『Sランク冒険者』

「な、何事だッ! ……さ、サイクロプスの変異種がどうしてここにッ!?」


 サイクロプスをワンパンで仕留め、転移にてギルドにその死体を持ち帰ると、突如現れたその戦果に冒険者たちは騒ぎ、ギルドマスターは腰を抜かした。


「安心してください。死んでますよ」


「し、死んでいる。確かに生命反応はない。だが、見るところ傷は一切ついていないように見える。どういうことだ?」


「毒ガスを肺に直接送り込んだんですよ。一瞬で窒息して死にました」


「毒を体内に……お前さんはそんなことを出来ちまうのか」


 ギルマスは少し怯えたように俺を見る。確かに俺の転移能力は視覚範囲内にある相手ならいつでも瞬殺することが出来る。

 が、俺はいきなり何もしてない人を殺すことはないので怯える必要はない。


「出来たとしても、やるかどうかは別です。……ほら、そこの冒険者たちだってその気になれば街往く人を斬り殺せるけど、決してしないでしょう?」


「た、確かにな。……済まなんだ。お前さんを疑ったわけじゃないんだ。しかし、よくもまあ、こんなに綺麗に殺して持ち帰ってきたものだ。

 急所の角は勿論のこと、皮にだって傷が殆どついてねえ。ただでさえ貴重な変異種の素材がこんなにも綺麗な状態で手に入ることはねえ。高く買うぜ」


「それは助かります」


 現状の俺の資産は金貨5枚と、果物屋の地下室にあった多めの銅貨や銀貨だけ。

 お金は多く持っているに越したことはない。


「それと、冒険者登録について何だが……お前さんは初めからSランクに認定しようと思っている」


「そんなッ、前代未聞です!」


「だな。だがソラは規格外だ。規格外に相応しい評価は過去の事例を遡るばかりじゃできない。どうだ? ソラ」


「その、Sランクに上がると良いことってあるんですか?」


「あるに決まってるじゃないですかッ! クエストはSSランクまで受注可能になりますし、冒険者ギルドではランクに応じて様々なサービスを執り行っているのですがSランクともなれば最上級のサービスを受けられます。

 それにS級は強く一国の軍隊を凌ぐ強さを持つことの証明でもあるので、その権限は下手すればそこいらの貴族以上ですよ!?」


 なるほど。つまり、S級の冒険者カードはこの世界におけるゴールドカード。

 持っていればいろいろな方面で融通が利くようになる。……つまり、俺の活動がしやすくなるということか。


「依頼を受ける義務とかあるんじゃないか?」


「いや、それはない。どの依頼も命がけだからな。難易度に見合った高い報酬は約束するが、冒険者にノルマを課すようなことは絶対にしない」


 なるほど。なら良いか。


「解りました。じゃあ、それでお願いします」


「じゃあそれでって、そんな軽い事じゃないんですよ!? ……いや、だからこそのソラ様みたいなところもあるんですけどッ!」


 S級冒険者に認められることはよほどスゴイ事らしく、リースが頭を抱えて唸っているけど、クラス召喚されてから一週間も経っていない俺にはよく解らなかった。


「まあ、良いや。リース帰ろうか」


「ソラッ。……S級のギルドカードとサイクロプスの報酬は来週までには必ず用意するッ」


「ああ、うん。楽しみにしてるよ。それとリース。さっきの賭け、結局俺の勝ちだったの覚えてる?」


「あ……」


 リースが耳まで真っ赤になるのを確認してから自宅に転移した。

 速攻でベッドに押し倒したのは言うまでもない。




                  ◇



「そうだ。リース、そう言えばリースってあっちの世界ではどこに住んでたの?」


「ギルド職員の宿舎ですけど……それがどうかしたんですか?」


「いや、俺さあっちの世界に拠点が欲しいと思っててな。リースの家があるならそれが一番手っ取り早いと思ったんだけど……」


「そう言う事でしたらお役に立てず申し訳ありません。金銭等もソラ様が倒したサイクロプスの値段に比べれば些細なものですし、私が部屋を出るときには全て捨てておいて良いと同僚にも言ってますので……」


 なるほど。当てが少し外れたが、まあいいや。

 拠点。拠点かぁ。なんとなく地下室があって、人目のつかない場所にある隠れ家みたいのに憧れがあるけど、考えるのはとりあえずサイクロプスに値段がついてからで良いか。




                   ◇



 翌日、月曜日。

 今日も俺が朝ごはんを作り、リースとそれを食べてから、学校に行く。相変わらずクラスメートたちは行方不明だし今日も休みかと思っていたら――


「伊藤。お前は今日から2-Bで授業を受けてもらう。とりあえずあいつらが見つかるまで、な」


 別のクラスで授業を受けることになった。

 だったらもっと早くそうして欲しかったけど、言っても仕方がない。一応学校が休みの間もちゃんと自習してたからブランクもないし、そうでなくとも、この学校は全体的にレベルがとても低い。

 Bクラスでも一番になるくらいは容易いだろう。



 グーパンチッ! (o゚Д゚)=◯)`3゜)∵ ボゴッ!! _ノフ○ グタリ


 Bクラスの空いた席に座るや否や、唐突に俺は石橋 卓也に顔面を殴られた。

 石橋卓也は一年生の頃からの橋田の友人で、橋田と同じくヤンキーと言う奴だ。


「お前さァッ! 橋田とかA組の他の奴らが行方不明になってるってのに、伊藤みたいなゴミクズ野郎だけ学校に来るとかあり得ないんだけどッ!」


 予想外の、唐突な暴力だったから反応できなかった。

 ……なるほど。無敵と思われた転移能力だけど、不意打ちには弱いのか。不意打ち対策も考えとかないとな。


 考えていると石橋の蹴りが俺目掛けて飛んできたので、転移ゲートを開き石橋の顔面の前に開通する。 メキッ! )`Д;∴)┌┛Σ`д)

 俺を蹴ったはずの石橋が俺の転移ゲートによって自らの足に蹴とばされ転がった。


「誰だッ! 今、この俺を殴った奴はッ!」


 石橋、お前自身だよ。だけど、転移ゲートと言う不条理な力の存在に気付かない彼らはそれに気づかない。B組の連中が怯えたようにフルフルと首を振る。


「お前かッ!? それともお前かッ!?」


 顔を蹴とばされたのがそんなに腹が立ったのか、B組の奴らを殴りまわっていた。B組の気の弱そうな眼鏡の金田が、自分が殴られそうになる瞬間に震える声で、


「い、今問題なのは伊藤くんだよッ! ……あいつッ、A組の奴らが消えてみんな心配してるのに、グズの分際で自分だけ戻って来てッ、のうのうと生きてるッ。今は、あの正義に反する伊藤くんを裁くべきなんじゃないかッ!?」


「……確かにそうだな。金田。お前、偶には良いこと言うじゃねえか」


 金田は殴られなかったことにホッとしている。……俺を売った彼は笑顔だった。


「ぐおらっ、このゴミクズ伊藤!!」


 俺の顔面目掛けて飛んできた石橋の蹴りを転移ゲートで躱す。転移ゲートの先は金田の股間の目の前にしておいた。


「うぐッ、なんでッ!? あぎゃッ、痛゛ッ!!」


 キックボクシングをやっているらしい石橋の蹴りは強く、そこを予想外の無防備なタイミングで金的に命中された金田は物凄い形相で悶絶していた。

 俺は当然無傷だ。その異様な様子には、脳みそが詰まってないB組の連中も流石に異様だと気付いていそうだった。


「お、おいッ、伊藤。てめェッ、今、何やった?」


「別に何も?」


 と、そこでふと俺は一年の時に石橋に徒に蹴り続けられたことを思い出した。

 橋田が殴り石橋が蹴る、高一の時の地獄の日々を作り出した一端である石橋。最早転移と言う最強の能力を手に入れた俺は彼に怒っていないけど、とは言え石橋の傍若無人なキックが善良な市民を害するのはよろしくない。


 俺は徐に立ち上がって、教室の後ろの張り紙を留める画鋲に触れる。それを石橋の膝のある場所に転移させた。


「あッ、アギャァァァッ!!! 膝がッ! 膝がァッ!!」


 石橋がみっともない悲鳴を上げて、膝を抱えて転げる。画鋲が唐突に膝の皿を割った痛みは想像を絶する。立ち上がるのも難しいだろうし、きっと後遺症が残って石橋は二度とキックボクシングが出来なくなるだろう。

 だが、それでいい。リング外で人を殴るような奴に格闘技をする資格はない。


 みっともなく情けなく転げまわる石橋を見て、B組の連中は嘲笑していた。


 今まで石橋に酷い目に遭わされ続けて来た反動か、スマホを抱えニヤニヤと嗤いながら、みっともないだのなんだの好き勝手に罵倒している。

 そう言う浅はかさが嫌いだったが、なるほど。気に入らない奴に嘲笑が向けられる光景は中々どうして悪くない。


 新しいクラスには思いの外馴染めそうだった――




――――――――――――――――



次回もBクラスざまぁ続きます。


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