「A」2ー2
インペリアル・パールス。
天覧試合は国家軍の兵士たちが一対一で戦うお祭りみたいなものだ。
城下街も出店などで活気づいて、私は毎年お忍びで遊びにいくのだけれど、あの兵士の試合は大っ嫌いだった。
木刀ではなく真剣でやるから血生臭いし、死者が出ることだってある。実力者同士が戦うから生死に関わるほどの事故は滅多にないけど、人が戦っているところを見るのはどうしても億劫になってしまうのだ。
しかも、勝者には勲章である金の胸飾りが授与されて、この勲章をつけるのがなぜか私だった。出場する名誉より、私に勲章をつけてもらうことを目的とした兵士もいるとかなんとか。
国のために働いてくれていることに感謝しているし、私にできることはなんだってしてあげたい気持ちはあるのだが。あるのだが。
わざわざ本物の剣を振るって戦う意味をどこにあるのか。
世の中にはいろんな人がいて、そのそれぞれに価値観があることはわかっているつもりだから、否定するつもりはない。兵士としての立場や誇りなどがあるのだと思う。
ただ、私はいろんな人がいるなかの一人の人間として、見世物の争いというものを認めたくなかった。
そこになんの疑問も持たずに人に対して刃を振るう兵士も、敬意を抱きつつも嫌悪が尽きることがない。
やるのならば模擬刀で十分だろうに。そう思うのはやはり私が兵士ではなく、女だからなのだろうか。
気付くと、ケイリ―がこちらをじっと見つめていた。感情の機微を読まれてしまったか。私は極めて明るく、かつ可愛らしさを込めて言った。
「ねぇケイリー。勲章は着けるからさ、試合を見るのはやめちゃだめ?」
「だめです」
即答だ。こういうブレない芯の強さがケイリーの尊敬すべきところだが、私のワガママなんて一切の逡巡なしにゴミ箱に捨てられてしまうのはつまらなくもある。
「天覧試合です。姫様がいないでどうしますか」
「お父様とお母様だけで十分でしょ」
「次期国王が何を言っているのですか。女でありながら今後は外交もしていかなければならないのですよ。国民の前に出ることは国王と同様、あなたの務めです」
「はいはーい。わかりましたよー」
「女王になり、あなたにはすべきことがあるのでしょう」
「ありすぎて困るくらいにねー、おやすみぃ」
私はベッドにもぐり込んで布団を被った。
そうだ。やることは山ほどある。私からみればお父様は温い。キルギオンはまだ発展途上なのだ。やるべきことは数え切れなかった。そのための準備は着々と進めなければならないし進めてはいるけれど、いまの最優先事項は一つだけだった。
王であると同時に、一人の人間であることも忘れるつもりはない。それが人に認めてもらう術にもなるのだ。
天覧試合、兵士、国家軍。
そういえば、城内で軍組織の方は手つかずだった。彼らは城内の警備はもちろん城下街の治安維持活動を行っている。女性も数割はいるって話だけど。
「……まさか、ね」
そんなところにわざわざ行くとは思えない。
さて、明日はどこを探そうか。なんて考えていると私はすぐに眠ってしまった。
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