『即堕ち2コマ』

「お手、おかわり、三回まわってワンと言って」


「……ワン」


 右手にお手、左手にお手。本当に三回まわってワンと言ったリースは、視線だけで人を殺せるんじゃないかってくらい怖い目で俺を睨んで来る。

 しかし、それだけ。彼女はどんなに俺を憎たらしく思っても俺に逆らえない。


 それは十数分前までこの冒険者ギルドの受付嬢だったリースが俺が申告したスキルを頭ごなしに嘘呼ばわりして、聖霊契約書とやらで『負けたら絶対服従』の制約の元決闘をして、俺が勝った結果だった。


 ギルドの冒険者たちもリース同様俺に殺気を放っている。


 俺と戦った後担架で運ばれていったグインと言う冒険者はリースに恩があると言っていたけど、彼らも同じなのか――或いは単に、テレビでも見たことないくらいに綺麗なリースを狙っていたからなのか。

 どちらにせよ、この針の筵と言うようなこの空間はとても居心地が悪い。


 俺はリースの手を取り、一旦、自宅に帰ることにした。



 ぐちゃぐちゃのままのベッド、脱ぎ散らかされた服と雑に散らかっている参考書。勉強机の上には数式がびっちりと書かれたノートが乗っている。そんな俺の部屋に突如として連れられたリースはキョロキョロと不安そうに辺りを見渡す。


「……ど、どこですか、ここ」


「俺の部屋」


「……部屋。狭いですね。平民ですか? 星7のスキルを持つ人ならもっと豪奢な家に住むと思うんですが。いや、でもこの布団の生地とてもさらさらしていて厚い。決して貧しいと言うわけではなさそうですね」


「いや、普通に貧しいぞ、家は。ま、最近臨時収入があったから最近はそうでもないけど」


「そうなんですか? と言うかこの家はどこにあるんですか?」


「地球。お前らからすれば異世界に当たる場所だな」


「異世界!? ……ってことは貴方は勇者。お名前は、確か――」


「天。伊藤 天だ」


「ソラ……。それで、そのソラ……様は、勇者様ってことなんですか?」


「さあな。俺はあの世界の魔王をどうこうやろうって気はさらさらないし。でも、異世界に召喚されてスキルを得たって意味ならそうかもな」


「なるほど。でも勇者様は王室に管理されているはず……いや、でも確かソラ様のスキルは『転移』――だから、抜け出せたんですか?」


「まあそうだな」


 端正な顔立ちで悩み考えるリースはこくりと頷き、そして頭を下げる。


「……どうやら貴方が勇者で転移能力を持つと言う事は間違いないようですね。星7は流石に未だ信じられませんが」


「いや、それも本当だって!」


「そもそも星3のグインじゃ星4以上の相手には負ける可能性が高いですし、貴方が星7スキル持ちかどうかの証明は出来ません。頭に血が上って判断力を欠きました。結果、こうして貴方の奴隷となったのですから最悪です」


「愚かだね。って言うか、あの水晶玉みたいなやつでスキルを確認すればよかったんじゃないか?」


「スキルオーブの事ですか? そちらこそ愚かですね。あれは国宝級の魔道具です。王室が管理しているそれを私たちが使えるはずないじゃないですか」


 ……俺の事嫌いなのは解るけど、一々トゲがあるな、この人。


「おすわり」


 命じると、リースは『絶対服従』の影響で逆らえず、犬のようなおすわりをする。リースはタイトスカートを履いているので、その座り方をすれば下着が丸見えだ。


「ま、下着を俺に見せつけながらおすわりするお前ほどじゃないけどな」


「そ、それは貴方が命じたからッ!」


 リースは恥ずかしそうに顔を赤くするけど、俺の命令のせいで下着を隠すように動くことすら出来ない。羞恥に顔を赤らめているのに、俺に逆らえないリースを見ていると征服欲が満たされていくのを感じる。


 銀色の髪に赤い瞳はアルビノのようで、その耳はやや尖っていてエルフのようだ。その肌は白く、年齢は同い年か年下に見えるほど若い。胸は大きくないけど腰回りがほっそりとしてるからスタイルはよく見える。


 テレビでも――いや、二次元でも中々お目に掛かれない美少女。

 そんな彼女は今、俺の命令に絶対服従。逆らえないのだ。なんかこうゾクゾクとそそるものがある。


「そう言えばリースのその耳、エルフなの?」


「……ハーフエルフです。見て解りませんか? それと、気安く名前で呼ばないでください」


「反抗的だね。……一応、俺に絶対服従なの解ってる? しかも聖霊契約書とやらでちゃんと拘束力のある」


「ええ。だから何ですか? ……例え貴方が勇者でランクの高いスキルを持っていたとしても星7は流石に嘘だと今でも思ってますし、そうでなくとも底意地の悪い貴方に示す敬意などありません。契約で縛ろうとも、心までは縛れるとは思わないでください」


 なんかもうその生意気さ、反抗的なのを通り越して、エロ漫画の冒頭みたいになってるぞ。……本当に。ただでさえリースは綺麗だし、見た目は同い年くらいで、おまけに彼女は俺に逆らえず絶対服従。


 俺を信じず嫌な奴だったけど、婦警さんみたいに一方的に銃を突き付けてきたわけじゃないし、あの決闘だって俺の命も掛かっていたが彼女がこうして俺に絶対服従になっている現状を考えると賭け自体は対等だった。

 だから、何と言うか俺のリースに対する好感度は決して低くない。


 だからこそ、疼く。俺も年頃の男の子だ。……毎晩インターネットを徘徊しては、いつか女の子と実際に――と妄想することだって多々ある系の男子だ。


「そうか。じゃあ試してみるか? 本当に心まで縛れないかどうか」


「……下種ッ。何をするつもりですか?」


「そりゃ、決まってるだろ」


 俺はそのままリースを俺のベッドに押し倒す。

 その日、俺は17年にも及ぶ童貞生活の幕を閉じた。




               ◇



 美少女との初体験、絶対服従の契約によって実現したアレコレ。そして、最近色々あって自家発電の機会もなく溜まっていた事などが相まって、それはもう思う存分ギシギシアンアンした翌日、俺の腕の中には銀髪の美少女が眠っている。


 その可愛さに思わずリースの前髪をさらさらと掻き分けて撫でていると、赤い瞳が俺を覗いた。


「おはようございます、ソラ様♡」


「ああ、おはよう」


 寝起きに熱烈なキスをかましてくる。昨日の反抗的な態度はどこへやら、昨日の行為がよっぽど良かったのかたった一晩でこんなにも従順になってしまった。


「そうだ、ソラ様。朝ごはんを作りましょうか?」


「いや、今日は俺が作るよ。キッチンも食材もリースには未知のものばっかりだと思うから」


「……そうですね。では申し訳ありませんが今日の所は御馳走になります」


「それとリースの服も一着しかないの不便だろうし、買いに行こうか、今日」


「……私は、ソラ様のお召し物でも構いませんが」


「いや、流石にそれは勿体ないよ。リース可愛いし、可愛い服を着た方が良いよ」


「可愛いなんてそんな///」


 リースはポッと顔を赤らめて照れる。確かに俺の服を着るリースと言うのも悪くないかもしれないけど、やはりそう言うのは偶にだからグッとくると思うのだ。

 それに、金貨を換金したりかつての同級生たちにお菓子を暴利で売ったおかげでお金はそれなりに有り余っている。リースの服代をケチることはない。


 ……リース。彼女が優しい良い人なのかは、付き合いの浅い俺には解らない。


 だけど、リースは美少女だし契約で俺に絶対服従。おまけに昨晩のおせっせで心まで俺に従順になった。

 今のリースとなら、上手くやって行けるだろう――


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