第3話
アレンと約束した休みの日、シャルルはアレンの商会へと来ていた。
「いらっしゃい、シャル」
「アレン! 今日はよろしくね」
てっきり、アレンの商会のドレスから選ぶものだと思っていたシャルルは倉庫でなく応接室に通され首を傾げた。
応接室の中には年配の女性が一人いた。
「あらあら、可愛らしいお嬢さんですこと」
「シャル、彼女はシャルのドレスのデザインをしてくれるデザイナーだよ」
しゃるのどれすをでざいんしてくれるでざいなー
「え、えええええ!? 既製品じゃないの!?」
「一緒に考えようっていったよ?」
ドレスのオーダーメイドなんてそれこそ庶民には無理をしても手が届かない。そもそも既製品とは桁が変わる。
「うふふ。お嬢さん心配しなくても大丈夫よ。アレン坊ちゃんのことはこーんな小さいときから存じてますからね。坊ちゃんが困るようなことにはなりませんよ」
「そろそろ坊ちゃんはやめてほしいけどね」
女性は優しい顔でニコリと笑って、シャルルにドレスの話を始めた。
なんだかんだ話が進んでいくと、シャルルも段々と楽しくなってきて、たまにアレンに意見を聞きながらデザインが決まっていく。
デザインが決まると、アレンが部屋から追い出されシャルルの採寸をしていく。
「坊ちゃんは幼少の砌みぎりから勤勉で努力家でした。ご兄弟の中でも坊ちゃんの右に出る者はいませんでね、それでも坊ちゃんは自分が兄弟の邪魔をしないようにと父親と交渉して家を出てしまわれたんです」
「ええ、ええ、突然のことで最初はびっくりしましたよ。でも、しばらくして元気でやっていると手紙が届きましてね。多少はほっとしましたが、やっぱり不安はあったんです。坊ちゃんの活躍は風の噂で知っていましたが、それがまあ急に手紙が来たと思ったら、こんな可愛らしいお嬢さんに会えるなんて」
安心しました。と言って女性は笑う。シャルルの知らないアレンの話が聞けて、シャルルもつられて笑った。
他にもアレンの昔話をたくさん聞いていると、扉がノックされた。
「時間がかかってるようだけど、もう入っても大丈夫かな?」
アレンを待たせていることを思い出して、女性と顔を見合わせて二人で笑った。
ようやく中に入ることを許されたアレンは小さめのワゴンにお茶とお菓子を乗せて持ってきた。
「そろそろ甘いものが欲しくなるかと思って持ってきたよ」
「わあ、ありがとう」
「あらあら。坊ちゃん、仰ってくださればやりましたのに」
「今日は客人として呼んだんだからよしてくれ」
そう言うと慣れた手付きで人数分のお茶を淹れてくれた。
「わ、美味しい」
出された紅茶は香り高く、普段安物しか飲まないシャルルにも上等だとわかるものだった。
お茶を飲みながら今度はドレスに合わせるアクセサリーの話になったが、シャルルはどういうふうに選べばいいかわからないと素直に伝えたら、女性が知り合いに腕のいい職人がいるといい、選んでもいいかと聞いてきた。プロが選んでくれるなら間違い無いと任せることにした。
ドレスのデザインが決まった今はすることもなく、三人でお茶を飲みながら、話をして過ごした。
それから舞踏会まではあっという間だった。
シャルルは生徒会活動でフリードと顔を合わせるのが気まずいと思ったが、フリードは何もなかったように普段と変わりなくシャルルとリーゼに接していた。
ほっとしたシャルルはアレンとマナーのおさらいをしたりダンスの練習をしたりして楽しみながら過ごした。
舞踏会の当日、シャルルは家では準備が出来ないだろうとアレンに呼ばれて朝早くから商会に来て準備を始めた。
舞踏会の準備ってこんなに大変なのね。
普段の支度なんて十五分もあれば整ってしまうシャルルにとって、準備を他人に手伝ってもらうなど貴重な体験だ。
ついて早々、三人のお手伝いさんにいい匂いのするお風呂に入れられて全身磨き上げられるなんて、非日常を満喫した。
オーダーメイドのドレスは身体にピッタリあっていて、肌触りのいい生地がシャルルを包む。
それに合わせた宝石もシャルルの髪や耳、首元を彩っている。
素敵。本物のお姫様みたい。
シャルルの準備を手伝ってくれた女性達も口々にシャルルを褒めてくれる。これだけでもう満足してしまいそうだ。
シャルルの準備が整うとタイミングよく扉がノックされ、アレンが入ってくる。
「シャル、すごく綺麗だね」
アレンはシャルルの全身を眺めたあと、満足げな表情をして頷く。
「アレン、すごく、すごく素敵だわ!ありがとう」
「よかった。それじゃあお姫様? お手をどうぞ」
シャルルが緊張しないようにだろう、オーバーな仕草でエスコートするアレンにシャルルはおかしくなってクスクス笑う。
会場まで馬車で移動し、入口で招待状を見せると中へ通された。初めてのお城は何もかもがキラキラしていて、それに負けないくらい、ドレスを着た女性達が花のように会場を彩る。
「すごい・・・」
「シャルはお城は初めてだもんね。シャルのエスコートができて嬉しいよ」
もう、口が上手いんだから。
得意先に挨拶をして回るというアレンに、二人でおさらいした舞踏会の作法を思い出しながら、ついてまわった。
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