『王女への報復 上』

※かなりエグい内容となっていますので、苦手な人は注意してください。



――――――――――――――――――――――



「ちょッ! なっッ……」


 転移ゲートを二重に開き、認識する間もなく唐突に全裸で見知らぬ場所――俺の部屋に放り出されたリモーナは目を白黒させ、動転していた。


「ノゾミ様、ソラ様……それにハーフエルフ。そ、ソラ様ッ、こ、これは一体どういうつもりなんですか!?」


 リモーナは未だに自分が全裸でいることに気付いていないのか恥部を隠す様子はなく、俺を睨みつけ、俺の胸倉を掴み上げてくる。

 俺の眼前に来たリモーナの碧い瞳は不安に揺れているようだった。


 しかし、俺に掴みかかってくるのは頂けない。


 俺はいつかあの婦警さんから没収した手錠を地下室から転移ゲートで取りだし、丁度手錠をして欲しそうな良い感じの距離感で俺の胸倉を掴んでいるリモーナの腕に転移で嵌め込んでやった。


 手錠を嵌められたことで、今まで状況の把握の為に周囲に向けられていた視線がすとんと下に落ちる。


「え、ふ、服ッ! い、いやっ! み、見ないでくださいッ!」


 ようやく自分が一糸まとわぬ姿にあることに気付いたようだがもう遅い。手錠で両手が塞がっているから、精々惨めに蹲って隠すしかない。

 リモーナは泣きそうに震えていた。耳まで真っ赤で、王宮で見た大きな態度はもうない。


 この場所にはリモーナを守る騎士もなく、この世界でのリモーナは王族でも何でもない――戸籍も故郷もない、ともすれば平民以下の存在でしかない。

 俺は家にあるロープを転移ゲート経由で取りだし、リモーナの手錠を縛り付け、それを近くの柱に縛り付けた。


 俺は非力で、リモーナは凄まじく抵抗したが、それでも一応男の俺の方が力が強い。それにここはリモーナにとってアウェー。四面楚歌。味方がなく敵しかいない場所なのだ。

 リモーナの抵抗虚しく、手錠を掛けられたリモーナの腕は上に吊り下げられる形となった。


 それでもリモーナは必死に膝を曲げ、どうにか裸の身体を隠そうとしている。


 中世の貴族は“奴隷は人じゃないから裸を見られても恥ずかしくない”と本気で考えていたらしいが、俺やノゾミが強力なスキル保有者だからなのか、或いはこの状況がリモーナの王族としての矜持を折っているのか。

 開き直って隠さない方が却って恥も少ないだろうに……。


 こうしてみると、リモーナは弱いんだなって思った。


 王族として、王女として――甘やかされて生きて来たのだろう。


 王族としてプライドが高い割に、自分が酷い目に遭って痛みを受けて、国全体を守ろうとする気概がない。


 リモーナの世界においてスキルがどんな認識のものか正確には解らないが、勇者召喚を態々するあたり兵器並みの認識はあってもおかしくない。

 星7のスキル――転移なんか、ともすれば核兵器より強い。


 そんなスキルを持つ俺のリースを痛めつけ、その謝罪もまともに出来ず、剰え『聖霊契約』の初見殺しで俺を服従させようとして敵対を選んだ。

 その身勝手さは、リースに聞いた過去のバルバトス王を彷彿とさせる。


「リース、思うがままにリモーナを痛めつけてくれ。道具はこの辺から好きに使ってくれていい」


 俺が転移ゲートを使って取り出したんは工具箱。

 大きい方のノコギリはクソ親父が持って行ったからないけど、短いノコギリは残っているし、他にもキリや金槌、ペンチなどが入っている。


 流石に拷問専用の道具はないけれど、リースが受けた仕打ちを再現するには十分と言えた。リースが重い音をガチャガチャならしながら工具箱の中身を物色し始める。

 何を選ぶのか、興味深く見守る。


「ちょっと、興奮してくるわね」


 のぞみが息を荒立てながらそんなことを言ってくる。不本意だが同意だった。

 俺は17年の人生の殆どを虐げられる側として過ごした。そして、ここ一週間ほどようやく虐げる側に回り、特にのぞみは執拗と言って良いほど虐めた。


 ただ、こうして誰かが誰かに酷いことをするのを眺めるのは初めての体験だった。


「い、いやッ。やめてッ。やめなさいッ!!」


 まだ器具を選んでいる段階でしかないのにリモーナが叫び出す。必死に身体を隠していた脚をバタバタとさせて暴れ始めていた。

 リモーナを括りつけている柱がギシギシと軋む音を鳴らす。


 そんなリモーナを見て、リースはニヤリと今まで見たことがないような寒気のする笑みを浮かべて、恐らく裁縫用と思われる針を取り出す。

 あのクソ親父、見ての通り整頓できないから工具箱の中身は結構雑多だ。


 リースはリモーナの顎を掴んで固定し、そのまま針を近づける。


「やめっ、やめてっ。やめなさいッ……やめてくださいッ。痛いのは嫌なのッ。お父様にも打たれたことないの。やめてッ……怖いの……ッ!」


 表情を恐怖でいっぱいにしたリモーナの喉に、リースはチクリと針を刺した。


「ぃやッ!!!! ぁぁぁぁぁ……!!」


 恐らく力いっぱい叫んでいるのであろうリモーナの声が掠れていた。

 リモーナは大きく口を開けているのに、音量は息が漏れる囁き声程度。リースの紅い瞳が冷たく冷えていた。


「ニワトリを締めるときですね、こうして針で喉を潰すとうるさくないんですよ。うるさいと迷惑でしょう?」


 確かに近所に悲鳴が聞こえ続けるのは良くないし、そうでなくとも大音量の悲鳴を聞かされ続ければうるさい。ある意味、リースらしい気遣いと言えた。


「さて、どこからやり返しましょうか……。私が捕まった時最初にされたのは目潰しからでしたね。なんでもハーフエルフの瞳は高く売れるとかで。

 でも私なんかよりも、王族であるリモーナ様の瞳の方が高く売れそうですよね」


「ひっ……」


 リースはリモーナの喉を潰した針を焦らすように手先で遊ばせる。リモーナの視線はリースの針に釘付けになっている。

 リースは針をリモーナの眼前に近づけた。


「ぃ、ぃゃっ、ゃめてぇ……」


 リースは極めてゆっくりと針をリモーナの目に近づけていっていた。リモーナの眼球が物凄い速度で動いている。顔は青ざめている。

 首を降って躱したそうにしているけど、リースに顎を固定されて避けられない様子だった。如何にリモーナが俺よりずっと非力だったとしても、ピクリたりとも動かせないあたり、リースはそれなりに力が強そうだった。


 ……冒険者ギルドの受付嬢だったらしいけど、ギルマスがそれなりに強いって言ってたしな。今度、どれくらい強いのか聞いてみようと思った。


 それはそうとして、リモーナの眼前にゆっくりと近づけられていく裁縫の針。


 プチッ。


「ぃたっ!」


 針の先が刺さったのは瞼だった。このまま押し込めば眼球に刺さりそうだけど、リースはあえて引き抜く。そして、体勢を変える。

 リースはリモーナの両顎を太ももで挟んだ。リースのアレがリモーナの口の側に行く、かなりエッチな大勢だった。


 しかし、リースの紅い瞳は冷たい。

 そして、リモーナの顔が固定されたままリースの両手がフリーになった。


 リースは自由になった左手でリモーナの瞼を無理やり開かせる。


「ぁ、ぃやっ、やめっ、本当にッ、やめてっ」


 リモーナは懇願する。かすれた声で、潰れた喉で、それでも必死に懇願していた。それでもリースは冷徹にゆっくりと、焦るでもなく、むしろ焦らすようにリモーナの瞳に針を落としていく。


 ぷつっ。


「きゃぁぁぁぁぁっぁああああああああああっ!!!!」


 リモーナの絶叫が聞こえた。喉が潰されているから声量自体は大したことがない。それでも全力で絞り出していることが解る絶叫だった。

 針の先がリモーナの眼球に刺さっている。近づいて見てみると、ちゃんと瞳孔に針が刺さっていて、ずぷぷぷっ、とゆっくり針が押し込まれていく。


 見てるだけで膝が震えてくる。痛そうで、怖そうで。


 ガチガチガチガチッと、リモーナの顎が歯を鳴らしてガタガタ震えていた。


 それでも容赦なく、リースはリモーナの眼球に針を沈ませていく。

 針の根元を掴んでいたリースの指がリモーナの瞳に接触した。リモーナの瞳からはボロボロと大粒の涙が流れ、高速の瞬きが繰り返されている。

 その涙はちょっと黄色いような、でも思いの外透明な涙だった。


「ぁっ、ぁっ、ぁっ……いやぁぁぁぁぁああああああああっ!!!!!」


 リースはリモーナの眼球に刺した針を、まるで巻貝の身を抉りだすようにぐるぐると指先を回し始めた。


「ァギャッ、~~~ァァァッ、ぁっ、ァギャッ、ォゴォッ」


 リモーナの口から悲鳴になってない掠れた悲鳴が漏れ続ける。

 リースの太ももが少しすりすりと動いていた。リースは針が刺さったリモーナの眼球を散々抉りまわした後にリモーナの目に指を突っ込む。


 そしてぷるんっ、と綺麗にリモーナの眼球を取り出した。リモーナの眼球には目の位置の奥から、なにか繊維のような白色の何かが繋がっている。

 リースは眼球の根元と、その繊維の真ん中の部分を持つ。その繊維は恐らく視覚と脳を繋ぐ神経だった。

 リースはその神経にそっと爪を立てた。


「ァッァッァッァっぁッ~!!! ひっ、ひぃっ、ひぃっッ!!!」


 触れられただけで激痛なのか、リモーナが悲鳴を上げている。リモーナのもう一個の眼が、飛び出てしまった自分の眼球をじっと眺めている。


 ブチっ。


「ピギャァァァァァァァッ!!!!!!!!!!!!!!」


 リモーナの神経がリースの指で引きちぎられると同時にリモーナは断末魔のような掠れた悲鳴を上げた。死んでしまいそうなほどの絶叫あった。


「はぁッ、はぁぁッ……」


 リースが息を荒くして顔を赤くしている。その表情は恍惚と愉悦で満たされているといった感じだった。


「ソラ様、これ、差し上げます」


「ああ、うん……」


 リースからリモーナの眼球を受け取る。ぬめぬめとしていて、なんか不思議な感触だった。……記念にホルマリン漬けにでもして保存すれば良いのだろうか?

 ホルマリンってどこに売ってるんだろう。とりあえず、冷蔵庫に入れとけば長持ちするのかな?


 俺は一旦、ゲートで冷蔵庫にリモーナの眼球をしまう。


「私が受けた仕打ちはこんなものじゃありませんよ」


 リースはそう言いながらまだ抉り取っていない方のリモーナの眼を見つめた。


 リモーナの地獄はまだ始まったばかりだ――

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