第27話

 皆の表情は何というか、微妙だ。


「本当に、嬢さん、憎んでないのかい?」


 ドロイデはその大きな手で私の肩を掴む。


「言われてみたら腑に落ちたというか」

「まあ、確かに嬢さんはいつも淡々としていたものね……」


 ファデットもそう言って椅子にかける。


「もの凄く心配してくれていたならば、申し訳ないと思うんだけど……」

「いや、正直嬢さんは確かに、旦那様に対して何の感情も持たなくたって仕方がないと思うよ」


 ドロイデは大きくうなづく。


「だって、八つの時までは確かにマルティーヌも居て、お嬢さんな暮らしだったけど、そもそも旦那様が嬢さんに顔を見せることも無かった訳だし。情の一つも湧く訳がないんじゃないかね」


 さすがに最古参の言葉は大きい。


「嬢さんにとっての家族っていうのは、誰なんですかね?」


 ハルバートが問いかけた。


「うーん…… たぶん、一番世間で言う母親に近いのが、マルティーヌ。あとは皆が私を育ててくれたきょうだい、ってところかなあ……」

「ほらみろ。嬢さんの考え方って、施設育ちの俺らと近いんだよ」


 ああ~、とハッティとロッティの声が飛んだ。


「確かに。そう言われてみれば、そういう感じだ」


 キャビン氏もそう言う。


「だからこの家で働いている皆が最終的に守られれば、あのひとがどうなっても構わないし、その後についての興味も無いんだわ。ただ夫人はちょっとだけ嫌だなと思うけど」

「「「「ちょっと?」」」」


 何人かの声が揃った。


「だってミュゼットを追い出した理由がおかしいじゃない。それこそ母親の感情じゃないでしょ。だとしたら、ほら、今一応居る弟にしても、母親として大丈夫かな、というのがあるし。必要なくなったらすぐに捨てそうじゃない」


 そう、もの凄く忘れがちなのだが、私には一応弟が居るのだ。

 ただこの子はそれなりにちゃんと夫人が育てている様なので、私からはやはり遠い存在なのだけど。

 たぶん夫人も私のことを姉だとは言っていないだろう。


「あくまでミュゼットや坊ちゃんのためなんですね……」


 よよ、と誰かがエプロンを目に当てていた。

 いや、そんなたいそうなことではない。

 やっぱり夫人も私自身に関してはどうでもいいのだ。


「貴女は、何というか危ういですね」


 キャビン氏はやや呆れた様に言った。


「そうかもしれません。つい、一般的に父親がこうしてきたら憎むもの、と思い込んでしまっていたんだと。でもそれを取っ払ったら、やっぱり知りたいのは父の素性と、東に行ったもともとのハイロール男爵家の人々の行方です」

「ではそれで決定ですね」

「はい」

「でしたら、一人有力な味方がいますよ」

「味方」

「貴女のことだから、またお忘れかもしれませんが、フレドリック氏です。貴女の伯父さんの」

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