第2話 出会い。そして始動。
どうやら俺は気絶していたのか。レオは意識が戻る。
体が痛いし、ショックで起きれそうにない。
でも家に帰らないと…リリーになにかあってからでは遅い。
一緒に騎士になろうって話をしてたのにな……
なんとか、立とうとするがバランスを崩し、倒れ込む。
脚を怪我するだけでこんなに歩きにくいんだ。
俺は冒険をなめていたのかもしれない。
所詮、田舎村の子供なんてうまくいくわけないんだ。
泣きそうになる自分を奮い立たせ、歩き始める。
なんとか足を引きずりながらも二階から一階に階段を下る。このまま村に帰ることができそうだ。
1Fの広間を覗くと言葉を失った。
なんだコレ――
ゴブリンが10体はいてなにかに群がっているようだ。
普通、ダンジョンの1Fからゴブリンが10体も居るわけはない。
目を凝らしてみると「呼び出し玉」というモンスターをおびき寄せるお香に群がっているみたいだ。1Fにいるゴブリンが全部集まってきているのではないだろうか。
「クリストフ、そこまで俺のことがにくいのか。」
こんな陰湿な嫌がらせをするのはクリストフだろう。
悲しいを通り越して、もはや呆れるしかない。絶対に生きて返したくないとうことか。
ゴブリンのうちの1体がレオに気がつき、周りに合図を送っているようだ。
10体が群がるように襲いかかってくる。
逃げようか――むりだ。走れない。
戦おうか――むりだ。盾も壊されて攻撃を防げない。
少年は死を覚悟した。
とにかく、目の前の敵を倒さないと。剣で斬る。
それでも一撃で倒せる実力なんてない。
横から他のゴブリンが棍棒でレオの横っ腹を思いっきり殴る。
――ウゥゥ
あまりの激痛にレオはしゃがみ込む。
しゃがみ込むと脳天に棍棒が直撃する。
痛い。痛い以外何も考えられない。
怖い。死んじゃう。もうだめだ。
全身を殴られ、剣も取られたようだ。
見上げると先程までレオが持っていた剣をゴブリンが振り下ろす。
爺ちゃん、リリーごめん。俺はもう帰れそうにない――
『シャインレイン』
大きな爆発音と目が開けられないほどの光が少年の周りを包む。
どうやら助かったみたいだ。
「あっありがとう…」
瞼が重い。また気を失いそうだ。女性がレオを抱きかかえ歩く振動を感じながら、少年は目を閉じた。
◇
目を覚ますと、見覚えのある天井があった。
無事家に帰れたみたいだ。夢だったのかと思うけど、この痛みは現実だ。
歩けないほどではないが、実際に体に痛みが残っている。
リビングに向かうと祖父と女性が話している。どうやら盛り上がっているようだ。
「俺どうやって帰ってきたの。」
女性が答える。
「私が助けたのよ。危なかったわね少年。少し遅かったらあなた死んでたわ。」
俺は最初にお礼を言う。
「ありがとうございました。私の名前はレオンハルトです。名前お聞きしてもよろしいですか。」
「じじいの孫とは思えないくらい礼儀正しいわね。私はマリーナよ。冒険者をしてるの。」
……どうやら女性の口は悪いみたいだ。
「冒険者ですか…」
冒険者という言葉を口にすると、先程のクリストフのこと、自分のスキルのことを思い出し涙がポロポロと落ちる。
「なっ泣かないのレオンハルト。」
マリーナが席を立ちレオの前に立つ。
片足をつき目線を合わせて頭を撫でる。
「まずは泣き止んで。何があったか。説明してごらん。お姉さんが聞いてあげるわ。」
恥ずかしくて情けないが、先程、クリストフからされたパーティの追放や命をねらわれたこと。それに自分のスキル兎のことを説明した。
「なるほど。パーティ内の揉め事は殺人の証拠でもないと憲兵も動かせないし、それにしても許せないわね。評判を気にして人を殺そうとするなんて理解に苦しむわ。」
裏切られたことも確かにショックだが、何より自分の無力さが悔しかった。
祖父がウンウン言いながらレオに話しかける。
「それでレオ、お前はどうしたいんだ。騎士の道を目指すのか。それとも今のままリリーやワシと農作業をやりながら平和に暮らすのか。」
「ちょっと待ってよ。もう騎士の道なんて無理だよ。さっきも話したじゃん! 」
感情に身を委ね机を殴る。
不機嫌になり声を荒げた。八つ当たりだ。
「レオ、お前が無理だと思えば、それは無理じゃ。そこまで甘く世の中はできておらん。ただ、可能性は1%に満たないかもしれない。少しでも可能性があるなら――それを信じて必死にもがく。それが男の夢じゃないのか。」
ずっと、騎士になりたかった。その夢に嘘はつけない。
爺ちゃん俺――
「改めて騎士を目指すよ。もうスキルを言い訳にしない。爺ちゃんやリリーに迷惑はかけられないから旅に出たい。良いだろ。爺ちゃん。」
「……お前の父親と一緒じゃの。あいつも野心に溢れておったわい。」
「まだレオは15歳じゃし、独り立ちするには世界を知らなすぎる。それでじゃ。マリーナと旅をしながら修行するのはどうじゃ。」
「マリーナさんと…でも迷惑にならない? 」
「私なら大丈夫よ。行くところはあるけど、同行しながら修行つけるわ。死ぬ気で成長したいなら鍛えてあげる。お金の心配ながらしないで、死ぬ気で働かせるからっ。」
笑いながら鍛えるというマリーナさんの目は笑っていないのが恐ろしい。
レオは頭を下げる。
「はい。マリーナさんよろしくお願いします。」
◇
部屋にいたリリーを呼び、4人で食事をする。
昨日までの無力な毎日が嘘みたいだ。今は活力に満ちあふれている。
リリーに旅立つことを伝えると大泣きしたが、事情を説明した。お兄ちゃん立派な騎士になるからなと指切りげんまんした。
「クリストフにマリーナが遅れを取るとは思えんが、明け方、太陽が登るときには村を出たほうがいいだろう。」
今日でこの家ともさよならしないと。
そう思うと少し悲しくなった。やっぱり寂しいな。
リリーが泣きつかれたのだろう寝息をたてて寝ている。
可愛くて頭を撫でる。
ふにふにした頬にサラサラの透き通った金色の髪。兄ちゃんリリーのためにも頑張るからな。
部屋の荷物整理をしているとマリーナが部屋に入ってきた。
「家事ができる男はモテるわよレオンハルト。」
乱暴に椅子を引き寄せどかっと座る。お酒が進み酔っているようだ。
「レオでいいですよ。マリーナさん。」
そっと返事をし、興味なさそうにビールを飲むマリーナ
「あんた気がついていないかもしれないけど、<うさぎ>ってユニークスキルよ。」
……ユニークスキル。本で見たことがある。S級を超えるスキルのことだっけ。
「えっでも神父さんも分からないって言ってましたよ」
「田舎の神父に何が分かるっていうのよ。私が言うんだから間違いないわ。」
相変わらずマリーナの口は悪い。
「レオ、手出しなさい。」
躊躇っていると腕を捕まれ引っ張られる。
腕に金色のブレスレットを着けられる。
「これってなんですか。」
「プレゼント。手でブレスレットを握って魔力を流してみなさい。」
魔法は小さい頃から練習していたが流すことはできなかった。
「でも魔力なんて流せませんよ。」
「いいからやれってんのよ。」
頭をスパンと叩かれる。今髪の毛が切れた音がしたんだけど…。
ブレスレットを右手で持ち、目を閉じて魔力を流そうとするが何もならない。
「あんたへたくそね。一度しか言わないわ。目を閉じて深呼吸。そして大事な人を思いながらその人達への思いを念じるの。」
偉そうに酒を飲みながらマリーナが伝える。この人本当に大丈夫だろうか。
大きく深呼吸。俺の大事な人は爺ちゃんとリリー。離れるのは寂しいけど俺頑張るよ。
ブレスレットが光だし、目の前に真っ白のうさぎが現れた。
「マリーナさんなんか出ましたっ! 」
それがあなたの<うさぎ>よ。名前つけてあげなさい。
名前…名前なんにしよう。兎を見ると全身真っ白で目が赤い。
「キミの名前はコロ。よろしくね。」
名前を呼ぶとコロは嬉しそうな顔をして消えていった。
「マリーナさん大変です。消えちゃいました! 」
大声でマリーナの名を呼んだことに驚いたのだろう。
げほっげほっとマリーナが咳き込む。
また明日説明するわ。お姉さん眠いから先に寝るわね。といって部屋を出ていった。
本当にユニークスキルだったら、俺も騎士になれるかも。でも兎ってどうやって戦うのだろう。召喚獣としても弱そうだし。明日からはとにかくマリーナさんには迷惑はかけられない。部屋の整理も一段落したし、そろそろ寝るとしよう。
◇
「それじゃ爺ちゃん。リリー行ってくるよ。」
リリーは眠そうな目をこすりながら手をふる。
「お兄ちゃん。手紙送ってね。」
落ち着いたら送るねと頭を撫でる。リリーは世界で一番かわいい。
「それじゃ少年、行くわよ。」
昨日の酔っぱらいとは大違いだ。マリーナは魔道士のローブを羽織り、先に行ってるわね。といい。進みだす。
「爺ちゃん。今までありがとう。リリーのこと頼むよ。」
「レオもちろんじゃ。最後に一つだけアドバイスじゃ。マリーナを信じなさい。心折れても食らいつくんじゃよ。」
「わかったよ。爺ちゃん。」
爺ちゃんとハグをする。こんなに小さかったっけ爺ちゃん。なんとも言えない気持ちになる。
リリーにもハグをし、手を振り走り出す。マリーナさんを待たせるわけにはいかない。
「それじゃあ。行ってきます! 」
見えなくなるまで、何度も振り返り手を振った。
「少年、早かったわね。感動のお別れはできたかしら。」
「レオですよ。マリーナさん。」
マリーナさんは村のハズレで待っていた。レオが追いつくと歩き始める。
「ところでマリーナさん。なんで爺ちゃんと知り合いなんですか。」
「あら聞いてなかったの。爺さん昔帝国の騎士だったのよ。その時お世話になってね。」
びっくりして転けそうになる。
まさか。憧れの帝国の騎士がこんな身近にいたなんて。
「手紙もらったのよ。レオを連れて行ってほしいって。神託であなた落ち込んでたらしいけど、ずっと頑張ってたらしいじゃない。」
見ている人がいたんだ。毎日剣を振っていたのは無駄じゃなかったんだ。
爺ちゃん…俺なんかのために…
ダメだ、涙が出てきた。
「なに泣いてんのよ? マリーナ様の弟子になったからにはイエス以外言わせないわ。それにこれから地獄を見てもらうから気合い入れなさい。」
母親のような慈愛に満ちた目でレオを見る。
それだけだったら感動したのだが、頭をスパンと叩かれた。
「マリーナさん優しいけど、ガサツだし暴力的だしモテナイでしょ――」
言葉を言い終える前に、手がレオの顔を覆う。あの痛いし、脚浮いてるんですけど…
「わたし、優しい…だけよね? 」
すごい笑みが怖い。
「はっはい。優しいです。」
ぱっと手を話し、冗談言えるようになるのはいい傾向ねとマリーナがつぶやく。
……冗談を超える痛みだったんですが。
「改めてよろしくね。レオ! 」
「こちらこそよろしくお願い致します。」
マリーナと握手をする。手から魔力が流れてきたのだろう。
うさぎのコロも出てきた足元を駆け回る。
「コロもよろしくって言ってますね。」
コロに気がついたマリーナがじっと獲物を狙うような目で見つめる。
「あのさ、うさぎって抱っこしても嫌がらないかしら。」
「……恐らく大丈夫かと思います。」
マリーナはコロを持ち上げ顔をうさぎにうずめる。
「きゃーもふもふね。もふもふおぶもふだわ。」
この人を信じろと言われたけど、ダメかもしれないよ爺ちゃん。
「もふもふで回復したし、さっそく森を抜けてまずは商人の街『サンタルーク』目指すわよ。」
二人と1匹は歩き出す。この二人の伝説の始まりであることをまだ誰も知らない。
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