『のぞみとデート』
「ようこそおいでくださいました、勇者様方。どうかこの国を、魔王の魔の手からお救いください」
少し潤んだ瞳、思わず守りたくなるような儚い仕草、圧倒的な美貌。
全裸で土下座をして靴ぺろぺろするような今のリモーナとは最早別人にさえ思える彼女に、そうお願いをされた転移初日のことを思い出していた。
どう言う経緯なのか解らないけど、この国――バルバトスは魔王の脅威に脅かされている。そして今の俺は成り行きでバルバトス国王になった。そんな俺は思う。
内政とか面倒だし、この国嫌いだし――なんか便利そうな異世界のアイテムとかと引き換えにこの国、魔王あたりに売り飛ばせないだろうか? と。
ここ最近この国を治めていたのはリモーナだったみたいだし、リモーナのクズみたいな言動を考えればどうせ魔王軍とのいざこざもリモーナが悪いんだろうと思う。
例えそうじゃなかったとしても、何だかんだ愛国心はあるっぽいリモーナにとって国がどんどん売られていく様は耐えがたいと想像できる。
その顔を見るためだけでもこの国を売り飛ばす価値は十分にあるだろう。
とは言え、すぐすぐに売るために行動するのは面倒だし――まあ、向こうからアポ取ってきたときにでも売却の交渉を持ち掛ければ良いだろう。
そうなると、バルバトスの統治を託したリースや反省の色が今一つ見えずクズな発言を繰り返していたリモーナをどうするかだけど、とりあえず俺の自宅に連れ帰っておくことにした。
俺が居なくなった途端リースがまた酷い目に遭ったら最悪だし、今のリモーナはそれをしかねないと思う程度には信用できなかった。
「リース、今日もリモーナをしっかりと教育しておいてくれ。二度とさっきみたいな舐めたこと言えないように」
「はい、解りました」
リースが静かに頭を下げるとリモーナはガタガタと震え出す。
リモーナには針の恐怖だけに突き動かされる表面上の反省ではなく、心の底から従わざるを得ないような教育が必要なのだ。
それにはたった一日の拷問じゃ足りなかったのだろう。
針を弄り、リモーナの肌にチクチクと突き立て始めたリースを尻目に俺は別室に居るのぞみの所に行った。
「そ、ソラっ!」
「のぞみ。そう言えば今日って土曜日らしいね」
「そ、そうね」
今朝は学校に行って今日もないようだとか寝惚けたことを言っていたけど、よくよく考えれば今日は土曜日だったのだ。休日だ。最近休みが多すぎて、おまけに異世界の方で色々ありすぎてちょっと曜日感覚を失っていたけど、週末なのだ。
今の時間は昼前。約束のデートをするにはそう悪い時間帯でもないだろう。
「のぞみ、約束通り今から沢山甘やかしてやるよ」
「そ、それって……!!」
のぞみが頑張ってリースを治してくれた時に約束した、のぞみを彼女のようにかわいがって甘やかすデート。あののぞみといちゃいちゃするってのが少ししっくりと来ないけど、それでもちょっとだけ楽しみにしている自分が居た。
◇
「ソラ。んっ/// ねえ、ソラってばっ!!」
俺の服の裾をぎゅっと強く掴むのぞみの顔は熟れたリンゴのように真っ赤だった。その表情は恥ずかしさと嬉しさと一抹の不安と不満が入り混じっていて、足は尿意を我慢しているかのように内股になっている。
「なんだ? のぞみ」
「きょ、今日は恋人のように甘やかしてくれるって約束だったじゃない! 虐めないで私に優しくしてくれるって……! た、楽しみにしてたのにっ!」
目尻に少しの涙を浮かべて訴えかけてくるのぞみをギュッと強く抱きしめた。
「ごめんな、のぞみ。俺がやってみたかったんだ、のぞみの反応が可愛くてつい、な。意地悪しちゃうんだ。でも、嫌なら……」
「い、嫌じゃない! ……ズルい。ズルいよ、ソラ。私がそう言われると拒めないって全部わかってて、なのに、こんなに強く抱きしめて」
カチッ。何のとは言わないけど手に持っているスイッチの強度を弱から中に異動する。何のとは言わないけど。
これとは全く関係ない話だけど、のぞみと初めて致した時に、リースと使おうと思って買って置いた大人のおもちゃで使ったからのぞみ用になった奴がいくつかある。
この話とは特に全く関係はないけれど。
のぞみは弱弱しく身体を震わせながら、俺に全体重を預けてくる。のぞみの肌が少ししっとりとしていて、とても色っぽかった。
「のぞみ、可愛いよ。のぞみ、好きだよ」
本当に可愛い。容姿自体はリースやリモーナ程じゃないけど、その不安定でどこか俺に似ている内面含めてとても可愛い。そして可愛いのぞみが俺は本当に好きだ。
「ソラ。ソラっ。……私にはソラしかいないの。ソラだけなの。私を抱きしめてくれたのも、私の寂しさを埋めてくれるのも」
俺にはのぞみの他にリースもいる。
だけど何故か解らないけど、今、この時だけは俺にものぞみしかいないようなそんな気持ちになった。
俺はのぞみが愛おしくなって唇に唇を落とした。俺のキスにのぞみは熱いディープキスで返してくる。頭をがっちりホールドされて舌を座れるように、口の中を貪られるようにかき回される熱烈なフレンチキスで。
なんかもう色々と昂って来て、今すぐホテルに行きたい気持ちになる。
だけど今日はのぞみ甘やかしデート。そうでなくとも俺的に一度やってみたかった少し特別なデートなのだ。
すぐにホテルに行ってしまったらいつもと同じ流れになってしまう。
「のぞみ、どこ行きたい?」
「ホテ……」
俺はとっさにのぞみの口を塞いだ。
「よしっ、じゃあゲームセンターにでも行こうか!」
「…………うん」
ゆっくりと頷いたのぞみは、しかしとても嫌そうにしていた。
……まあ、ゲームセンターに行けばカツアゲされるし変なクソどもにエンカウントする確率高いし解らないでもないけど、幸い、変なクソども代表である石橋や佐藤は謎の怪奇現象で入院中だし、橋田や岸田は異世界だ。
「大丈夫。多分楽しめるよ」
不良に絡まれてもゲームコインを内臓に送り付けてやれば良いだけだ。
ちゃんとゲームを満喫できるならゲームセンターはきっとそれなりに楽しい場所に決まっている。
そうして俺とのぞみはゲームを楽しんだ。
途中のぞみの座った席がびしょびしょになっていてそれを掃除したり、のぞみがぺたんと腰を抜かしてしまうというハプニングがあったもの――いや、むしろそのハプニング含めてかなり楽しめた。
そんな一日に水を差すようなことが怒ったのは、入り口付近のクレーンゲームで遊ぶのぞみを、特に何の関係もない手元のスイッチをカチカチしながらのぞみの反応を見て楽しむという遊びをしていた時の事だった。
「あれ? 平井? ちょっと平井じゃ~ん。なんかA組丸ごと行方不明になってたって聞いたけど、平井は居たんだ~。伊藤と言い、平井と言い、ゴミみたいなやつらだけ居なくならないとか正に憎まれっ子世に憚るってやつ~?」
「ってかさ、平井今一人で暇そうだね? あ~しらと遊ぶよね?」
数日前、自分で自分の太ももにシャーペンを刺していた佐藤林檎がのぞみに話しかけていた。のぞみは青い顔をしてカタカタと震えている。
そしてそのまま身体を抱きしめて、へたりとその場に座り込んでしまった。
「きゃははは、こいつびびって腰抜かしてんだけど」
「ウケる~。ってかさ、また林檎んとこのワンちゃんとヤッてるの見たいんだけど」
「あー、それ名案! 今ちょうど発情期だしさー、いいんじゃね?」
佐藤たちが不快な笑い声をあげる。
手元のスイッチを見ると強を指している。特にこれは関係ないけど、一応OFFにしてから俺は彼女たちの前に出た。
「俺のツレになんか用?」
「きゃははは! なんか伊藤が出て来たんだけど!」
「ちょーウケる! 平井と伊藤って! なにこの世紀のお似合いカップル! ってか、伊藤とするくらいならマジで林檎の犬とするほうが100億倍マシじゃね??」
佐藤の取り巻きが俺を馬鹿にするように笑い、佐藤だけは少し俺を気味悪そうに見ていた。――今日はのぞみ甘やかしの日だし、それに俺もこいつらは嫌いだった。
先日、Bクラスで解らせてやったと思ったけどどうやら全然足りていなかったらしい。
俺は足元に大きな転移ゲートを展開して、とりあえずこの不快なギャル三人組を、果物屋さんの地下室へと転移させた。
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それと本日、拙作『スキルが見えた二度目の人生は超余裕、初恋の人と楽しく過ごしています』が全国書店より発売されます!
TYONE様の綺麗なイラストもついていますし、内容も面白く書けたと思うので、手に取って頂けると幸いです。
WEB版は無料で読めるので、こちらの方もよろしくお願いいたします。
URL: kakuyomu.jp/works/1177354055057378382
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