Another18 ある日の面談

2010年 5月

同居する少し前、錬は瀬那の住んでいる家の前にいた。




錬「緊張してきたな……」




普段は着ないスーツに身を包み、一応土産物を持参してきていた。

指定した時間までまだ20分以上時間はある。

呼び鈴を押そうかどうか迷っていた時だった。

ガチャリと正面の玄関の扉が開いた。

中から出て来たのは自分の彼女である七海瀬那だった。



瀬那「錬さん!さ、入って下さい!」

錬「せ、瀬那!?」

瀬那「フフフッ…。2階で洗濯物干してるおばあちゃんが家の前でオロオロしてる錬さんを見かけたから入って貰いなさいって!」

錬「み、見られてた…」





少し気落ちしながら、瀬那に案内され中へ入る。

座敷に案内されると、そこには1人座布団の上に座りお茶を啜っている老人がいた。

中に入ると、テーブルを挟んだ反対側に敷かれている座布団に座るよう言われる。




瀬那「それじゃ、私はおばあちゃん呼んでくるから少し待ってて下さい!」




瀬那はそういうと座敷から出ていく。

錬は座敷に残され、ちょっと気まずい雰囲気の中にいた。




「……………」

錬「…………あの…」




錬が言葉を発しようとした時、それを遮るように老人が話し始めた。




「君が…信条錬くんだね?」

錬「は、はい…」

「フフフッ…そんなに緊張せんでもいい。私は瀬那の母方の祖父の七海武ななみ たけしだ。瀬那が世話になってるようで申し訳ない」




そう言って頭を下げてくる。瀬那の祖父。



錬「い、いえ!逆に俺…自分が世話になっているといいますか…」

武「ほぅ…。もうそんな関係に?」




何だか要らんことを口走ってしまった感があった。武の目が鋭くなり此方を睨んでいるのがわかった。




錬「い、いや!け、健全なお付き合いをさせてもらってますので、決して不純なことは…」

武「ハハハハ!冗談だよ!むしろ君になら瀬那の全てを預けても問題ないと思ってる程だからな」

錬「へっ?」




鋭く睨んでいた目つきから一転、その表情が綻び優しく此方に笑いかける。

その様子に間抜けな声を出してしまった。




武「すまないな。こういう性分なものでな!今から言うことは独り言に近い、だから聞き流しても構わんよ」




そして、武は話始める。

瀬那の父は日本7家のうちの1つ七宝しちほうの分家に当たる血筋であり、生まれながら能力が低い瀬那の事をあまり良く思っていなかったそうだ。

厳しく鍛えたそうだが成果が見られなかった、諦めようとしていた時に弟が生まれ、そちらに素質があったそうで瀬那を放置して弟にかかりっきりになったのだという。

そんな、瀬那を不憫に思い、武と妻の里子は瀬那を養子にし、元の苗字から七海の性を名乗るようさせたという。

それからはあちらから連絡があるでもなく、こちらからも連絡する事もなかったという。


瀬那は此方に来る前から歌は歌っていたそうだが、聴くと何処かもの悲しいような感じになるものが多かったという。

此方に来てからも友人を作るとかもなく、歌も変わらず悲しいものを歌っていたそうだ。

それから暫くして、詩織と言う人が尋ねて来

て彼女の歌を聞き、歌手にしたいとの申し出があった。

歌が好きな瀬那の世界が変わるかもしれないと、彼女を説得して詩織に任せたのだそうだ。

暫くは変わりなかったそう。あの大きなライブがあった時自分達もその会場にいたそうだ。トラブルがあったと聞いた時はハラハラしたそうだが、戻ってきた瀬那を見て2人で安心したそうだ。

それ以前は何処か自信ない感じがあったが、そのライブ以降は雰囲気が変わり明るくなったとの事だった。

それからちょくちょく自分の名前を聞き興味を持ったそうだ。

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