『王女調教』

 すっかり日も暮れた頃合いに、俺、のぞみ――向かい合ってリース、虚ろな目をした隻眼のリモーナが机を取り囲んで座っている。


 今日の晩御飯はのぞみが担当した。

 何でものぞみは、5歳から料理当番をしているらしい。――俺はお袋が死んだ7歳の時からだから俺よりも二年ほど歴が長い。


 自分でどうにかしないと飢えるから、必然的に料理が上手くなるのは被虐待児あるあるかもしれない。気になることと言えば……


「のぞみ。そんなに引っ付かれると流石に食べづらいんだけど……」


「……じゃあ、後で一緒にお風呂入って一緒のベッドで寝てくれる?」


「急に人数増えて手狭になったし、時間も遅いから必然的にそうなるだろうけど」


「やった!」


 のぞみは本当に嬉しそうに笑ってから、少しだけ椅子を離した。なんか今日ののぞみ、かなり甘えてくる。

 行為の時も誇張抜きで昨日の5倍くらいはキスしてきたし、笑顔も寒気がするような薄暗いものではないものが増えた気がする。


 のぞみにされたことは忘れられないし、許せないし、つい数時間前まで大嫌いだったはずなのに――ボロボロになったリースを治してくれたからだろうか? 或いは、のぞみが俺の敵ではなく味方になったからなのだろうか?

 こうして素直に甘えてくるのぞみをどこか可愛いと思ってしまっている自分に俺は、どう向き合えば良いのか解らず戸惑っていた。


「ねえ、ソラ。美味しい?」


「ああ、うん。それなりに」


「それなりか。……次は凄く美味しいって言って貰えるように頑張るね!」


 こうも素直なのぞみを見ていると、なんかもにょっとした気持ちになる。


 そんなのぞみと俺を、リースは少し思わし気な表情で見ている。隣のリモーナは、黙々とスプーンで料理を口に運んでいた。


「そういやリース、リモーナの方はお前に任せてるけど――どんな感じに躾けてるんだ?」


「礼儀や態度を口頭で教えてます。……まだ不完全ですけど、見ますか?」


「ああ、見せてくれ」


「リモーナ。ソラ様に“挨拶”」


 リースがどこからか裁縫の針を取り出してリモーナの視界にちらつかせると、リモーナは「ひっ」と息を漏らし表情一杯に恐怖を見せてからがたんとスプーンを置き、崩れるように椅子から立ち上がって来ていた服を脱ぎだした。

 服は、リースが受付嬢をしていた時に着ていた奴である。


 リモーナは服を脱ぎだし、下着は着けていないのか、瞬く間に全裸になった。

 そのまま床に這いつくばり、土下座する。


「ソラ様の奴隷のリース様の奴隷のリモーナです。ソラ様にもリース様にも素直に服従します。だっ、だから、針だけは……針だけはお許しください……」


 ひっひっひっと、嗚咽交じりの懇願が聞こえる。

 リモーナがかつて持っていた王族としての誇りも矜持も既に跡形なく、リモーナが最も蔑んでいたハーフエルフのリースに針を見せられただけで来ている服を脱ぎ、土下座をしてしまうほどに落ちぶれていた。


 針で目を抉られ爪を剥がれたトラウマをリースに植え付けられただけで、リモーナはこうも惨めに堕ちるのか……。


 まだリースと同じ目に遭わせただけなのに。

 リースは今の所、さして病んでいる様子もないのに。リースの心が強いのか、リモーナが弱いのか。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」


「本当は、こんな道具を使わなくたってソラ様にはちゃんとした態度を取れるようにしたいんですよね。……それに、すぐにこうなってしまうのも困りものです」


「そ、そうだな」


 頬に手を当てて、まるでみりんが足りてないくらいのニュアンスでそんなことを言うリースもそれはそれで不気味に思えた。リースがリモーナのお尻に針を刺すと、リモーナのお尻がビクンと跳ね上がった後に「ひきゃぁっ!」と鳴き声を上げた。


「ごめんなさい。針はやめてください。ごめんなさい。本当に嫌なんです……」


 リースの紅い瞳が恍惚と輝く。その笑みは俺を虐めていた時ののぞみを彷彿とさせるようで、少し恐怖を覚えた。


「座りなさい、リモーナ。食べましょう」


「……は、はい」


 リモーナは先ほど脱いだ服をそそくさと着直してから、席に座る。彼女は泣いていた。リースはまるで何事もなかったかのように食事を黙々と食べている。

 リモーナは泣きながら、リースを伺うような怯えた視線を向けながらも食事をもそもそと食べていた。


 食卓とは思えないほど、場の空気が澱んでいた。


「そう言えば、王女様、私の料理美味しいですか?」


 その空気を少しでもよくしようと思ったのか、のぞみが口を開いた。


「お、美味しいです」


「そう、良かった。実はね。王女様は今日辛い目に遭っただろうから、特別な材料をしようしたの」


「…………!」


 リモーナの碧い瞳が少し輝く。俺もリースも敵である中で、のぞみだけはリモーナの味方になるとでも思ったのだろう。


「実はね……王女様の料理だけ、冷蔵庫に偶々入っていた王女様の子宮を入れてみたの」


「……う、嘘、ですよね?」


「私、これでも嘘は言わないのよ」


「……お、おえぇぇぇえええ」


 リモーナが唐突にえずきだした。口の中に指を突っ込んで、食べた料理を吐き出そうとしている。そんなリモーナを見てると俺も不安になってくる。


「なあ、のぞみ。これはちゃんと牛肉だよな?」


「勿論よ。王女様の内臓なんて多分美味しくないし。……どうせなら、私のを食べて欲しいわ」


「や、やめろよ。絶対に。したら、マジで嫌いになるからな?」


 のぞみならマジでやりかねない。想像しただけで吐きそうな気持になるから、結構必死に釘を刺しておく。


 一方で、嗚咽を続けるリモーナの視界にリースが針をちらつかせていた。

 リモーナは「ひっ」と小さな悲鳴を漏らして嗚咽をやめる。


「リモーナ。のぞみ様が作ってくださった料理を吐き出すことは許しません。……それに作って頂いた料理にそんな態度。今すぐのぞみ様に謝罪しなさい」


「え、で、でも……」


「どの爪が良いですか?」


 先ほど抉り出された自分の内臓を料理に出されて食べさせられるという途轍もなく悪趣味な仕打ちを受けたのに、謝らされるのに納得いかないのか、多少の抵抗を見せていたリモーナだったが、針を見せられた途端に黙り込む。


 リモーナは土下座をして「ごめんなさい、ごめんなさい……」とのぞみに謝罪した。のぞみは土下座するリモーナの頭に足をのせて、恍惚とした笑みを浮かべる。


「リース。私、仲直りの印に王女様の瞳が一つ欲しいわ」


「解りました。リモーナ」


「えっ……しゃ、謝罪すれば針はやめてくれるって……」


「のぞみ様が瞳をご所望なのです。それとも、逆らいますか?」


「ひっ。で、でもっ、私、眼があと一つしかなくて。……これがなくなったらもう私、なにも見えなく」


「私が欲しいって言ったんだし、残りの右目を貰ったら左目を治してあげるわよ」


「で、でもっ、その謝ります。謝りますからっ! ごめんなさい。そうだ、服も脱ぎます。あ、足も舐めます。いえ、舐めさせてください! のぞみ様。だっ、だから、その、眼は、針は、眼だけは……」


 リモーナは服を脱ぎ全裸になってから土下座の姿勢に戻って必死でのぞみにペコペコと頭を下げてからプライドもなく床を舐め、のぞみの足をぺろぺろと舐めた。


「んふっ、んふふふっ」


 頬を上気させ、心底楽しそうに笑うのぞみ。


「そこまでプライドを失くせるんですね。だったら、犬みたいに仰向けで服従のポーズをしてくださいよ」


 リースが言うと、リモーナは速攻でひっくり返ってお腹を撫でられた犬のように仰向けで舌を出して服従のポーズをした。

 そのポーズをされると色々見えてしまう。

 のぞみに散々搾り取られた後とは言え、ヒールで回復させられてるし、なんだかんだリモーナは美少女だし、その恰好は目に毒だった。


 リースはそんなリモーナに馬乗りになって、太ももでリモーナの顎を挟んだ。


「いやっ! やめて! やめなさい! やめてください……! ごめんなさい! 嫌なの! 本当に、それだけは許して。ごめんなさい……」


 リースに股間を押し付けられて籠った声で必死に懇願するリモーナ。だが、それでもリースはリモーナの碧い瞳に容赦なく針を刺した。


「あきゃぁっぁぁあぁぁああああああああ!!!!」


 喉が潰されていないリモーナの、少し籠ったような悲鳴が部屋に響いた。

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