第7話

 収賄の事件。

 お祖父様は首謀者ではないが、連座という形で現在は蟄居している状態。

 もうあと一年、という辺りで、何だか父の埃が叩けば出てきそうな気がしてきた。


「奥様がそんな曖昧な理由で嫁いでこられたなんて」

「いやはや、病弱に加え、世間知らずのお嬢さんは真逆の男に惚れ込んでしまったんだね。でもその一方で旦那様も

奥様には相当惚れ込んではいただろう?」


 ドロイテはヒュームに問いかける。


「ええ。私の目で見た限りでは、奥様だけでなく、旦那様もきっちり惚れ込んでおりましたよ。まあだから、すぐに今の奥方が来た時には私は本当に驚きましたが。しかもミュゼットさん連れで」


 そうなのだ。

 父が母を溺愛していた、という証言及び、産んだせいで母が死んだ「から」私が憎い。

 それはつじつまが合う。

 では並行して今の奥方――義母でミュゼットの母親であるあの女に対してはどういう感情を持っていたというのだろう。


「奥様にはできないことをしていた、というのがまあ、大人の意見ですね」


 ファデットは私にそう言う。


「大人の意見」

「少なくとも、ミュゼットさんを子供だと考えることができる程度のことはしていた訳ですよ」

「そこに気持ちはあるの?」

「ふむ」


と、男達は考え込んだ。


「俺等はもう、付き合ってくれる女で適当に気立てのいいのだったら結婚できればいいなあ、と思う程度ですがね、旦那様は選り好みできる立場でしょう?」 


 フットマンのハルバートは何とも言えない表情になって言った。


「でも、そのくらいの気持ちで結婚できるの?」

「アリサお嬢さん、やっぱりねえ、結婚して一人前の男だ、っていうのがあるんですよ。で、その時には一緒に家庭を守ってくれる相方としての女が欲しいとは思いますがね。でもこっちの稼ぎがなけりゃあ、そういう話自体が来ませんよ」


 なるほど、と何となく私はうなづいた。

 そういうものなのか。


「では父が結婚した理由もある意味それに近いのかも」

「貴族同士の結婚というものは、家同士のものですからね。お膳立てされた場所で巡り会わされて、その中で相手を選ぶ訳ですよ。あっちはあっちで面倒ですね。でも結婚できないと、それはそれで、一人前と思われないというのは、我々とそう変わらない部分がありますね」


 ヒュームは言う。


「じゃあ仮に、母様に対しての気持ちも、今の奥方に対してもある程度あってもいいけど、……」


 何となくそこで詰まってしまった。


「アリサ嬢さんは、男爵の出がやっぱり気になってるんじゃないですかい?」


 ハルバートは言う。


「うん、それはある。子爵家と縁続きになるというのは大きいのよね。成り上がりとわざわざ結婚してくれる女性は珍しく……」


 私は少し縫い物の手を止めて考える。


「お母様に愛着があったのではなく、お母様という子爵令嬢だった女に価値があったから生き延びて欲しかった、という方向だったら?」

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