第3話 修行しようっ!

 「マリーナさん。ここさっきも歩きましたよ。迷いましたよね。」


 「っそそんわ泣けないじゃない。レオのくせに生意気ね。」


 信じて着いてきていたが、どうやらマリーナは方向音痴だ。


 「ったく、修行っぽいから街道を歩かないって言ったのマリーナさんですよ。太陽で自分の位置を確認しながら歩けば、迷わず進めますよ。こっちです。」


 「あんた生意気ね。ねえコロちゃん出してくれない?レオにいじめられてもふもふポイントが枯渇しているの。」


 「だめです。それ10分前にもコロ出したじゃないですか。」


 そう言うとケチと言うマリーナ。


 街は南なので太陽を背にして進めば着けるはずだ。


 マリーナさんが真剣な顔して話し始める。


 「あんた。帝国騎士になりたいんだっけ。」


 「はい。帝国騎士になることが夢です。帝国のために働きたいと思っています。」


 マリーナがため息をつく。


 「帝国騎士なんて、自分の地位しか考えていない組織よ。足の引っ張り合いに出世のための汚職。組織として腐ってると言っても間違いないわ。」


 「そうなんですね。ってなんで知ってるんですか。」



 「あれ言ってなかったっけ、私帝国騎士にいたのよ。その時に、あなたの爺様にお世話になっていたのよ。」


 そんなこと聞いていないんですけどっ!


 「それにいいの。クリストフたちとも同僚になると思うわ。あんな事件起こすような奴らだもの。命狙われるかもしれないじゃない。」


 「だからこそ、ちゃんと鍛えないといけませんねっ。」


 オレはもう自分の夢に嘘はつかない。


 まっすぐ進むだけだ。


 「決意は固そうね。わかった。私もお爺様に約束した以上、あなたを鍛えなきゃいけないもの。」


 「はい。よろしくお願いします。」


 「今から、ずっとスキル<脱兎>使用しなさい。」


 「えっ脱兎ですか。」


 そう。使うのよとあくびをしながらマリーナさんが言う。


 本当にこの人を信じて大丈夫なのか…


 「やるの。やらないの。」


 やりますといい、スキル脱兎を唱える。


 ただ脱兎をすることで、避けられるだけなのに何を良ければいいの。


 「レオ、あなたはユニークスキルのことを理解していないわ。ほらいくわよっ」


 マリーナが拾った石を高速でレオに投げる。


 寸前のところでかわす。


 「危ないじゃないですか。マリーナさん」


 「訓練だって言ってるでしょ。それに敵は待ってくれないわよ。」


 と言うと次はファイヤボールをマリーナがレオに無詠唱で放つ。


 クっ。危なかった。今のは石につまずかなかったら当たっていた…


 「なるほど。これくらいのレベルなのね。今の魔法速度はだいたい帝国騎士だったらザラに居るレベルよ。つまりこれを真後ろから打たれても避けられたら、まあ普通に戦えるわよね。」


 理論は分かるが、普通に説明してくれたら良いじゃない。と言う。


 それじゃあ面白くないじゃないとマリーナさんが言う。


 「あなたが前を歩いて、私が後ろから不意をついて攻撃するわ。それをずっと避けるの。脱兎を使いながら動けるようにしなさいっ。」


 はいっよろしくお願いします。レオは脱兎をまた使うのであった。



 「こんなところね。15分も連続で使えればまあ最初にしちゃあ悪くないわ。」


 スキルを連続で使うことでMPが枯渇したのだろう、きつくて膝をつく。


 「はぁはぁ。そうなんですね。こんなに疲れるなんて思っていませんでした。」



 「はいお代。ころちゃん1もふもふでいいわよっ」


 マリーナさんが優しいと思っていたオレがバカだった。


 「MPが枯渇しているのに。コロだすのも疲れるんですよ。」


 「ダメよ。ほらさっさと出しなさい。」


 「わかりましたよ。コロおいでっ」


 コロを召喚する。心配そうな顔でオレを見ている。優しいのはコロだけだよっ。


 マリーナさんがコロを抱きかかえて顔を埋めている。


 鬼の顔にもうさぎだ。


 「なにか言った? 」


 マリーナがオレをにらむ。この人は人の気持ちが読めるのだろうか。


 すぐにコロは消えてしまった。


 「これじゃあもふもふ足りないわ。ほらっまたワンセットいくわよっ。脱兎使いなさい。」


 「いやまだ回復していませんって」


 痛ってぇ。頭に石がヒットする。


 「ほら無理にでも脱兎使わないと避けられないわよっ。そして後ろを見ない。気配を感じなさい。」


 石だから痛いですんだが、魔法だったら殺される…


 『スキル脱兎』


 「ふふふ。その調子。」



 こんな感じで、5回セットは脱兎を発動し、ずっと避けた。さすがにもう立ち上がることはできない。


 思うとおりに身体が動かない。


 「今日はここまでにしましょうか。日も暮れてきたわ。」


 マリーナが倒れているレオに手を差し出す。


 「ハァハァ。ありがとうございました。」


 ありがとうございました。という言葉を発した瞬間マリーナがファイヤボールをレオに放つ。


 『スキル脱兎』


 危なかった。本当にMPが尽きていたら、全身が丸焦げになっていた…


 マリーナがニコっと笑い。レオを抱きしめる。


 「あんた、避けられると思わなかったわ。まさか至近距離から避けられるなんてね。」


 上機嫌に言うマリーナはリュックを下ろし、テントの設営を初めた。


 「びっくりしましたよ。テント手伝います。」


 いや、結構よさすがに立てないでしょ。


 「はい。ありがとうございます。」


 「子どもは寝ときなさい。」


 『スリープ』


 マリーナが睡眠魔法をレオにかける。


 「最初っから15分前後スキルを継続できて、それを何セットも繰り返せるなんて。普通なら1分ももたないわ。レオあなた何者よ…あの爺さんとんでもない化物を育てていたわね。」


 寝たことを確認して、独り言をつぶやく。


 「さっさと動かないとね。まずはテント設営しないとっ」


 少年は幸せそうな顔で寝ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る