『異世界の生活水準』

祝! 週間一位達成!! (〃∇〃)ゞあざまっすッ!!

2022/04/25


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 不吉の予兆と言われ、差別されているらしいハーフエルフ――リモーナ王女がリースに向けていた嫌悪の視線と侮蔑は、冒険者ギルドで慕われ大事にされていたリースの姿しか知らない俺からすれば意外だった。


 それはリモーナが特殊なのか、冒険者たちが特殊なのか俺には判別がつかない。

 そして、判別がつかないことがもう一つ。


「これは……優遇されているのか、不遇なのか」


 リースとパコパコしているうちにいつの間にか日が沈み、夕食の時間になったと言う事で運ばれてきた食事は、なんかの肉を焼いた骨付きのステーキとガチガチに堅いパン、そしてボロボロの野菜が入ったスープと言うか、お湯。


 肉には気休め程度の胡椒が掛かっているけど、そんなんじゃ誤魔化しきれないほど獣臭いし、スープは軽く舐めて見るとめっちゃお湯だ。味が薄い、と言うかしない。パンも馬鹿みたいに堅い。スープに浸して食べようにも、それも不味い。

 とても食えたもんじゃない、ゴミみたいな食事に手を付けず唸りながら見下ろす。


「何言ってるんですか、ソラ様。かなり豪華な食事じゃないですか! この肉は何の肉か解らないですけど、胡椒が掛かっています。胡椒が! 金と同じ値段で取引されると噂の胡椒が掛かってるんですよッ!!」


「胡椒が何なんだよ。ってか胡椒ならチャーハンにも死ぬほど入れてただろ」


「え!? どど、どうして教えてくれなかったんですかッ!? 胡椒が入ってるって! そんな高級食材が使われているならもっと味わいたかったのにッ!!」


 リースは少し残念な事を言いながら、ガツガツと臭い肉を食べていく。

 そっか。この世界でも香辛料は中世ヨーロッパ価格なのか。……しかも、リースの言葉を聞く限りこれでかなり奮発している方らしい。


 俺が星7のスキル持ちで、料理もこのスイートルーム張りに優遇されてるとするのなら、A組の連中の食事の有様はお察しだった。

 俺だったら一晩で腹壊して、三日で鬱になる。

 とは言え、俺が鼠食わされそうになっているときにスマホのカメラを向けながら嘲笑していたようなあいつらがこんな食事にしかありつけないと考えると愉快だが。


「……でもやっぱ、俺は食えないわ。俺、日本で弁当買ってくる」


「そ、それでしたら私も食べたいです!」


「じゃあ一緒に行くか?」


「はいッ!」


 あんな臭い肉平らげてたのに、弁当まで食べきれるのだろうか?

 リース、小柄だしお腹もめっちゃ細いけど。……とは言え、俺は今懐に余裕があるし、弁当代の数百円くらいでケチケチすることはないけど。


 ……と、そこまで考えてふと閃いた。


 あいつら、毎日あんなクソみたいな食事で辛いだろうしな。嘲笑され、見殺しにされた恨みがあるとはいえ元クラスメートの誼だ。

 あいつらの分の弁当を買って行ってやろう。

 と言っても、沢山持って歩くのは大変だし、あいつらの分は3つくらいで良いか?




                   ◇



 買った弁当はチキン南蛮弁当5つ。安心と信頼のほっともっとだ。個人的にほっともっとの弁当はチキン南蛮弁当が一番美味いと思う。

 メインのチキン南蛮もさることながら、あの下に敷いてあるパスタが美味い。

 後は近所のコンビニでデザートのお菓子をいくつか買った。俺とリースが食べる用だ。


 あのスイートルームに戻った俺とリースは温かいうちに弁当を一つずつ食べる。


「このパスタにも胡椒が掛かってますッ! ソラ様。ソラ様の国はそんなにも豊かな国なんですか?」


「日本が俺の世界でも豊かな国なのは間違いないけど、胡椒が安いのは純粋に流通に掛かる費用が大したことないからだね」


 中世ヨーロッパにおいて砂糖やお茶、香辛料などの嗜好品が高級だったのは帆船くらいしかない時代に大陸間を航海しないと手に入らない――つまり流通にとてつもなく労力が掛かったって言うのが理由だ。


 飛行機や動力炉付きの大きな船で多くのものを安全に迅速に確実に届けられるようになった地球だと、星の裏側の国にある食材だってそう高くならない。


「ソラ様ソラ様ッ。このお肉も全然臭くない上に、柔らかい。それにコレ、揚げ物ですよね? 高級品の油を大量に使わないと作れないって言う噂の」


「別にその肉も油もそんな高くないけどな」


「天国ですか!? この国はッ!」


 ……あの世界の食事が地獄過ぎるだけだと思うけど。

 とは言え、数百年前――いや、数十年前と比べても今の日本は品種改良や企業努力などが積み重なりずっと料理が美味くなったと聞く。

 異世界の惨状を見て、恵まれた国に生まれたことを実感する。


 俺に凄惨な仕打ちをしてくる橋田やそれを嗤うA組の連中は異世界だし、石橋や近衛も怪奇現象で膝とか腕とか痛めたお陰で学校には暫く来ないから平和。

 後はあのクソ親父さえいなければ、天国だな、この国。


 あのクソ親父をどうにかする方法も考えないとだな。だが、それは後で良い。


 チキン南蛮弁当を食べ終えた俺は、冷め始めている残り3つの弁当が入ったビニール袋を片手にうきうきで部屋の外に出る。リースもついてくる。

 ……そう言えば、あのA組の連中は今どこにいるんだろう?


 あの臭い肉のステーキとボロ野菜入りお湯とガチガチのパンに舌鼓でも打っている頃だろうか? 各々の部屋かな?

 ルンルンとスキップで歩いていると、リモーナを見つける。


 リモーナは俺の後ろのリースに露骨に嫌そうな視線を向けながら、すぐにあざとい笑顔を作って俺に向けてくる。


「ソラ様。……その袋。それは勇者様方への差し入れですか?」


「まあそんな感じです。今、彼らどこに居ますか? あ、あとこれあげます」


 俺は袋の中からまだ開けてないキャラメルの箱を手渡す。アーモンド入りの方だ。


「こ、これは……。お代は後で払います。それと、他の勇者様方は今、食堂でお食事に居られますよ」


「食堂?」


「本当はソラ様もその、食堂に呼ぼうと思ったのですが、お休みになられてたそうなので」


 リースと思う存分ギシギシした後、暫く昼寝してたからな。

 ただ、その最中に呼ばれたとなるともう食べ終わって食堂から解散しててもおかしくないような時間になると思うけど。


 そう思いながらリモーナについて行って食堂に着くと、A組の連中がもそもそと食事をとっていた。メニューは俺と同じ堅いパンと野菜入りのお湯、そして肉。

 だが、よく見ると肉には気休め程度の胡椒が乗っておらず、野菜スープには芯や皮が普通に混ざっていて、予想通り俺のよりも一段グレードが下がっている。


「ううっ、今日の肉は一段と臭い。……田中くん、私の分食べて良いわよ」


「いらねえよ。……俺、肉は牛豚しか食べないって決めてるんだ」


「お前ら黙って食えよ。ただでさえマズくてイライラしてるのに……」


 もそもそのっそのっそと、物凄い遅いペースで顔をしかめながら料理を嚥下している。A組の連中は物凄く険悪な雰囲気の中食事を採っていた。

 それも致し方あるまい。あんな不味い飯を出されて――それも恐らく連日あの酷いクオリティなのだろう。イライラしない方が無理な話だ。


 特に人が虐められてる様を嘲笑する感性のこいつらなら、な。


 しーんとしている食堂で、パンパンッと俺は手を叩いてみる。するとみんなの視線が俺の持つ袋に集まった。


「やあ、みんな。三日ぶりかな? 今日はほっともっとのチキン南蛮弁当3つほど買って来たけど、欲しい人いる?」


 クラスメートたちの目がギラリと光る。

 久々にまともな食事にありつけると思って期待しているのだろう。


 だが、A組の連中の多くは前回のお菓子オークションで所持金の殆どを使ってしまっているだろうし、そもそも金貨売って280万円の大金を持っている俺が、今回もただお金を対価に売る理由はない。


 さて――こいつらは数百円の弁当の為にどこまでの代償を払うのか。見ものだな!




―――――――――――――――――――



次回『弁当オークション』

前回と違って今回は、お金じゃ買えません。質の悪い食事にストレスをため、久々に目の前に現れた美味しいご飯の前に、彼らはどこまでするのか――お楽しみに!


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