『王女への報復 下』
「あきゃぁぁぁぁああッ!!!」
声帯を潰され掠れた悲鳴が俺の部屋に響き渡る。今、リモーナはリースによって、爪を剥ぎ取られていた。
先ほどリモーナの片方の眼球を抉り取った針をリモーナの爪と指の間に刺し、そのままてこの原理で剥ぎとっている。
俺がのぞみにした時はペンチを使ったけど、見てる側とすれば針の方が痛そうに見えてくる。因みに、俺が昔橋田たちに剥がれた時は爪の間に爪突っ込まれてそのまま指の力で剥がされた。
閑話休題。
リースに爪を剥がされるリモーナは大粒の涙をボロボロ流して泣き叫び、座るその場所にはアンモニア臭のする水たまりを作っている。
……いい年しておもらししたのだ。
初めて異世界に転移された時、偉そうに王族はどうのと言っていたのに。
実際に爪を剥がれたこともあるし、のぞみもそうだが――爪剥ぎの痛みは漏らすほどではない。……それとも、眼を抉られたときに漏らしたのか?
いや、でも……同じく目を抉られたリースや、その痛みを追体験したのぞみも漏らしている様子はなかった。
リースに酷い仕打ちをして、俺の怒りを買ったリモーナのおつむは緩かったけど。どうやら下の方もゆるいらしい。
「おもらしですか。……本当に王女――いや、リモーナはダメな子ですね」
「ひっ、ご、ごめんなさい……。も、もう、酷いことはしないで……謝るからッ。二度とハーフエルフを馬鹿にしたりしないって誓うからッ!」
リースの紅い瞳に冷たく見つめられると、リモーナはガタガタと震えながら泣き出し、許しを乞うていた。
ハーフエルフとバルバトス王国との確執とは一体何だったのか。
リースがあれだけ理不尽で酷い目に遭わなければならなかったそれは、ちょっと目玉を抉られて爪を2~3枚剥がれた程度で改変する程度のものだったのだろうか?
リースは工具箱から無言でペンチを取り出す。
「ま、待って。ごめんなさい。ごめんなさい……わ、私は悪くないの。なにも悪いことをしてないの。だ、だって、お父様がハーフエルフは不吉の予兆だって言ってたから。知らなかったのッ! こんな目に遭うなんてッ!! あきゃぁぁァァァッァァァッぁぁッ!!!!」
爪を剥ぎ取られた指先をニッパーペンチで強く挟まれると、リモーナが掠れた声で絶叫した。リモーナは大粒の涙を流し、つい数時間前まで虫けら以下にしか思っていなかったであろうハーフエルフのリースに対して許しを懇願していた。
リースの紅い目が冷たくリモーナを見下ろしている。
ニッパーペンチを持つリースの手は少し震えていて、ペンチの先はリモーナの血がぽたぽたと赤く滴っていた。
「まだ目は片目だけだし、爪は3枚。お腹だって切り裂いてないのに……」
「ごご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。許して……。嫌なの、痛いのは。もう、嫌なの。……そ、そうだッ! ば、バルバトス王国をあげるわ! あの国を好きにしていいから、もう許してよッ!!」
冷たい目で淡々と続けられるリースの拷問に耐えかねて、リモーナはとうとう祖国を売り始めた。王女なのに。
王族なら、例え自分が死んでも祖国だけは守り通すべきなんじゃないのか?
……とんでもない、クズだ。反吐が出る。
「……そもそもリモーナ、お前は王女で、国はお前のものじゃないだろ」
「そ、そんなことないわ! 最近の政の殆どは私がやってたし、お父様は実質隠居。それに私を可愛がってるから、私の意見はなんでも聞いてくれるのッ! だ、だからバルバトスの実質的な支配者は私なの。ね?」
なにが「ね?」なのか解らない。
「……ソラ様、如何しますか?」
だが、そんなリモーナの言葉にリースは俺の方へ振り返って確認してくる。その瞬間、リモーナはニヤッと頬を吊り上げていた。
俺は思わずため息を吐く。
「はぁ。百歩譲ってリモーナの話が本当だとしても、お前嘘つきじゃん。今、ここで助けてもどうせ裏切るだろ」
「う、裏切らないわ! もう解ったの。思い知ったの。転移能力をもつソラ様には敵いっこないって。だ、だからッ! 私を助けてくれるなら大人しく国を差し出すわ」
さっきの絶叫も嘘なんじゃないかと思うほど、元気にペラペラしゃべり出す。
「それで、虎視眈々と俺を殺す機会を伺う、と」
「ち、違ッ……」
「それにそもそも、リモーナの言葉を信じてバルバトスを貰っても――俺自身には全然メリットないんだよな。あんな治安悪くて汚え国。
最低限まで発展させるにしても尋常じゃない労力が必要そうな割に、メリットがなにも思いつかない。金は転移があれば王国の宝物庫を空にするのは容易いし、女は既に十分いるし、権力には最早興味ないしな」
偉くなるにしても、生活水準最底以下のバルバトス国王になったって何も誇れやしない。おまけに貰った経緯が、王女拷問して、命乞いの対価に――って。馬鹿にするのも大概にして欲しい。
「リース、思う存分痛めつけてくれ。俺はバルバトス王国を貰うよりも、リモーナの苦しむ顔を見る方が楽しい」
「……解りました。ありがとうございます、ソラ様」
リースが俺の方へ向き直って頭を下げると、リモーナの表情が絶望に染まった。リースは小さなノコギリを工具箱から取り出し、リモーナのお腹に添える。
「ま、待って。お、王国よ! 国王になれるのよ? ねえ、やめてッ。やめてくださいッ! もう嫌なの。痛いのは、本当にッ。ごめ、ごめんなさい……いや、やめて、あきゃぁぁぁぁあああぁぁぁああっあっ!!!!」
◇
床に染みている尿が混ざった血だまりと、手を上に手錠で吊るされている――全ての爪を剥ぎ取られ、片目を失ったままのリモーナ。
冷蔵庫のラインナップには急遽リモーナの眼球と子宮が増えている。
結局リースは、自らがされたようにリモーナの両手の爪を全て剝がし、両の眼を抉り、切った腹から子宮を引きずり出した。
そこまでされたはずのリモーナが、爪と片目を失っただけの状態でいられているのは当然――のぞみが治したからだった。
のぞみは涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら強く俺に抱き着いている。
俺がポンポンと頭を撫でると、ギュッと強く抱きしめてくる。
リースがされた仕打ちまんまの拷問をリモーナにし返した。リースに酷いことをしたのだ。謝罪するなら自らが同じ目に遭うのは当然の誠意と言える。
だが、拷問の最中見せたリモーナの態度。
泣きわめき、漏らし、挙句王族のくせに国を売る無責任。
俺たちは三人で、拷問したリモーナを生かすか殺すか相談した。――治すのぞみの負担を考えると殺しても良かったのだけど、ガチガチと顎を震わせ号泣しながら俺に抱き着くのぞみを見てると治させて良かったと心底思える。
だが、リモーナを治させた理由は、のぞみに対する嫌がらせのためだけじゃない。
「その……リモーナを私に任せるってのは」
「そのままの意味だよ。俺自身はリモーナに大した恨みはない。――だけど、このままバルバトスに活かして返せば、ほら、のど元過ぎれば何とやらでまたウザいことして来たらウザいだろ? だから、イイ感じに教育しておいてくれよ。俺の為に」
リースだったら容赦しないだろうし、バルバトス王国は兎も角、従順になったリモーナなら貰うのは吝かでもない。
俺の部屋には虚ろな目で吊るされるリモーナと、俺の言葉に紅い瞳を輝かせるリースが残る。
震えながら俺に強く抱き着くのぞみと共に、隣の部屋に転移して――のぞみを押し倒した。
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