始めは処女の如く。終りは脱兎の如し。スキル兎<うさぎ>は最弱スキル?追放され殺されかけたパーティは眼中にありません。

神谷みこと

第1話 スキル兎<うさぎ>は最弱スキル!?

 俺が生まれたラインラントの村は帝国と王国の国境の間に位置する。十数年前は戦争で荒れていてらしい。田舎ということもあり、豊かとは言えないが今は平和そのものだ。


 父と母に関する記憶はない。どうやら戦争で亡くなったときいた。それからはじいちゃんに育てられてきた。家族は爺ちゃんと妹のリリー。そしてペットに兎を飼っている。


 田舎で自然しかない俺にも夢がある。夢は帝国の騎士だ。


 帝国が王国と戦争になった時、活躍したのは帝国の騎士だった祖父から聞いた。


 光り輝く鎧を着て帝国のためにつくす。そんな将来を夢見て、祖父からの愛情いっぱい受け、時に怒られながらも妹のリリーと一緒に過ごしていた。


 ついに明日は15歳の誕生日だ。15歳になると神からの恩恵<ギフト>としてスキルが貰えるという。


 『スキル』とはこの世界においてもっとも重要視される能力の一つである。騎士になるためには、剣の扱いが上達する剣術や戦士などのスキルが引けるといいらしい。


 どのスキルが貰えるかは神が決めることらしい。神託というみたいだ。もし伝説と言われるスキル『勇者』なんて引いたらどうしよう。その場で、スカウトされちゃったりしてと妄想すると眠れなくなる。


 「レオンハルト、明日はスキルが貰える日だろう。早く寝なさい。」


 はい。お祖父さん。早く寝れるようにと布団を頭までかぶるが、気持ちが高ぶり寝れそうにない。


 「お兄ちゃん起きてる。」


 そう聞いてくるのは妹のリリーだ。年齢は2個下で、可愛い妹だ。


 「まだ起きてるよ。明日のこと考えたら眠れなくてさ。」


 「お兄ちゃんなら大丈夫だよ。リリーも応援してるから、頑張ってね。」


 スキルの選定に頑張るもなにもないのだが、気持ちは嬉しい。


 「ありがとう。リリー。お兄ちゃん頑張るよ。」


 隣のベッドからリリーの寝息が聞こえてくる。俺はまだ寝れそうにない。うさぎでもなでて落ち着こう。



 スキルは神からのギフト<神託>だと考えられており、スキルをもらうためには教会に行く必要がある。あいにく田舎のラインラントの村には教会がない。隣町の丘の上にある街『ラルクヒル』に向かう。


 今年、神から恩恵を受けるこどもの数、総勢5名を運ぶために神父さんが馬車で迎えにきてくれた。


 馬車に揺られること十分。緊張で誰も言葉を発しない。


 「レオ、お前も緊張しているようだな。」


 幼馴染のクリストフが肩を抱き話しかけてくる。


 「大丈夫だレオ。それに俺たち今まで剣の修行してきただろ。絶対良いスキルもらえるって。」


 クリストフとは腐れ縁と言うやつだ。記憶があるときから一緒にいると思う。背はレオンハルトより高く15歳にして175cmはあるだろうか。頼れるお兄ちゃんのように接してきた。


 「痛いよ。クリストフ。わかったから。お互い良いスキルがもらえるといいね。」


 「おう。俺は速攻で冒険者になって、18歳になったら帝国で騎士団の試験受けるぜ。」


 「何回も聞いたよ。俺も負けてられない。」


 「一緒に冒険者になって、その後は騎士団に入ろうぜ。ラインラントの田舎町から二人も騎士が生まれるなんて誰も思わないけど、俺たちならできるっ」


 俗に言うハズレスキルだったらどうしようと不安になっていたが少し元気がでた。


 なにか嫌なことが起こる気がする。嫌な汗が背中を伝う。こんなときは神頼みしかない。神様お願いします。手を握り神に祈った。


 それから10分はたっただろうか。馬車が止まり、教会の前に着いたみたいだ。


 「少年たち降り給え。教会に着いたぞ。」


 教会の中はステンドグラスから光が差し込むのが神秘的でとても綺麗だ。


 さっそくだが君たちに神からの恩恵である神託<スキル>が与えられる。一人ひとり名前が呼ばれたら渡しの前に来て神に祈りなさい。


 それではまずアイーダから。


 名前を呼ばれた子から神託であるスキルが与えられるみたいだ。


 神父がふむふむ。と頷き「アイーダは盗賊」と声高らかに宣言した。


 ケヴィンは『弓使い』マリアンネは『火の精霊サラマンダー』


 どんどん神託は進む。


 次、「クリストフは『戦士』」


 他のこどもや神父がクリストフに笑顔で拍手を送る。


 戦士はスキルの中でもBランクと言ったところか。戦闘が得意になるスキルで主に体力と力が伸びる。俗に言う当たりスキルだ。


 「やったぜ。これで騎士になれるっ。」


 クリストフはガッツポーズを何回も繰り返している。それだけ嬉しいのだろう。正直戦士のスキルは羨ましく思う。


 Bランク以降は帝国の高等学校にて授業料無料で受けられる特典もあるらしい。帝国のお膝元で英才教育を施す。俗に言う青田買いと言うやつだろう。


 教会としても泊がつくのだろうか。アイーダにケヴィンやマリアンネ、そしてクリストフに帝国の学校への進学を勧めている。


 ここまでBクラスのスキルが多発しておりこんな当たり年はないと神父等も嬉しそうだ。教会にも派閥があり担当地域の子どもがレアスキルを引けるかどうかと言った大人には力関係があるのだろうか。


 そしてついに俺の番がやってきた。

 

 「そして最後レオンハルト」


 俺は神父の前に進み手を握り神に祈る。


 お願いです。神様。当たりスキルを下さい。


 神父が顔を歪める。


 「これは見たことがない…兎<うさぎ>だ。」


 慌ててレオンハルトは目を開ける。


 なんだ兎って。たしかに兎は飼っているが…今までそんなスキル聞いたことも見たこともない。


 「そう。兎だ。こんなの始めてみた。知っ調べるから。少し待ち給え。」


 神父等が集まりあーでもないこーでもないと話し合っている。


 「少年。兎というスキルは今までの記憶にないから。当たりかハズレかどうか我々では判断できない。どちらであれ精進しなさい。」


 聞いたことがないスキルなんてどうせハズレスキルに決まってる。レオは落ち込んだ。


 神に選ばれなかったんだ。爺ちゃん、リリーごめんなさい。俺はダメだったみたい。


 「皆、今日は良いスキルが神託できて嬉しく思う。さっそくステータスでスキルを確認してほしい。」


 一縷の望みにかけてスキルを見ている。


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■スキル:兎

スキルLV.1脱兎

逃げる速度を上げる。素早く逃げることができる。


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 実は隠れた優秀なスキルというわけではないみたいだ。逃げるだけって。どうやって戦えば良いんだ。


 クリストフやケヴィン等とパーティを組むことや騎士になる夢もここで終わりだ。


 俺以外全員Bクラス以上のスキルをもらっていて帝国の学校に行くのだろう。


 寂しい気持ちがこみ上げてくる。


 帰りの馬車では他の面々は嬉しそうに夢を語っている。


 落ち込んでいる俺にクリストフが話しかけてきた。


 「レオ、落ち込むなよ。俺たちは学校に行くけど、夏には帰ってくる。その時は一緒に冒険しようぜ。」


 「そうだな。俺も負けないように修行しておくよ。」


 それから1週間がたち同学年の仲間たちは帝国の高等学校に入学していった。


 俺は相変わらず、リリーと爺ちゃんと一緒に畑作業に勤しんでいた。うちに奨学金なしで帝国の学校にいけるお金はない。


 夏にはクリストフたちが帰ってくる。畑仕事が終わったら一心不乱に剣を振る。まだ騎士になる夢は諦めきれない。



 夏になり、学校は夏休みになったのだろう。クリストフ達が村に帰ってきた。


 「レオ、元気にしてたか。帝都の学校はすごかったぜ、明日は皆でダンジョン行こうぜ。」

 

 思い出話に花を咲かせる。帝国の学校の話はまさに夢みたいな話だ。一流の講師に一流の実習。魔法から剣術まで幅広く教育が受けているみたいだ。


 正直、羨ましい。けど俺にはスキル兎しかないから…



 俺はクリストフたち幼馴染5人でダンジョンに潜っていた。俺以外全員Bクラスのスキル持ちだ。足だけは引っ張らないようにしないと。


 ダンジョンに潜るとすぐにゴブリンの群れ3体とウルフ1体に出くわす。まだ敵はこちらに気がついていない。


 俺にとっては初めて見る魔物だ。実際の命のやり取りに足がすくむ。


 「レオ、ビビるな。行くぞ。」


 クリストフが剣を鞘から抜き、ゴブリンに突っ込む。まさに電光石火。さすがは戦士のスキル持ちと言えるだろう。


 「来るぞっケヴィン、マリアンネサポート」


 敵がこちらの奇襲に気が付き攻撃するために駆け出してきた。ケヴィンが矢を放ち、マリアンネは火魔法「ファイヤーボール」を放つ。


 矢と魔法が当たりゴブリンは倒れる。


 仲間が倒れるのに動揺したウルフが反転し、逃げ出す。


 「遅い。」

 

 盗賊のアイーダがウルフに追いつき短剣で喉に刺す。


 すべて一撃で敵を倒す。俺は動けなかった。いや、何もできなかった。


 クリストフがゴブリンから魔石を取り出しながら話しかけてくる。


 「レオ、お前何やってんだよ。」


 俺だって毎日剣を振っていた。振っていたが、ここまで差がつくものなのか。神託があるまでは同じくらいの強さだったのに。今ではクリストフが圧倒的に強い。


 「チッこれだからハズレスキルは。」


 「…」


 何も言い返せない。実際にレベルも能力もクリストフ達とは歴然の差がついてしまったのだろう。


 その後も、ダンジョンをサクサク進む。俺はただ魔石を拾うだけ。皆のアイテムを持つ係だ。


 ボスのゴブリンロードをクリストフのスキル、乱れ突きでサクッと倒し、当初の予定通り、ここまでで引き上げようとしていた。その時、


 「おい、レオ」


 「なに。」


 「お前、なんとも思わねえのかよ。」


 「…」


 「戦闘では何も力になれない。ただ魔石とアイテムを拾うだけ。経験値泥棒して楽しいか。」


 クリストフの言葉は厳しいが正しかった。俺はこのダンジョンに来て剣を振ってすらいなかった。


 「さすがはランクなしってところか。かわいそうだがこれが現実だ。」


 俺たち学校でスキルのレベルも2まで上がったんだ。レオお前のレベル1のスキルなんだっけ。


 「脱兎だよ。今は良いじゃないか。ほら村に帰ろう。皆待っている。」


 「逃げるのが得意だったな。そうだ面白いゲームを思いついた。今はダンジョンの5階だ。レオお前俺達から逃げてみろよ。」


 「えっ冗談だろう。」


 「俺が冗談言うと思うか。そうだな。レオンハルトに一番攻撃を当てたやつが今日の報酬全取りっていうのはどうだ。」


 冗談だろと思い。他のメンバーの顔を見る。皆、顔が本気で獲物を狙う目でレオを見ている。


 「5階だし、今通ってきた道だから道も覚えているだろ。30秒後に追いかけるぜ。ほらレオ脱兎使って逃げろよ。」


 クリストフが不敵な笑みを浮かべながら剣についた血を布で拭っているる。


 「ほら、ケヴィンもマリアンネもアイーダもやる気だぜ。なに心配するな。ダンジョンでは不慮の事故はつきものだからな。」


 後20秒とマリアンネがカウントを続ける。本気だ。

 僕は道具を捨て、剣だけを持って駆け出す。


 ハァハァ。息が苦しい2階までなんとか逃げてきた。このまま広間を突っ切って1階まで走りきろう。


 あまりに焦ったのだろうか、石に躓きよろめく。


 よろめくとケヴィンが放った矢が頭上を通過した。


 危なかった。当たったらひとたまりもない。


 足はよろめくが進行は止めない。


 横に黒い影が見える。盾でガードしないと。


 ギンと鈍い音が広間に響く。


 いつの間にか並走していた盗賊のアイーダが短剣で刺そうとしたのだ。


 「ファイヤーボール」


 連続で攻撃が飛んでくる。特技脱兎で寸前のところで躱す。


 「そろそろ飽きてきたな。おらっレオ吹っ飛べ。」


 クリストフが乱れ付きのスキルを使ったみたいだ。一撃なら避けられるが連撃は流石に避けきれない。


 盾が割れ、腕や足に無数の切り傷ができる。血が出るとともにグフッと声が出る。


 「やめろよ。クリストフ。」


 クリストフが大きく笑いながら足をレオの上に乗せる。


 「皆聞いたか。グフッだってよ。こんな奴と一緒の村で生まれたと思うと死にたくなるぜ。レオよく聞け。俺たちはな今ラインラントの村出身の勇者候補として話題になってんだ。それなのにお前みたいなザコがいるから、全員が選ばれし者っていう筋書きになってねえんだよ。だから、お前邪魔なの。」


 クリストフが唾をはく。


 「邪魔なのお前。村からも消えてくれ。面汚しなんだよ。」


 俺は動揺した。昨日はあんなに話が盛り上がったのに。それに、俺を待ってるというのは嘘だったのか。


 「明日も村にいたら、お前マジで消すからな。大好きなリリーも無事だと思うなよ。まぁこのまま魔獣の餌になるのも良いかもしれねえな。」


 「リリーは。リリーは関係ないだろ。」


 怒りがこみ上げてくる。ここまでされる仕打ちはないだろう。


 それに他のメンバーは止めようともしない。蔑んだ目で俺を見ている。皆俺を邪魔だと思ってるんだ。


 「お前と情けで一回はパーティ組んでやったが、誰にも言うんじゃねえぞ。恥ずかしくて帝都で馬鹿にされちまう。」


 小さい頃から五人でよく遊んでいたし夢を語り合っていた。


 それもすべて儚い夢だったんだ。


 「お前の相手も飽きたし俺たち先に戻るわ。こういうの世間では追放って言うらしいぜ。じゃあなレオもう会うこともないだろう。」


 クリストフの笑い声が聞こえる。皆去っていったみたいだ。俺は出血と痛みで気を失った。


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◇レオンハルト能力棚卸し

名前 :レオンハルト

レベル:5

攻撃力:10(+30)錆びたソード

防御力:15(+5)壊れた盾/村人の服

魔力 :15

スキル:兎

スキルLV.1脱兎

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