第5話 覚醒
レオは目を覚ます。眼の前ではマリーナさんが寝ているが服がはだけている。
(この人は警戒心がないのだろうか…)
ん~と言いながら動くと胸が顔の目の前にきた。
抱きしめられていて動けないっ! レオは冷静になれっ冷静になれっとつぶやき収めるのであった。
午前中は昨日と同じトレーニングだ。ランダムにマリーナから攻撃される。
ずっとスキル<脱兎>を発動されせることで、素早く避ける。体力がなくなったら休む。そしてコロを召喚してマリーナさんがもふもふする。これの繰り返し。
「だいぶ継続して脱兎が使えるようになってきたじゃない。一回の発動で30分くらいは持ってるわね。」
レオは大の字になりぜえぜえ言う。
「マリーナさん。休憩。休憩時間ください。」
「もうへばっちゃったの。」
そりゃへばりもする。もう開始してから2時間はスキルを使いっぱなしだ。
「そろそろ次のフェイズに行ってっもいいかしら。避けるのはいいでしょ。次は攻撃よっ!」
マリーナがぴしっと指を立て宣言する。
「避けているだけじゃ戦闘に勝てないわっ。」
「たしかにそうですね。」
脱兎は逃げるだけのスキルだ。攻撃は普通にすれば良いのだろうか。
「結局のところ、レオあなたには脱兎しかないわ。脱兎しながら攻撃なさいっ。」
「そんなメチャクチャなっ。」
冷静になってレオは考える。確かに早く避けられると言うことはスピードアップしているということだ。そのままスピードを上げて攻撃するということか。
「ほら立ちなさいレオ。いつでも良いわよ。」
マリーナが手をクイクイっとし、レオにかかってこいと言う。
スキル<脱兎>を唱える。
おらっと言い、マリーナさんに斬りかかるが余裕でかわされる。実力の差が圧倒的に感じる。剣までも使わず避けるなんて…当てられる気がしない。
「集中なさいっ。レオ。今日は一発でも当てるまで終わらないわよっ。」
わかりましたと言いレオが切り続けるが一発も当たらない。
「視線でどこに斬りかかるかまるわかりよっ。考えなさい。何のために頭がついているのっ。」
そう言うと、マリーナが斬りかかってくる。
―――間に合わない。当たる。
刹那、召喚していないのにコロが飛び出し、マリーナの顔に体当りする。
―――今だっ
顔に当たる寸前でコロを避けるマリーナにレオは剣を振る。
マリーナが剣でレオの剣撃を止めた。
「合格よっ。まさか初日から当てられるなんて想定外よっ。コロちゃんのそんな使い方もあったのね。」
自分でも驚いた。コロはただのうさぎだ。強くはないだろうが戦闘も手伝ってくれるなんてっ。
◇
お昼を食べながらマリーナさんと話をする。
帝国のこと。騎士のこと。今の世界情勢など丁寧に教えてくれた。
「レオ。正直あなたはもう弱いとは言えないわ。冒険者でいうとDランクくらいかしら。」
冒険者でDランクというと初級冒険者と言われる地位を抜け独り立ちしたと言えるくらいの強さだろうか。
「そんなにですかっ」
レオは驚く。
「ええ。少なくともクリストフだっけ。アイツには絶対に負けないはずよっ。」
私が育てたからね。マリーナがえっへんと言いながら胸を張っている。
「それは本当に嬉しいです。帝都に行けば、いずれは会うことになるでしょうし。次会う時は決闘して倒します。」
「そうね。でもまだまだよ。少なくとも私に単独で1撃は入れないとねっ。」
マリーナさんが頭をなでてくれる。むず痒い気持ちになるが、褒められるのは素直に嬉しい。
「午後は私じゃなくて魔物と戦ってもらうわ。私と戦う以上に学ぶものもあるでしょう。」
ついに魔物と戦うことになるのか。一昨日ゴブリンに殺されかけたことを思い出しゾッとする。大丈夫だ。今は脱兎も使える。最悪逃げれば良いんだから。オレは騎士になるんだっ!
「はい。頑張ります。」
「まずはしっかり食べなさい」と言いながらマリーナさんが笑った。
◇
森の中を警戒しながら歩く。
マリーナさんは数メートル以上距離を離れて見守ってくれているはずだっ気配を消されていて分からないが。
さっきゴブリンとあった時は、2発で倒せた。無傷で勝てたことが自信につながった。
―――嫌な予感がする。
木の裏に隠れて、前方の様子を伺う。
ビッグベアだ。
ベアは魔獣の強さとしてDランクだが。この大きさはビッグベアだろう。強さ的にはCランクだろうか。まだビッグベアはオレに気がついていない。
逃げるか。先制攻撃するかっ。
ここは先制攻撃だっ。
レオはかける。ビッグベアの腹を切る。
こんなんじゃダメだ。何発も何発も叩き込むんだっ!
3発は腹に叩き込んだっ。
ビッグベアが吠えながら、右手を振り下ろすっ。
咄嗟に後ろに体を倒して、寸前でかわす。
危なかった。カスッた前髪が宙に舞っている。これは当たったら一発で死だ。
汗が頬を伝う。
さっきのマリーナさんとの戦いを思い出せ。狙うのは顔。カウンターで打ち込む。
ビッグベアと対峙するっ。
またレオは斬りかかる。速さで上回っている。何度でも斬ってやるっ!
ビッグベアはダメージの蓄積と自分の攻撃が当たらないことで、しびれを切らして左右連続で腕を振り下ろす。
一撃目は躱せたが二撃目は間に合わない。剣で受けようとするが力が強い。
レオの体が数メートルは後ろに吹っ飛ぶ。
ゴホッゴホッと咳き込む。危なかった。後、数秒遅かったら死んでいた。
ビッグベアは立場が逆転したと思っているのだろう。少し笑っている気がする。
でも、油断しているのはチャンスだっ。
レオが駆け出す。
「これで決めるっ!コロッおいでっ!」
ビッグベアの手前でコロを召喚する。召喚した頃はビッグベアの股をくぐり、それに視線を追ったビッグベアの頭が下がる。
―――今だっ
レオの一閃はビッグベアの頭と胴体を真っ二つにした。
「ハァハァ。マリーナさんやりましたよっ。」
倒れ込むレオにコロがすり寄ってきた。なでてあげる。勝てたのはコロのおかげだ。
「やるじゃない。レオ。」
倒れているレオにマリーナが抱きつく。
「間一髪でした。ビッグベアに勝てるとは思いませんでしたっ。」
私も驚いたわっ。止めようかどうか悩んだもの。
でも、勝てて良かったじゃないといい頭を撫でる。
「ありがとうございます。ヘトヘトです。」
その刹那、頭の中で音がしたっ
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■スキルLV.2:ウサギの耳
聴力を上げる。様々なことを聞くことができる。
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「マリーナさん。多分スキル覚えましたっ」
「あらっ良かったじゃない。」
ビッグベアの解体と魔石を回収しながらマリーナさんと話をする。今日はビッグベアの焼肉だっ!
どうやらスキル<ウサギの耳>を使ってみた感じだと5メートル先の音まで聞くことができるみたいだ。
戦闘スキルじゃないのは残念だっ。
もう夕暮れ。先程の戦利品であるビッグベアの肉を焼く。
口に頬張ると肉汁が溢れ出す。これは美味しいっ!
「レオ、あなたの成長速度は異常よ。予定を3ヵ月切り上げて街に向かうわ。次はダンジョンで色々な魔獣と戦いながら経験を積みましょうっ」
そうか。無能だって言われたオレを褒めてくれる…やばい。涙が出てきた。
「うふふ。かわいいわねレオ。ほらお姉さんが慰めてあげる。」
マリーナがレオを抱きしめ、よしよしと頭を撫でる。
レオは泣きながら幸せを感じていた。
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