第7話 百合の娘

■百合の娘

◉常連客、旅人

◎人気のない酒場。マスターと旅人、他数人が静かに酒を飲んでいる。

常連客 「ここ、いいかい」

旅人に声をかけ、隣に常連客が座る。

旅人 「ああ」

常連客、適当なボトルを指差し注文。マスター、無言で提供。

旅人は飲み終わりそうなグラスを傾けながら、その様子をながめている。マスター、その視線と男の手元に気づくが、スルー。常連客、旅人の手元を凝視。

常連客 「なあ、おまえさん」

旅人 「なんだ?」

常連客 「お前さん、こんな辺鄙な場所に旅行かい?」

常連客 「おっと、警戒しないでくれ」

常連客、慣れた様子で答える。

旅人 「あんた、いつもそうなのか」

常連客 「疑われるのには慣れてるんだよ。(戯けた様子で)ちょっと大きい街に行けば交差点ごとに警察に声をかけられる」

旅人 「(軽く笑いながら)旅行だ」

常連客 「目的地が?」

旅人 「残念ながら。傷心旅行みたいなものだ」

常連客 「なるほど。……なら、面白い話を教えてやる」

常連客がグラスの酒を煽る。

常連客 「この街の入り口と反対側……街の中心から東の方へ抜け、村を二つ超えた先の村に、かわった娘がいるんだ」

常連客 「真四角の石造りの建物の地下、みたもの全てを虜にする娘がいるんだと。俺が聞いた話では、白い陶器のような肌に、太陽の光を写したようなブロンド、穏やかな笑みをたやすことはない……らしい」

旅人 「あんたは誰かからその話を?」

常連客 「ああ、まあ昔な」

旅人 「そうか、面白そうな話をありがとう」

旅人、立ち上がり店を出ていく。

常連客 「なあ、あいつはあの娘に会いにいくと思うか?」

常連客がマスターに話しかけるが、彼は我関せずという表情でグラスを磨いている。

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