四話 叶えてあげたいから
「うん、良いね!」
方丈
「春の午後~、ひねもすのたり、のたりかな~」
スマホを返された
先ほど、黄泉比良荘の玄関前(大家の方丈
真面目顔で直立する
「桜がないと気分が出ないっしょ?」
方丈
こたつの上掛けの端には、飼い猫二匹が丸まって寝ている。
ここは、彼女の家の六畳の和室だ。
応接間として使っているのだろう。
床の間があり、掛け軸には『満月と川』が描かれている。
その下の花瓶には、写真に映り込んだ桜の枝が生けてある。
写真を撮るために花屋さんで買ったらしい。
塀の横に枝を固定して撮影したのだ。
写真を撮ってくれたのは有難い、と
父と祖母に送れば喜んでくれるだろう。
他の生徒や保護者は校舎近くの桜の前で撮影をしていたが――。
「あの……大家さん」
保護者が来なかった生徒に渡された『保護者説明会』の概要を記したプリントだ。
「ああ、これね」
方丈
「……ふーん。昔とあんまり変わらないね。お決まりの文章だ」
「え?」
「私も、あの学校に通ってたんだよ。卒業は出来なかったけど」
「そうなんですか?」
彼女は、校内の道筋に詳しかった。
同時に、二号室の住人をも思い浮かべる。
彼も、同じ高校に通っていたと言っていた――。
「それと……新聞の件ですが」
探るように言うと、方丈
彼女の部屋に転移した時に、ベッドに置き忘れた切り抜きだ。
――ある人に会わせて下さい。
――若い頃、交際していた人です。
――先日、その人が亡くなりました。
――その人にお礼を言いたいのです。
――ひな人形を贈っていただいたお礼を。
「引き受けるかい? 朝に説明した通りだよ」
方丈
未だに、身に起きたことが信じられない。
完璧に理解しがたい。
しかし、どうにか窮地を切り抜けられた。
今も、気分は高揚気味だ。
こんな訳の分からない依頼を受けるなど、昨日までの自分なら有り得ない。
だが、超常の体験をして、目の前の大家の優しさに触れた。
今なら人助けをしても良いと――少しだけ思える。
それを読み取ったかのように、方丈
「じゃあ、記事に触れて。そして『引き受けます』と言えば、この依頼は君の案件となる。案件は、三日以内に解決するのがルールだ。未解決が三件続けば、ペナルティとしてアパートから退去して貰う」
「はい……」
言葉を紡ぐ前に、もう一度問う。
こんな奇妙なことに首を突っ込むのは間違っているのでは?
けれど、このアパートに住む条件は良すぎる。
大家も親切だ。
父と祖母を心配させたくない――。
「……引き受けます!」
疑念を振り切り、宣言する。
すると――記事に触れた手のひらが疼いた。
跳ね返されたように手を上げると、記事が変化していた。
顔を近づけると、文章が追加されていた。
――ある人に会わせて下さい。
――若い頃、交際していた人です。
――先日、その人が亡くなりました。
――その人にお礼を言いたいのです。
――ひな人形を贈っていただいたお礼を。
――平成十二年七月五日没
――長野綾子
「これって……?」
平成十二年は、自分が生まれるより前だ。
「依頼主は、今から二十年以上前の、その日付けに亡くなった女性だ。だが、依頼が来たのは昨日だろう。依頼主の大切な人が、数日前に亡くなったんだよ」
「どういうことですか?」
「依頼主の魂は、大切な人への想いを断ち切れていない。それゆえに霊界に行けず、二十年以上も此の世に留まっている。
「でも、どうやって?」
「依頼主に会おう。彼女は、今もその場所に居る。三号室の住人に頼もう」
「三号室?」
「
「その方には、お会いしたことがないですけど」
「紹介するよ。二人で協力するんだ。依頼主の大切な人の魂も、まだ現世に留まっている。亡くなって初七日を迎えていないからな。
方丈
―― 続く。
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