「A」1ー2

 赤絨毯が敷き詰められた絢爛な廊下で私を引きずりながら、ケイリーは呆れたように言った。


「毎日、お忙しいですね。いもしない姉妹を探すとは」


 ケイリーはお母様が嫁ぐ前からお母様の側付きをしている女官だった。

 私にとってはもう一人の母親で、教えられたことはお母様よりも多いかもしれない。その信頼関係もあり、私はケイリーにお父様の隠し子疑惑を話していた。でもこいつは一向に信じる気配がない。私はそれをあえてそう見せているのではないか、と逆に疑っていた。


「絶対いるわよ。名探偵アイシアちゃんの情報網は伊達じゃないんだから」


「それはそれはけっこうなことで。ですが姫。時間と約束は守っていただかないと困ります。他国から著名な学者を招いているのですよ。こんなことを繰り返していてはクリュフ家の名に傷が付きます」


「他国ねぇ……いっそ私じゃなくてもう一人の子に継いでもらうのもありじゃない?」


「姉妹がいるのならね。ですが、いないものはいません」


「ねぇケイリー、あなた実は知ってるんじゃないの? 彼女がどこにいるのか」


 部屋の扉の前に着いて、ケイリーの強靱な握力から首根っこを解放されると、私とケイリーは互いに見つめ合った。先に目を逸らしたのケイリーだ。


「存じ上げません。アイシア姫、お遊びをするのはけっこうですがやるべきことはやってください。もうすぐ学者の方がお見えです。ご準備を」


 有無を言わさず、ケイリーは私を部屋に押し込んでから出て行ってしまった。しっかりと鍵もかけるからもうここは牢獄と変わりない。


 私みたいな小娘の揺さぶりに反応するほどあいつは可愛くはないか。

 

 私はベッドに倒れ込むようにして寝転がって天井を見つめた。 

 確かに、全て確証があることではない。でも従者の証言に加え、調べるとお父様は先週スラムへとわざわざ足を運んでいたのだ。国王本人がスラム街に行くなんて前代未聞だった。そこから派生して、国王の隠し子の噂話は世間に日を見ないだけで、従者の間では盛んに話題になっているらしい。

 願わくばお母様の耳に入っていないことを祈りたいけど、無理だろうなぁ。

 

 お父様のことは王としてそれなりに尊敬しているけれど、それとこれとは話が別だ。やっていることは本当に気持ち悪かった。男ってみんなこうなのかしら。


 城内のどこかにはいるはずなのだ。

 なんとしても、探し出してみせる。

 

 一体どこにいるのだろう、我が愛しの姫君は。


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