第4話 大魔王の特訓
宿に帰ると、さっそく練習のため宿の裏手の庭にでる。
「短期間で剣術や体術、身体能力をあげるのは無理だ。
ゆえにシンジは魔力を使いこなさねばなるまい」
そう自称大魔王ベルは言う。
「でもオレができるのは魔力を身体に纏わせる身体強化と魔力弾をうてるだけだぞ」
「まあ、やってみよ」
オレは魔力を身体に纏わせる。
「ふむ、やはりムダが多いな。
それで魔力弾は」
オレが手のひらに魔力を集めると、小さな光る球ができそれを放つ。
「なるほど。
で試験とやらで多少は通用したのか」
「うんにゃ、相手も同じ身体強化してた。
オレの魔力弾も普通に弾かれて、木剣でぼこぼこにされた」
オレはそのときのことを思い出してベルにいった。
「まあ、そうだろうな。
相手と同じ魔力なら単純に総量の多い方が勝つ」
「だから、練習なんてムダよ。
そんなことより、その魔法の剣を使いこなした方がまだましなんだから」
メルアが空中を飛びながらほほに手をやりあきれながらそういう。
「ほほほ、そんなことはないぞ。
それにそのグランドレインを使ってもあまり意味はない」
「なんでよ。
あんたこの剣で倒されたんでしょ」
「倒されたのとは違うが......
まあいい、そのグランドレインは魔力を吸収、放出する剣だからな。
今のお主では使いこなせまい」
「えー!!」
オレとメルアは同時にいった。
「じゃあ! そのボンクラもう冒険者なんて無理じゃない!」
「そうだ! このボンクラもう冒険者なんて無理じゃない!」
「お主も自分でいうのか...... 哀れな。
だから教えてやろうというておるのだ。
先にも言ったが、お主はムダに魔力を使っておる
それをうまく使うだけで数倍強くなろう」
「マジか! それならそのやり方早く教えてくれ」
「そうよ! さっさと教えなさい!
シンジの体なんてどうなってもいいから!」
「お主たちというやつらは......」
ベルはため息をついた。
「まあよい、ではその全身に使っておる魔力を前だけにしてみよ」
「はあ? 前だけ?」
「うむ、後ろから攻撃などなかなか受けん。
ならば前だけにすれば半分ですむであろう」
「確かにそうだけど、そんなことできんの?」
「魔力は使用者の思う形や動きに出来る。
それを知らぬ者や考えぬ者はむやみやたらに大きくしたりするがの......
まあ、我も昔はそうだったがな」
そう言うとベルは魔力を手のひらで自在に形を変えて見せた。
「おお! すごい!
なんで教えてくれなかったんだよメルア!」
「知らないわよ! 私だってそんなことしたことないもん」
メルアは頬をふくらませプイッと横を向いた。
「まずは、我のように手のひらの魔力の形状をかえてみるのだ」
ベルに言われやってみる。
少し形はかえられるが、きれいな形にはほど遠かった。
「ム、ムズいな......」
「よくイメージするのだ」
夕方まで何度も繰り返すうち、形をかえられるようになってきた。
「かなり形を整えられるようになったな......
でも、疲れてきた......」
「うむ、魔力切れだな。
さすがに今日は切り上げよう」
「ハア、ハア、マダデキル
オレガンバル」
「バカね、疲れすぎて片言になってるじゃない。
魔力が切れたら気絶するわよ。
それに最悪ゼロになったら死ぬからね」
「え! そうなの!」
「そうだ。
グラン......
魔力とはこの世界をはぐくむ力でもある。
眠ればかなり回復するがな」
オレはふたりに言われ今日は宿で休むことにした。
次の日、朝から練習してかなり正確に魔力の形をかえられるようになった。
「よかろう。
一日でここまでなるとは、魔力は少ないが操作には才があるやもしれんな」
「マジで!
モテモテになれる?」
「モテモテ......
よくわからんが大抵のことは努力でなんとかできよう」
「マジか!
やったー!」
「無理よ。
顔は努力でなんともならないわ。
無意味な希望を与えるのは絶望を与えるぐらい罪なことよ」
寝っ転がりながら空を飛んでいるメルアが言う。
「ひっでえ」
「まあ、そう落ち込むな。
今度は目を閉じ魔力を限りなく薄く拡げてみよ」
「薄く......
こうか」
オレは言われたように目を閉じ薄く拡げてみた。
すると魔力が触れたものの形が見えなくても感じられる。
「うお! 何かあるのがわかるし、魔力が感じられる!」
「それが魔力感知だ。
厚くすればより詳しい情報が得られるが、今回は相手の魔力の動きを知るために使う。
では、体の前に魔力を集めてみよ」
「わかった」
オレは意識を集中して前方に魔力を集める。
「うむ、前に集まったな。
だが、それでは後ろの魔力が前に集まっただけだ。
まあそれでも防御力は上がっておるが他に使いたい。
魔力を薄くせよ」
「ムズいな...... こうかな......」
「ようし、そのまま、その状態を保つのを体に覚えさせよ」
それから夕方までこの反復練習をする。
「よし、これで今日の訓練は終わりだ」
「ぷはー」
オレは倒れこんだ。
「では、これを四、五日続ければ......」
「はあ!? そんな暇はもうないわ!
お金もあと少ししかないのよ!
明日試験に受からないと破産よ!」
「マジか!」
「ふむ、ならば仕方ないな。
この状態で行くしかあるまい。
あとは実戦で身に付けよ」
「えー!!」
オレは金欠ゆえ試験に望むことになった。
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