い。というか嫌だ。それが嫌で逃げ出してきたのに、結局…………いや、こっちなら一年我慢すればいいのだ。


「はぁ…………」


 そう無理矢理納得しようとしても、気が重いものは気が重い。これからの一年間に絶望しながら、私は睡魔との戦いに興じるのだった。


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