『即堕ち2コマ Part2』
最寄りで一番値段が安いアパホテル。そのツインベッドルームの片側のベッドに俺と平井さんは隣り合って座っている。
平井さんは決して、美少女と呼べる類の容姿ではない。
物語のように長い前髪を掻き分けると実は素顔が可愛いなんてことはなく、かと言って不細工と言うわけでもない。可もなく不可もなくって感じだ。
だが、歩んで来た凄惨な人生によって相当歪まされたであろうその表情をもってして普通くらいの評価となる平井さんは、まともに生きてたのなら可愛い部類にあったのかもしれない。
『だ、だったらせめて、ホテルに泊まらせてよ。……一泊2000円くらいの安いので良いからさ。その、借りてくれたら、一生懸命お礼するからッ。
私、伊藤くんと楽しませられると思うんだッ。私、ヒールでどんな怪我でも治せるから普通じゃ中々出来ないハードなことだって出来るし』
平井さんの口車に乗せられて、ホテルまで借りた。
「それで、平井さんはどう俺を楽しませてくれるつもりなの?」
「……そうね。正直、必死だったから具体的にどうするかまでは考えてないわ。――一応、伊藤くんが望むことなら何でもするつもりだけどリクエストはある?」
微かに笑いながら語り掛けてくる。俺は平井さんの笑顔が嫌いだ。トラウマが刺激されて背筋が凍るように怖くなる。
俺は考える。どうすれば一番平井さんが嫌がるのかを。
パッと思いついたのは二つ。
一つは先ほどからずっと嫌がっているの見ている――平井さんを平井さんの家に帰らせることだ。俺は学校での虐めがクソ親父からの仕打ちを上回っていたが、平井さんは恐らく逆。家の方が悲惨な目にあっているっぽい。
だが、それじゃあ俺があんまり楽しめない。
そしてもう一つが――
俺は唐突に平井さんの左の頬を打った。
「お前なァッ! お前が楽しませてくれるつったんだろッ! なに俺にアイディア求めてんだッ! 自分で考えて行動してみろやッ、ダボがッ!!!」
「ま、待ってッ。ごめんなさい……お、怒らないで。ごめんなさい……」
頬を打ち、怒鳴ると平井さんが泣きながらいそいそと服を脱ぎ始める。
平井さんは俺に恨まれるのが嫌だと。親に理不尽な怒りを向けられるのが怖いと俺に語った。
つまり平井さんは怒られることが嫌なのだ。だから怒鳴った。
服は木綿の運動着のような――体操服みたいなやつ。異世界産にしては質のいいその衣類からは、あのまとまりのないA組の連中を訓練に参加させようとするリモーナの努力が見え隠れしていた。
下着も日本製ほどではないにしても、それなりに質が良い。
星5のスキル持ちと言う事もあって、それなりに優遇されていたのだろう。節々から伺える異世界での平井さんへの好待遇に、帰りたくないと言うのも頷けた。
「今から×××するので見ててください」
衣服を全て脱いだ平井さんは、俺を楽しませるための催しを始めた。
◇
「伊藤くんとのセックス、凄く気持ちよかった。病みつきになっちゃうかも」
「…………」
平井さんの催しは凄く楽しめた。行為の前に少し見せた笑みが消え、余裕が消え、ボロボロと涙を溢して泣く平井さんが物凄く愛おしく思えて、手を出した。あれが、あんまり良くなかった。
最初は良かったんだけどなぁ。泣く平井さんを虐めるのは凄く楽しかった。
だけど途中から逆に押し倒されて、こってりと搾り取られた。……平井さんと俺のパワーバランスでは圧倒的に俺が優位で、もう二度と平井さんは俺を虐めてくることがないと理性で解っていても、笑う平井さんに搾り取られるのは物凄く怖くて、なのに何故かゾクゾクとした気持ちにもなった。
「……知ってる? SもMも表裏一体なのよ。嗜虐性が強いほど被虐性が強くなる。どちらの気持ちも解らないとちゃんと虐められないからね」
それが俺の今の気持ちだとでも言うのだろうか?
どこか見透かされているようで、そしてこの論争で平井さんには勝てなさそうな気がしたから話題を逸らす。
「……そう言えば、平井さんは処女じゃなかったけど……誰とヤったの?」
「伊藤くんは処女じゃないと嫌なタイプ?」
「いや。俺も童貞じゃないしね。……ただ、平井さんの経験事情は特殊そうだから」
「そうね。特殊と言えば特殊かもね。……処女膜を破ったのは小学生の時、クラスの女の子のスティックのりだったわ。性行為の相手としての初めては佐藤さん家のペットの犬だったけれど。
でも、動物とスティックのりをノーカンにして良いなら貴方が初めてよ」
それは何と言うか――想像を超えてグロテスクな経験だった。俺が初めてって言う言葉がなんのフォローにもなっていない。
「……てっきり橋田か、君のお父さん辺りとはヤっているものだと思ってたけど」
「橋田くんは、私みたいな女とはしないわ。アイツ、見かけ通りプライド高いから。父に関しては、精々口でさせられた程度よ。気持ち悪いでしょ?
私、人生においてレイプされそうになった経験は一度や二度じゃないけど、みんなこの話をすれば気味悪がって誰も犯さなくなるわ。
ふふっ。伊藤くんも、こんな女とシなきゃよかったって後悔してるでしょ?」
揶揄うように笑う平井さんには確かに気味悪さを覚えた。
正直――後悔してないと言えば嘘になる。
平井さんのドロドロとした経験談は聞いてるだけで吐きそうだし、そうでなくっても行為の終盤に見せられた笑顔だけで十分に後悔に値する。
だけどそれを素直に認めると、俺は虐げられる側だった頃のトラウマを乗り越えられないような気がして、それは嫌だった。
「そうだな。……ちゃんとお前を最後まで泣き喚かせられなかったのが後悔だ」
「ふっ、ふふっ。やっぱり良いわね、伊藤くん。好きよ、貴方のそう言うところ」
「俺は嫌いだ。平井さんの笑顔を見るのが、凄く嫌いだ。ずっと泣いていればいいのにって心底思う」
「やめて。そんなに口説かれると本当に好きになって抜け出せなくなっちゃうわ。それと、今更『平井さん』なんて他人行儀に呼ばれても違和感あるし、
「……めっちゃ嫌なんだけど」
「いいじゃない、ソラ。名前で呼んでもらうためなら何でもするわよ。爪だって上げるし、眼球だって抉り取らせてあげる」
「いや、良いよ。そこまでしなくても。……って言うか爪も目玉も安売りするなよ。価値が下がる。……のぞみ」
「優しいのね、ソラ。名前で呼んでくれて嬉しいわ。心から。それに、私を労わってくれた人は貴方が初めてよ。好きになりそう♡」
本当にうっとりして言ってくるのが怖い。
……どんだけ愛されずに生きて来たんだよ、この女は。寧ろこの歪み具合でさえ正常な部類に思えて来て怖くなる。
例えそうでなくとも微笑むのぞみが怖いのに。
「笑うなよ。俺は、お前の笑顔が嫌いだ」
「じゃあ泣かせてみる? 良いわよ。好きなだけ泣かせても」
……そう言われると、なんかこう、違う。
それに、さっき散々搾り取られたせいで全然やる気も出ないし。俺は諦めて、ボーっと天井を眺める。
そんな俺の耳元で、のぞみが囁いた。
「……あの世界に帰れないならせめて、ソラの側に居させてよ。私、ソラの為ならなんでもするからさ♡」
俺が見て来たのぞみの性格や諸々を考えると、のぞみは本当に俺の為ならなんでもするのだろう。それが倫理に反しようが、どんなに辛いことだろうが。
のぞみは決して美少女ではない。リースと比べると最早雲泥の差があるほどに。
だけど中身は――俺に対する献身具合は恐らく、リース以上。
それは最早忠誠や服従と言った言葉が生温いくらいの執着、依存。……大丈夫、怖がるな。転移があればいつでも異世界にクーリングオフ出来る。
ただ、それでもフラッシュバックする過去のトラウマとのぞみの異様な雰囲気に心が震えるけど大丈夫――俺はもう、のぞみを恐れる必要はないのだ。
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