第8話

 前提が間違っていたならば。


「お母様が亡くなったことで悲しんだのだか怒ったのだか、なのよね。普通の親だったら、どう思う? 妻を死なせた子供を殺してしまいたい程だと思うかしら」

「まあ、世間では『思い出すから見たくない』で遠ざけることはあるでしょうが、アリサ嬢さんの様に最終的に使用人にしてしまうというのはそうそう無いですね」


 なるほど。

 前提が間違っていたのかもしれない。

 私はその考えをミュゼットへと送った。

 そして当時のことを知っている人々はいないだろうか、ということを問い合わせた。


「難しい依頼ばかりどうも!

 でも確かに難しいだけあって、やりがいはあるわね。

 とりあえず今私は、近々蟄居謹慎が解ける子爵様の弁護士、ラルフ・オラルフさんの方に紹介していただき、アリサの疑問に思ったことも聞いています。

 男爵の過去、それに親戚ね。

 当時の知り合いというひと達をあたってみているのだけど、見事なまでに私的な友達というものが見当たらないの。

 仕方がないから、当時の収賄の件を調べている、という名目で、そのついでに男爵を当時知っている人――仕事でも構わないわ、探して当たってみているの。

 そこで一つ、興味深いことを言った人が居るのよ。

 そもそも子爵様に、令嬢の結婚を反対したひと。

 そんなひと居たの? と思ったけれど、居たのよね。

 男性ばかり見ていたから気付かなかったのよ。

 貴女のお母様にも友人が居たということをちゃんと考えれば良かったんだわ。

 そこで私、子爵様から『家にわざわざ来てくれる程のお友達』を聞いたのね。

 三人、見つかったわ。

 一人は現在ルルカ男爵夫人となっているエリーゼ様。

 次に実業家のサムサ夫人となってるジュリエール様。

 最後にタシュケン子爵夫人のマリューカ様。

 よく遊びに来ていて、結婚には反対したせいで縁遠くなってしまったんですって。

 あ、それと。

 もう一人、もの凄く…… 直接貴女のお母様とは関係は無いけれど、私の母様についてよく知っているひとを見つけたわ。

 スリール子爵という方。

 きっかけはオラルフさんが共同で使っている事務所へ行った時のことなのよ。

 やっぱりロルカ子爵のあおりを食らって、オラルフさん一人で事務所を構えていられなくなって、カムズ・キャビンさんと一緒に事務所をやることになったんですって。

 そのカムズ・キャビンさんの担当している方の一人にスリール子爵という方が居るのだけど。

 この方が、私を見て驚いたのね。

 何故だと思う?

 スリール子爵はこう言ったの。『母上そっくりだ!』

 どういうこと? と私は思ったわ。

 そして手帳に挟んである家族写真を見せてもらったの。

 この方は婚期を逃してしまったとか、過去の恋に破れたとか、後でオラルフさんに聞いたのだけど。

 ……この方のお母様の若い時の写真見て私本気でびっくりしたわ。

 確かに私そっくりだもの」

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