第5話


 何事もなかったかのように舞踏会が再開されたが、踊る気にもなれず、アレンとテラスで風にあたっていた。


 なんだかスッキリしない。あんな狂気にまみれたフリードと結婚しなくて良くなったとはいえ、フリードが大勢の前でリーゼを貶めたことは無くならない。誰かがフリードの言葉だけで判断してしまったら、根も葉もないリーゼの悪評だけが残ってしまう。


「シャル、心配しなくてもベルモントの令嬢は大丈夫だよ。まあ、シャルの思ってるのとはちょっと違うかもしれないけど」


 うーん、アレンが言うならそうなのかな。


「あ、それもだけど、アレンがネーベンの王子様だったなんて知らなかった」


「そうだっけ? まあ、王子と言っても第五王子だし、元々王族からは抜けるつもりなんだ。僕は商人やってるのが性に合ってるみたいだし」


 よく考えれば、普通の平民ではありえないくらい物知りだったし、私にマナーを教えてくれたのもアレンだ。


「私、全然周りが見えてなかったのね」


「一生懸命で可愛かったよ。でもよかったの? 上手くやればシャルが目指してたお姫様になれたと思うよ」


「意地悪言わないで。私の話なんて全く聞かない、自分の婚約者で優しいリーゼ様のことすら、あんな風に貶める人は私の王子様なんかじゃないわ。アレンだったら絶対そんなことしないのに」


 アレンだったら私の話はちゃんと聞いてくれるし、私を悪く言うことはない。もし仮に私が何か悪いことをしたとしても、必ず先に理由を聞いてくれるはずよ。あんな風に確認もせずに扱き下ろすことなんてしないわ。


 ん?


 あれ? え、うそ。


「どうしたの? 顔、真っ赤だよ」


「うそ、そんな。私・・・アレンのことが好き、みたい」


「やっと、気づいてくれた?」


「知ってたの!?」


 私だって今気づいたのに!?


「昔からずっと僕の後をついてまわって、何かあれば必ず僕の所に来るんだもの。シャルの理想の王子様像ってよくよく聞くと僕のことだし。そのくせ理想の王子様を捕まえるために頑張ってお姫様になるんだーって言ってる君が憎らしくもあったけどね」


 全然知らなかった。私、自分のことで精一杯で本当に周りが見えてなかったのね。しかも私の理想の王子様像がアレンだったなんて・・・心当たりがありすぎる。それをずっとアレンに言ってたなんて、恥ずかしすぎる。


「シャル、僕は近いうち王子じゃなくなるけど、それでも僕と一緒にいてくれる?」


「アレンは、私のこと好き、なの?」


「君がお姫様になるために勉強したいって商会に来たときからずっと、好きだよ」


 気づいたのはついさっきだけど、私もきっとずっと同じ気持ちだった。


「王子様じゃなくても、アレンがいい・・・アレンと一緒にいたい」


「やっと僕のもとにきてくれた」


 アレンは柔らかく微笑んで、よかった。と言ってシャルルを抱きしめた。






「そういえば、なんで学園行くの止めなかったの?」


「シャルは言い出したら止まらないからね。それに、僕の所に戻ってくる自信あったし」


「なんで?」


 シャルルが聞くとアレンはにっこりと微笑んだ。


 これは・・・聞かないほうが良さそうね。







「シャル、義姉上から手紙が届いたよ」


「本当! なんて書いてあったの!」


 舞踏会から早くも二年がたった。私は三年生になり、もうすぐ学園を卒業する。


「もうすぐ産まれるって」


「わ、楽しみ! 産まれたら御祝い渡したいな。会えるかな?」


「義姉上はシャルが会いたいって言えば会えると思うよ」


 あの後、ベルモント家は王家から多額の慰謝料を提示されたが受け取らず、爵位を返上して親戚のいるネーベンへ渡った。そしてなんと、リーゼ様はネーベンの王太子。つまり、アレンのお兄様と婚約してスピード結婚した。


 どうしてそうなったのか詳細は教えてくれなかったけど、多分アレンは知ってたんだと思う。なんなら、何かしたんじゃないかな・・・。


 そんなアレンはさっさと平民になるつもりだったみたいだけど話し合いの末、私との結婚を条件にネーベンの子爵位を賜り臣籍に下った。アレンはどうせならもう一つ下の男爵がよかったって不満そうに呟いてた。


 それに伴って、ウェルス商会の本部をネーベンに移して今まで本部として使っていた店舗は支店の一つになった。


 ウェルス商会は最初からアレンの設立した商会だったみたい。子供だったから代理を立てたんだって。


 私は学園を卒業したら、アレンと一緒にネーベンに行き、本部で商会の手伝いをする予定。


「シャル、僕のお姫様」


「なあに、王子様?」


 あれからアレンは時折、私のことを僕のお姫様と呼ぶ。それにクスクス笑いながら返す。


 笑う私の唇に不意打ちでキスが降ってきた。ゆっくり唇が離れたと思ったらそのまま耳へと移り、今度は耳朶を唇で食まれる。


「ねえ、お姫様。卒業後、僕達も楽しみだね?」


 私の理想の王子様は、私には少し刺激が強いかもしれない。

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私の理想の王子様はあなたじゃありません! かりん豆腐 @Karin_Touhu

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