『初戦闘』
ッパーンッ!!!
ポケットに入っていた硬貨を『転移』させた瞬間。皮の固いトマトを電子レンジでチンした時のように、ナイフを持っていた大男の手が破裂した。
「うがッ、あぎゃッ、い、痛てぇぇええ!!」
大の男がいきなり破裂した右手を抑え蹲りみっともなく地面に転がった。
「な、なにをしたッ!」
さっきの様子を見るにやはりこの男とグルだったらしい果物屋の店主は、顔を青褪めさせながら立ち上がる。その手にはボウガンが持たれていた。
( ^ω^ 三 ^ω^ )ヒュンヒュン
そのボウガンが放たれるか解らなかったので一旦『転移』によって果物屋の店主の背後に転移して、そのまま手のひらの上にある硬貨の内の3枚くらいが果物屋の店主の肘関節の中に転移するイメージをする。
距離は目の前。イメージを掴むのは容易い。
その瞬間、果物屋の店主の両肘からッパーンゴギッみたいな聞くだけで痛そうな音が炸裂した。
「あんギャァァァッ!!!」
やや小太りのいい歳こいた大人が情けない悲鳴を上げながら叫び散らす。
この果物屋は最早俺を攻撃できないだろう。だが、手のひらしか攻撃できなかった大男はゆらゆらと立ち上がりながら、俺に殺意のある目を向けていた。
「てめェ、よくもやってくれたな。ただじゃ済まさないぞ」
大男はナイフを持って俺の方に突進してくる。それを俺はギリギリのタイミングで転移して躱す。( ^ω^ 三 ^ω^ )ヒュンヒュン( ̄ー ̄;)→グサッ_:(´ཀ`」 ∠):_
そのタイミングが偶々絶妙だったのか、突然目の前にいなくなった俺に戸惑った大男はそのまま足をかけ、肘を壊され痛みに悶えていた果物屋の店主を手に持っていたナイフで刺していた。
「あーあ」
「バッカス。……てめぇよくも。よくもッ!!」
大男が恨みがましい目で俺を睨んで来るけど、その果物屋の店主を殺したのは紛れもなくお前だよ。俺は、肘に10円玉を転移させるだけで留めておいたのに。
「殺すッ! お前だけはッ!!」
泣きながら恨みの籠ったナイフを俺に刺そうとしてくるが、転移で躱す。
「クソがッ!!」
( ^ω^ 三 ^ω^ )ヒュンヒュン
当たるわけがない。視覚範囲内全てに一瞬で移動可能な俺にたった一人で、そんな解りやすい一直線の攻撃が当たるわけがないことに気付かないのだろうか?
「やれやれ」
俺は無駄な攻撃だと教えてやるために10円玉を大男のアキレス腱目掛けて転移させる。だが、外した。と言う事はやっぱりこの転移は座標で転移しているんだな。
となると、動く相手にちゃんと当てるのは難しそうだな。
練習がてら、俺は適当に動きを予測しながら三つほど勿体ないので一円玉を横並びに転移させてみる。
「うおッ、あッ、ガァァッ!!」
大男が盛大に転び悲鳴を上げた。大男の後ろには一円玉が一枚だけ落ちている。となると腱の辺りに一つと、脛の中に一つか。とても痛そうだ。
「やれやれ。これに懲りたら二度とカツアゲみたいな真似はするんじゃないぞ」
俺は少し呆れてため息を吐きながら自宅に転移した。
「なるほどなぁ」
俺は手のひらの上で硬貨をジャラジャラしてから引き出しに仕舞い呟いた。
今の出費は50円ちょっと。それで二人が簡単に無力化できた。動く相手には通用しないのがネックだが先手を取れれば一瞬で致命打を与えられるのが強い。
例えば今回は手や足にしたが、本気で殺したいときは心臓や頭の中、大動脈のある場所辺りに適当に転移させれば瞬殺できるのだろう。
そして何より強いのは別に体内に転移させて攻撃するならそれなりに硬ければ何でも良いので持ち運びやすい硬貨やその辺の小石でも十分な攻撃力を発生させることが出来ることと、素知らぬ顔をしておけば誰がやったか解らないことだ。
先ほどは状況が状況だったから俺の仕業だとバレたけど、そうでもなければ気付くのは至難の業のはずだ。
普段使いの武器としてはやっぱり硬貨が無難だろうか?
持っていても違和感ないし、例えば日本でチンピラか何かに絡まれて対処する時も硬貨なら色んな人の指紋がついているから特定が難しい。そうでなくとも硬貨を凶器として立件するのが難しそうなところが良い。
反面、動いている相手に当てづらいから初手を逃すと面倒くさそうなのが難点だ。
その辺の不良とかならまだしも、いずれは強力なスキルを持った橋田に勝てるようになりたい。その時に転移で躱しながら何度も体内に硬貨を送り込もうとするのは、やはり戦闘手段としての不安が多い。
なんかこう、もっと決め手みたいのが欲しい。
( ^ω^ 三 ^ω^ )ヒュンヒュン
部屋の隅から隅まで転移しながら考えて、ふと思いつく。
そう言えば、転移みたいなのって漫画だと今の俺がやってるみたいな瞬間移動タイプの他に、ゲートみたいのを開いて転移するタイプのもあるよな?
なんとなく転移と言えば瞬間移動なんてイメージもあったけど……
俺は学校の教室の光景を思い出すと同時に、丸いゲートのようなものが開くイメージをする。教室と家が繋がるイメージで。
すると、俺の目の前には教室が映る俺の身長ほどのサイズの楕円が生じた。
楕円の中に入るとそこは確かに教室で、戻ると確かに自宅。
全く別の場所にあるはずなのに繋がっている。一つの場所になっている。不思議な感覚だった。しかしこの能力、使いこなせば最強かもしれない。
攻撃も防御も当然機動力も――あの水晶玉を持っていたおじさんは歴史上にない星7のスキルと言っていたが、本当に凄まじく強い。
俺はこの楕円の転移の強さを確信したので、再び果物屋の前に転移した。
果物屋の前には未だ大男が倒れていた。
しかしこちらに気付いている様子はない。
……よく見てみると男が倒れている地面には血の池が広がっていて、その首には俺に脅しかけていたナイフが刺さっていた。
……自殺、したんだ。
そんなに果物屋の店主が大事だったのか。
ただまぁ、俺が殺したわけじゃないから俺は悪くないし、そもそも通行人に脅しをかけてお金を盗ろうとする悪党なのだ。正当防衛だし、彼らが死んだことはこの国にとっても悪い事ではないはずだ。
純日本人である俺としては中々にショッキングな光景だったが、発展途上国よりも文明が進んでなさそうなこの世界ではこういう事だってあるのだろう。
どこか現実感のない緑色の空と二つの月が、俺の精神的なショックを少し和らげる。リアルなゲームで死体を見たくらいに思っておこう。
と、そこでふと思いつく。
こいつら、ここの通行人からお金なり身包みなりを奪い取ってたんなら、この果物屋の中には奪い取った財産があるんじゃなかろうか?
俺は何かあってもすぐに転移で逃げ帰れるように自宅の光景を思い浮かべながら、恐る恐る果物屋の中へ入って行く。その中は思いの外普通の家だった。
箪笥を開けたり、絨毯を捲ったりしながら色々と物色していると、絨毯の下になにやら隠し扉みたいなものを発見した。
開けてみると下へと続く階段が出てくる。
「なんか、こんな仕掛けまでゲームみたいだな」
異世界召喚にゲームっぽい展開はつきものだしな。
中に入ってみるとツンと黴臭く、小汚い。中には銅色の小銭が沢山入ったツボと小汚い洋服が散らかっているだけで何もなかった。
まあ、あんなしょうもないカツアゲでちゃんとした財産が得られるわけもないか。
俺は少し萎えた気持ちになりながら、転移で自室に帰る。
まぁ、良い息抜きはなったし勉強するか。
カリカリと勉強し始めて凡そ一時間ほどの時が経った頃。ピンポーンッとインターホンが鳴り響いた。玄関口まで転移で移動してからそっと外を覗く。そこには、昨日の婦警さんが立っていた。
……一応、無実を証明したはずなんだけど何か用かな?
俺は小さくドアを開けた。
「あの、何ですか?」
「やっぱり私は、貴方があの集団失踪事件の犯人だと思います。もう一度話を聞かせて貰えませんか?」
またか。昨日、俺は無罪を証明したはずだろ――
―――――――――――――
次回、婦警さんは不幸な目に……お楽しみにッ!!!
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