第20話 告白


 食べながら私は少し考えていた。

 ……拍子抜けしたけど、もう全部話そう。

 

 って、アリシアもう限界そう。

 顔を青ざめて箸の動きが止まっている。

 

 私もちょうどいいくらいなんだけど……頑張るしかないか。

 それから私は頑張って食べ始めた。

 

 これが満腹状態でも美味しく感じるんだからちょっと複雑。

 フィリアさんに習っているだけあってアリシアの味と似てるな。


 四人で(殆ど私とアリシアだが)殆ど平らげてもうしばらくご飯を取らなくても生きていけると思える程の満腹感で埋め尽くされる。

 

 それでも少しは残ってしまった。

 流石にフィリアさんも全て食べろと言うほど鬼ではなく残ったものは明日にでも食べてくださいと言って小分けして詰めてくれた。


 そして、一旦、お茶を啜り落ち着く。


 片付け終えたフィリアさんも再び席に着き、私はタイミングを見計らい切り出した。


「何も……聞いてこないのですね。気にならないのですか?」


 二人は何が?とは言わなかった。


「気にならないと言えば嘘になります。ですが、言いたくないことを無理強いはしません。誰にでも隠したい秘密の一つや二つあって当然です。」

「それにどんな裏があろうとお主らはこの村を救ってもらった。お前たちを疑う者などこの村にはおらぬよ」

「……そうですか」

 

 真剣にそう言ってくれるフィリアさんと村長に少し胸が温かく軽くなる。


「でも、お二人には知っていてもらいたいです」


 私は一回息を吐き出す。


 村長たちも私の次の言葉を固唾を飲んで待っている。

 

 そして、意を決して告白する。


「僕たちは勇者と魔王です」


 しばらくこの場は沈黙に包まれた。


 だが、すぐに村長がその沈黙を破る。


「……勇者と魔王。あの戦争で相打ちと聞いておったがこんな身近におったとはのう」


 村長がポツリといつもの調子で呟いた。


 そんなすぐに私の言葉を呑み込めたのは恐らく心のどこかでその可能性を思い浮かべていたからだろう。


 フィリアさんはまだ黙ったまま私たちをじーっと見詰めている。


「ということはリウォンが魔王でアリシアが勇者というわけか」

「逆、ですね」


 私が首を振ろうとした刹那、フィリアさんの口から語ろうとした真実が飛び出した。


「は? フィリア、何を言っとるんじゃ。リウォンは魔族でアリシアは人間じゃ。まさか、実は魔族が勇者で人間が魔族だったと言うのか」

「理由まではわかりませんがリウォンさんは聖剣を持って戦われていましたし、何よりあのときのアリシアさんからは深淵の気配を感じました」


 やはりフィリアさんにはばれていたか。


「深淵はあれか。お主が使う上位魔族しか使えないというあれか」

「はい」

「じゃが、そんなことあり得るのか?」

「あり得ません。あり得ないのですが。そのあり得ない事態が起きているようです。……ちょっと待ってください。リウォンさんがアリシアさんの傷を癒やしたとき吐血をし、深淵を使ったアリシアさんはその深淵に攻撃をされているようでした。身体に順応していない? まさか、逆?」

「ど、どういう意味じゃ? 逆の逆? 儂が当たっとるのか」

 

 何が何だかわからず困惑する村長。


 そして、フィリアさんは核心に辿り着いた。


「身体、心、どちらからは分かりませんが、どうやらお二人は入れ替わっているようです」

「……は?」


 フィリアさんの言葉に返す言葉もなく驚き黙る村長。


「驚いた。そこまで辿り着くのか」


 アリシアが目を見張って驚いている。


「私が魔族だからこそわかるのでしょうね。ですが、その原因までは」

「それまで言い当てたらもうあの現場を見ていたと疑わざるを得ないぞ」

「まさか、魔王と勇者の決戦に割り込み? いや、そんな身体の入れ替えなんて聞いたことが……」

 

 考え込むフィリアさん。

 それに対して村長は「と、ということはアリシアがリウォンの身体の元の持ち主で魔王。リウォンがアリシアの身体の元の持ち主で勇者。……言葉にしても訳がわからぬの……」と一人で整理して付いてこられずにいた。

 

 しばらくしてアリシアが答えを告げる。


「グリモアコード。あなたなら知っているだろ」

「……グリモアコード。確か大昔に魔界に君臨した大魔王の魔法」

「ああ、それが俺の深淵とリウォンの聖力が混ざって暴発し、たまたま発動したんだ」

「グリモアコードがたまたま発動……そんなことが」

 

 あっ、せっかくだから聞いてみるか。


「あのフィリアさん。グリモアコードについて何かご存じなのですか?」

「……すみませんが恐らくアリシアさんと知っていることは同じかと」

「そう、ですか。元の身体に戻る方法を探しているのですが」

「お力になれず申し訳ありません」


 ようやく何か糸口があるかと思ったけど、まぁ仕方ないか。


「……フィリア。あれはどうなんじゃ。お主が持ってきたあの本には何か書いておらんのか」

「あっ、あまりに昔のことですから忘れておりました。しかし、全てに目を通したわけではないのであると言えませんが」

「なんじゃ、あれほどたくさんの本を持ってきたんじゃからてっきりそれほど大事なものかと」

「単なる嫌がらせですよ。あれは分からず屋のお父様が大事にしていた本を全てくすねて……コホン。少し話が逸れましたね」


 ……フィリアさんの父ということは吸血鬼、つまり魔族の本!!

 それに加えて全てに目を通していないということはグリモアコードについて何か書いてある本がある可能性もあるということ。

 

 私はそこに活路を見出した。

 すぐさまアリシアに目配せすると同じ事を考えていたのかすぐに頷きが返ってきた。


「フィリアさん、是非その本を見せて貰えませんか?」

「……わかりました。少しお待ちを、持ってきます」


 立ち上がろうとしたフィリアさんをすぐさま止める。


「よろしければ全て確認したいのですが構いませんか?」

「あー……もちろん、構いませんが、後悔しないでくださいね」


 何やら思い出したかのように苦笑いを浮かべるフィリアさんに私は嫌な予感を感じた。

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