『交渉決裂』
「――ソラ様。貴方が魔王を討伐した暁にはあのハーフエルフを返還します。それまで丁重に扱う事を約束しましょう」
( -`ω-)✧ドヤッ
自信満々に言うリモーナは大きな過ちを犯していた。
一つはその言葉が信じられるわけがないと言う事だ。先ほど息を吐くように聖霊契約書を使って初見殺しを仕掛けようとしてきたその舌の根も乾かぬうちによくもまぁいけしゃあしゃあと言えたものである。
どうせ魔王を討伐しても何だかんだ難癖をつけて返還を渋って更に俺をこき使おうとするのが関の山である。
と、そこまで考えて妙案を思いつく。
「丁重に扱ってくれるか――いや、何なら生きてるかどうか信じられない。せめてリースの姿を見させてくれないか? 彼女の元気な姿を見たい。話はそれからだ」
「……無理に決まってるでしょう? ソラ様の『転移』は視覚範囲内なら自由に移動できる。姿を見せたらそのまま連れ帰ってしまうでしょう?」
それは、そう。と言うかそれが思いついた妙案だったのだが、流石にそれが通るほどリモーナも馬鹿じゃない。
だが、姿の見えないリースを助けるために王女に従うのはムリだ。
それ以前に俺は、王女の言いなりになって――召喚される前のような嫌な事をやらされ続ける日々を受け入れてまで助けたいと思うほどリースの事は好きじゃない。
所詮は、俺が星7スキル持ちかどうかを疑った決闘をした戦利品として手に入れた女でしかない。
ただ、リースを攫い殺したかどうかも解らない状態にしたリモーナもこの国も許せないから出来る限りの仕返しをするだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
俺の心の中では最早、バルバトス王国もリモーナも敵だ。ポケットの中のコインに触れながらどうしたものかと考える。
この国を破壊するよりも、やっぱりリースを返して欲しいな。
「とは言え、姿も見えないリースの為に俺はお前に従えない。……じゃあ、俺も譲歩する。土下座は良い。リースを無事に返してくれたら咎めないでいてやろう」
「でも、そしたら貴方、二度とこの王国に来なくなりません?」
「……まあ、お菓子を売りに来るくらいはする」
「――と言う事はつまり、魔王討伐に参加するつもりはない、と?」
それに関しては最初からさらさらない。俺は別に魔王に恨みなんてないし、出会った時からの胡散臭さや、先ほど平気で嘘ついてきた辺り、魔王が本当に悪者なのかさえ怪しいと思い始めている。
だが、それを馬鹿正直に頷いてもリースの居場所は聞き出せない。
だから、俺は少しだけ話題を逸らす。
「そもそも、なんでお前はリースを攫うような真似をしたんだ?」
「……そ、それは、ノゾミが行方不明になったからです。彼女は勇者様方の中で唯一怪我や病気を治せるスキルを授かりました。彼女が得たのは戦闘向きのスキルではなかったものの、他の勇者様方やこの国において非常に有用なものです。
そんな彼女を奪い、そして更に他の勇者様方も連れていかれると困るのです」
「じゃあ、他のあいつらは絶対に日本に帰らせないって誓うよ。それこそ聖霊契約書に書いたって良い。その代わりにリースに会わせてくれ」
そう言うと、リモーナは困ったように目を逸らす。
恐らくリースは無事じゃないのだろう。その怪我の程度やリースが受けた仕打ちによっては、俺はこの国を滅ぼしに掛かるかもしれない。
その程度にはリースの事が大事だし、何より、俺にとってバルバトス王国の価値が軽い。
「さッ、さっきから私に対する言葉遣いも態度もなってないのよッ! 私はバルバトス王国の第一王女、リモーナ・エラ・ロッサ・バルバトス。この私に生意気な口を利いておいて交渉出来ると思わないで欲しいわ!」
リモーナが逆ギレをする。リモーナは嘘つきだし胡散臭いが、頭は悪くない。
だが、リースを見た時に、まるでゴキブリでも見たかのような強い拒否反応を示したリモーナが感情的に馬鹿な行動を取っていてもおかしくない。
恐らく、リースは相当ひどい目に遭わされた。
少なくともリモーナは、今のリースの状況を知ったら俺が激怒するであろうことを知って、故にどうにか誤魔化そうとしているのだろう。そうとしか思えない。
何だか、今のリモーナを見てるとダメな子供を見てるみたいで譲歩しても良いような気がしてくる。
「……俺はちゃんと謝ってくれたらちゃんと許すぞ。例えばのぞみも、俺に酷いことを沢山したが、それでも誠意をもって謝ってくれたからちゃんと許した」
謝られた後も『嫌い』とか『不信感』は拭えないけど、それでも許した。
だが、王女は青い顔をしてぶんぶん首を振る。
「王族が頭を下げるわけないでしょう? ……それに、誠意をもって謝るって――爪剥いだり、そう言う事でしょう?」
「ちゃんとのぞみに治してくれるよう頼んでやろう」
「そ、そう言う問題じゃないわよ! ……それにそもそも、私は謝るようなことをしていない。ただ『不吉の予兆』をちょっとあるべき姿にしただけじゃないッ!
ソラッ! 私に従いなさい! 悪いようにはしないからッ。この国の為に魔王を討伐してください。貴方は星7の勇者。この国のために働けば行く行くは私の旦那となりこの国の国王にだってなれるのかもしれないのですよ?」
「興味ない」
こんな治安悪くて色々と終わっている国の王になったって、日本人で一市民として生きるよりもずっと貧しい生活しか送れない。
飯は不味いし、服はボロいし、ベッドの感触は最上級でもごわごわ。トイレもなんと水洗じゃないのだ。無理。この世界に住める気がしない。
「そ、そもそもッ、如何に星7のスキルを持っているからってたった一人で一国を相手に同行出来るって本気で考えてるの? それに、貴方がこの国に攻撃してくるなら迷わずあのハーフエルフを殺してやるわ! 散々酷い目に遭わせてから公開処刑してやるのッ!」
リモーナは目を見開き、息を荒くして狂ったようなことを言い出した。
彼女がなぜそんなにもリースをハーフエルフを忌み嫌うのか解らないし、こいつが俺たちをこの国に召喚した目的も理由も解らない。
だが、それでも――俺はこの王女に従うくらいなら、リースの死を選ぶ。
そして、リースの死を哀しんだ後にリモーナを惨たらしく殺してやるのだ。
「リースが死んだら、俺は本気でこの国を滅ぼします。絶対に。でも、リースが生きてたなら、リモーナ。お前が痛い目を見るだけでこの国は滅ぼさない。最後のチャンスだ。大人しくリースを返せ」
「嫌。絶対にッ! 星7のスキル持ち、転移の勇者。貴重なスキル持ちだから優遇してあげてたけど、そんな危険な思想の持ち主だったのね。……だったらもう、必要ないわ。貴方には死んでもらう」
「交渉決裂だな」
言うや否や、俺は自宅に転移する。幸い、今の俺にはのぞみもいる。リースの怪我だって治せるだろうし、リモーナにどれだけ酷いことをしても死なない。
リモーナへの処遇を考えるのも、一先ずリースを助けてからだ――
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