第6話 見慣れぬ駅

■見慣れぬ駅

◉女性(二十代) 男性(二十代後半から40代前半)

◎マンションのベランダ。室内のテレビから天気予報の音声が漏れ聞こえる。

天気予報 「今日の天気は晴れのち曇り、夕方には俄か雨の降る地域もあるでしょう。続いては……」

女性 「雨かー。こんなに晴れてるのに、本当に降るのかなぁ……」

女性、空を軽く見上げ、洗濯物を取り込んでいく。

◎海辺の無人駅。ベンチが一つある。

女性「やっっばい! ここどこ?!」

虚空に向かって叫ぶ女性。左右を見回し、誰もいない、見慣れない光景に絶望する。

スマホのアラーム音が鳴る。画面を確認する女性。画面には8時30分の表記。と画面上部に圏外の文字。

女性 「家、出てからどうしたんだっけ……いつも通り電車に乗ったはずなんだけどな」

女性 「というか、山手線に乗ってどうすればこんな場所に着くの?!」

時刻表を探す女性。

女性 「なんっで! どこにも! ないのよー!!」

女性、海に向かって叫ぶ。反応はない。浜辺に降りる女性。日差しの強さに鞄から日焼け止めを探すが見つからない。

女性 「あー。昨日使い切ったんだった……もうこんな時間、仕事は間に合わないし……この間入ってきたあの子、私いないからっていびられてないといいけど」

女性、パンプス脱ぎ捨て、海辺へ駆け出す。子供のようにはしゃぐ女性。砂浜に仰向けに寝転ぶ。

女性、そのまま泣きじゃくり、泣き疲れて寝る。

寝ている女性を覗き込む男性。

男性「お嬢さん、こんなところで寝ていたら風邪をひくよ」

顔を覗き込んだまま声をかける。女性が目を開くと胸を撫で下ろす男性。

女性、起き上がりキョロキョロと辺りを見回す。

女性 「あの、ここはどこですか? 私、会社に行くために電車に乗ったんですけど」

男性、少し驚いた顔をし返答。

男性 「ここは、みたままの通り海だよ。いろんな人の悲しみと喜びをため込んだ終点だ」

男性、水平線を見据えて言葉を続ける。

男性 「空の青は喜びを、海の青は悲しみを、白い砂浜は人々を。ここは、疲れた人たちがたどり着く、最後の楽園なんだよ」

男性は女性の手を取り海へと歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る