第4章 太古の書籍
第19話 名ばかりの宴
あの悲劇から数日経ち私たちは村長に呼び出された。
今は自宅を出て村長宅まで歩いている最中だ。
……何の用か、大体は検討ついている。
それは私たちの正体についてだ。
うん、私が村長たちと同じ立場でも気になってしょうがない。
これは必然の呼び出しと言える。
本当ならばすぐにでも聞きたかっただろうけどアリシアの熱を気遣って数日経った今に呼び出したのだろう。
ちょっと整理すると、村長たちの私たちの認識は今のところ魔族の私と人間のアリシアの駆け落ちということになっている。
いや、まぁ、協力して黙って逃げ出した点を考えれば全てが間違いではないんだけど……。
そもそもこの
と、このように私たちの秘密は魔族と人族の駆け落ちということにして凌いできた。
別に嘘をついているわけじゃない。
ただ、大事な真実を切り抜いているだけ。
別に内緒にしていたわけじゃないんだけど、入れ替わったなんて色々と不都合が起きそうであまり口にしたくはなかった。
特に魔王と勇者という秘密は厄介者と思われる可能性も捨てきれないし魔王に関しては敵と見做されてもおかしくない。
だけど、もう言い逃れはできない。
魔族である私が聖剣や聖力を使用していることや魔人化の侵食が進んだアリシアの姿。
周囲に放っていた深淵もフィリアさんなら感じ取っているはずだ。
あれを見た今となっては違和感が不信感に変わっている可能性がある。
全てを打ち明けるべきだ。
しかし、いざ言うと考えるとなぜか少し緊張してくる。
今更ながらアリシアが人の敵である魔王と知ったら態度が急変するのではないか?
そんな可能性が脳裏に過ぎってしまう。
……ダメダメ! 村長たちを信じないと。あの人たちはそんなことで態度を変える人じゃない。
何よりフィリアさんは魔族なんだから普通の人よりは理解を得られるはず!
私は考えていたマイナス思考を全て振り払う。
「何、しているんだ?」
少しびっくりした表情でアリシアが尋ねてくる。
隣を歩いていた私がいきなり頭を振ったから当然の反応だ。
「いや、ちょっと考え事を」
「ふぅーん。珍しいな、お前がそんなに緊張しているなんて。まぁ、考えることは悪くないけど程々にな。考え過ぎて迷走すれば本末転倒だからな」
「そうだね。……アリシア」
「なんだ?」
「もう、言おうと思ってる」
「そうか」
アリシアもそんな予感をしていたのか驚いた様子はなかった。
「でも、二人は薄々気付いてると思うけど」
「まぁ、大丈夫だろ。もう一度言うけど深く考え過ぎるなよ」
私の緊張を察知したのかそう言葉をかけてくれる。
それが励みになり不安な気持ちはすーっと空気が抜けるようになくなっていく。
……どことなくアリシアの口調が柔らかくなっている?
そんな気がした。
何というか、言葉に優しさが、感情を感じる。
だからこんなに滲みるのか。
「ありがと。……アリシアのその胆力、少し借りたいよ」
「言葉に詰まったときはフォローするから」
二人で協力して乗り切るぞと意気込み村長の家に着いた私たちだが、今まで巡らせていた予想は見事に裏切られた。
言い方向? に。
訪ねていきなり席に案内され座らされた私たち。
机の上一面に広がるご馳走たち。
事前に準備を行っていたのかその量だけでなく種類もこの村に訪れたときに振る舞って貰った料理よりも豪勢に見える。
私たちの頭は
「……これは一体?」
「もちろん、アリシアさんの復帰祝いですよ♪」
ニコニコ笑顔で本当に嬉しそうなフィリアさん。
既に席に着いている村長は一人落ち着いて、お茶を啜っている。
「悪いのう。病み上がりでいきなりこの量を。言っても聞かなくての」
「何を仰いますか。今回はリウォンさんもアリシアさんも頑張ってくれたのです。戦勝と弔いの席にお二人は参加できなかったのですからこれぐらいは当然です! クリストルの性格からしていつまでも辛気くさいのは肩が凝ると言うでしょう。ぱーっとやりましょう! ぱーっと!!」
いつにも増してテンションがもの凄いことになっているフィリアさん。
そう言い残してキッチンに戻っていった。
「というわけじゃ。すまんが付き合ってやってくれ」
クリストルの墓に訪れてから数日間、アリシアはやっぱり熱が引かずにしばらく寝たきりの生活になっていた。
大雨に打たれすぎたこともあるだろうが何よりようやく気を抜けたことによる反動の方が大きいだろう。
あまりにも酷い熱だったので私は看病で付きっきりで宴と言っていいのか分からないけどその席の誘いを断ってしまった。
恐らくこれはその振替えということなのだろう。
……何かちょっと拍子抜けしちゃった。
けど、宴の振替えって……そんなの初めて。
「あれがフィリアの気の紛らわせ方なのじゃ。何かしていないと引きずって落ちるとこまで落ちてしまう。息子が逝ったときは本当にもの凄い荒れようじゃったぞ」
村長が呟いた一言が少しわくわくしていた自分の気持ちを引き締める。
何やら息子さんがいたようで少し気になったが亡くなっているということなので触れづらい。
「そうでしたか」
そんな当たり障りのない簡単な返事しかできなかった。
「あーすまんすまん。気を遣わせてしまったようじゃの。何が言いたいかというとそのおかげでもう何日も満腹状態が続いておるからお主たちには期待しているということじゃ。」
「任せてくれ。これぐらいなら。何とかいけそう」
場の空気を変えるためアリシアが元気よくそう言う。
「はて、これぐらい? お主にはあれが見えんか?」
村長の視線の先を見てみるとキッチンにもとんでもない量の料理が並んでいる。
これには私もアリシアも苦笑い。
「ふぉっふぉっふぉ、この状態のフィリアを嘗めてはいけんぞ。そういえば村の者らもしばらくは食べ物は見たくないと言っておったな」
既に村の人たちもダウン状態!?
あっ! 今、村長笑ったよね! なんか性格の悪そうな笑みで!!
ちょっと待って……もしかして……。
順番に考えてみよう。
そもそもフィリアさんの料理を食べ続けないといけないのは夫である村長。
しかしながら、悲しみから逃れるためにフィリアさんは毎日に毎日に料理を作り続ける。
そんな量の料理、ご老体である村長が食べ続けるのは無理だ。
つまり、自分では食べきれないから周りにお裾分け(巻き込んでいる)。
えーと、ということは先日の宴は名ばかりでこれは村長主催フィリアさんが作りすぎた料理を消費しようの会ってこと!?
「リウォン、この量、覚悟決めないと不味いぞ」
「うん。確かに……」
もはや逃げ道はない。
我知らずと言った顔でお茶を啜り続けている村長に少しも苛ついていないと言えば嘘になる。
勘違いしてはいけないのはフィリアさんの料理が不味いわけではない。
むしろ、美味しい、絶品だ。
しかし、だからこそ辛い。
不味かったら悪態の一つもつくことができるのに。
「さぁ、遠慮なくどんどん食べてくださいね」
その満面の笑みは本当に天然のものだろうか。
裏ではほくそ笑んでいるのでは? と疑いたくもなる。
しかし、これは正真正銘、天然物だろう。
それほどまでに笑顔は陰りもなく輝いていた。
思わず見惚れるほどに。
いたっ!
横を見ると無表情のアリシアが肘で私の横腹を小突いていた。
「なに?」
「なーにも」
相の変わらず無表情で気の抜けた返事が返ってくる。
……何だったんだ。
さて、愚痴はここらにして、もう、覚悟を決めるか。
アリシアに目を合わせると頷きが返ってくる。
その頷きから俺に任せろと聞こえてくる。
彼女には期待したいところだがその身体のことは私が一番知っている。
何を隠そう、私は小食だった。
食べきると豪語していたが恐らくすぐにリタイアするだろう。
だから、期待はできない。
私が頑張らないと。
アリシアの自信的にこの身体なら今まで以上に入るはずだ。
意気込みは十分、いざ!!
そして、私たちはこの料理を手に付け始めた。
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