「D」「A」1ー2
女官が完全に出て行くのを確かめてから、アイシアはこれでもかというくらいの、ため息をついた。
「困ったものね。重傷人相手に何を気にしてるんだか」
「……私が何者かは、調べがついてるんだな」
いくら重傷人とはいえ、一兵士をこんな豪華絢爛なベッドに寝かせるわけがない。まして一国の王女の付き添いとは、自分のしようとしてきたことを考えると滑稽極まりない展開だった。
「一部の人だけね。二十針も縫う大怪我だったのよ、あんなに血が出たのに輸血なしでも大丈夫だったって。お医者さん驚いてた」
「助けないほうがよかった」
「あら、どうして?」
「私はあんたを殺しにきたから」
どんな反応をするか見物だったが、彼女は一瞬驚いただけでそのあとは柔らかい表情のままだった。理由すらも聞かなかった。
室内は静寂に包まれる。けれど、私にはその一秒ごとの沈黙がまるで懺悔室にいるような気分で、聞かれてもいないのにその意味を話してしまっていた。
「……国王にとって、それが一番の不幸だと思ったんだ」
「そっか。ダリアはお父様のことが憎いのね」
そうかもしれない。けれど、そう尋ねられると自信がなかった。
「本当に憎んでいたのは、母の方だと思う。それだけ愛してたともいえるけど」
「お母様は、どんな方だったの?」
「良い人ではなかったな。いつも怒ってるか泣いてるかのどちらかだった」
客観的にみれば、逆恨みもいいところだと思う。
たかが知れてる身分の女と一国の王が幸せに、なんていうのは夢見る少女の幻想だ。ガラスの靴を片手に探し回る王子はいないし、身分の壁を乗り越えてまで愛を叫ぶ男はいない。母は国王の火遊びに巻き込まれたに過ぎなかった。
「じゃあ、ダリアはお母様のためにここまで?」
「そうなるな」
「……よかった」
ぽっと出たその言葉に、私はアイシアに疑問の眼を向けていた。いまの話のどこに心が安まったのか。私の眼に気付いて、アイシアは応えた。
「お父様とは関係なく、私のこと恨んでると思ったから」
「同じ国王の子どもなのにって?」
「恨まれてもおかしくないでしょ」
「私は自分の生まれに後ろめたさはないから、そう思われるのは不愉快だ」
「……ごめんなさい」
目を見るに小さくなるように肩を落とすアイシアに罪悪感を持った。同時にどうしてこんな気持ちになるかわからなくなる。
少なくとも殺すつもりだった相手に、抱く感情ではなかった。
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