第163話 潰える野望

錬「レビックさん!」



彗星に特攻し爆散するニエド。とてつもない爆発を起こした形跡は彗星の大きなヒビがそれを証明していた。



スカイ:マスター!

錬「わかってる!できるだけ彗星に接近後、オーバードライブ発動する。その後龍の顎をフルバーストだ!」

スカイ:機体が巻き込まれる危険が高いです。

錬「ウダウダ言っている暇も時間もない!」



錬は出そうになる涙をこらえ、飛燕をできるだけ彗星に近づけるため、空を翔る。

目前に迫ってきている彗星は望遠機能を使わずともその弱所を確認できた。



錬「今だ!」

スカイ:オーバードライブ発動!

錬「出力全開だぁぁぁぁぁ!」



オーバードライブ発動と共に体が悲鳴をあげるのがわかった。遠のきそうになる意識を保ち、龍の顎を放つ。

極太の閃光は彗星のヒビをとらえそれをどんどん広げていく。

それを見ていた世界の皆は【あと少し】そう思っていた。

だが、その想いを裏切るかのように、彗星を破壊する直前で飛燕の龍の顎が耐えられずに爆発する。

飛燕も無事では済まず、右腕が吹っ飛びその爆発の影響かコックピット部分もえぐり取られ中が少し見える状態であったのだ。




錬「あと少し…あと少しだったのに!!」



悔しさに唇を噛みしめる錬に通信が入る。



瑠衣『錬さん…もういいのです…』

琳『俺たちはよくやったよ…』



仲間たちから来る通信はもう諦めがつき、錬たちを称賛する声だった。

避難した蒼穹のブリッジで瀬那はモニターに映る錬の様子を見て、錬のその悔しい気持ちを痛いほど感じていた。

そんな中でも無情に彗星は接近してくる。

彗星が近づいてきている影響からか、世界各国では天変地異が起こり始めていた。

日本皇国近くでも暴風が吹き荒れてきていた。

飛燕も空を飛んでいたが、姿勢を制御するのが精いっぱいになっていた。



錬「……そうだ。飛燕の動力を暴走させて特攻すれば!」



そう呟いた時だった。



¨諦めるのか?¨



突然声が聞こえた。



錬「誰だ?」



¨諦めるなんて、君らしくないな?¨



聞いたことのある声。



錬「まさ…か?」



¨バカ弟子!あんな石っころ一撃入れて壊す意気込みでやれよ!¨



そう、錬に亡くなったはずの3賢者の声が聞こえてきたのだ。



錬「だけど、武器がもう…」

¨大丈夫、今来るよ…¨



周囲を見渡すと、何かがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

それは、3賢者の魔法装甲が装備していた大剣だった。

この暴風で飛んできたのだろうか?

その剣は導かれるように錬の飛燕の元へと回転しながらたどり着き、飛燕は残った左腕でそれを取る。



錬「だけど、オーバードライブをするにも貯蔵魔力も足りない…炉も変換効率が落ちていることも考えればもう限界かもしれない…間に合わない可能性が高い…」

スカイ:一つだけ可能な方法があるかも知れません。

錬「出来るのか!?」

スカイ:はい。しかし、それを行えば飛燕に搭載しているPASの回路は完全に焼き切れ、細かな魔力調整が出来なくなりマスターにかなりの負担がかかります。

錬「それでも!やるしかない!…この世界を…大切なものを守る為にも!」

スカイ:了解しました。反集積装置の流れを逆転させ、周囲より魔力を強制的に炉に流れるようにします。




キィィィィンという激しい音と比例するように共に目下にあるモニターは火花を散らし始める。




錬「スカイ!?」

スカイ:さ、さい…ご…で。おと…おと…も…出来ないこと…。お…ゆ、ゆ、ゆるし…下さい。あ、あ、あとは…




バシュッと言う音がすると飛燕のPASは機能を停止する。

それと共に機体に流れてくる魔力の奔流が凄まじく、錬にもその代償がくるのだった。



錬「ゴハッ!」



たまらず吐血する。

ここまで限界に行使していた力が錬の身体を蝕んでいたが、過剰に逆流する魔力もまた錬の身体を蝕み始めていた。

ギリギリで保っていた意識が再び遠のき始める。




錬「くっ…まだ……俺は……」

:全く…お前はいつも予想を上回る事をしたがる。



コックピットに響く声。だが、3賢者のもの

とは違う懐かしい声。



″錬の身体の負担の軽減と身体に逆流してくる魔力は私がなんとかする。だから…″

:わかってる。機体の魔力制御は私が担当しよう。

錬「ウルドラ?ルナ?」



その声は錬をまどろむ意識から完全に覚醒させるには十分だった。




ルナ″さぁ、錬!″

ウルドラ:お前の…

徹″いや、俺たちの力を…″

昴″あの彗星に!″

尊″ぶつけてやろうぜ!″

錬「あぁ!皆んな!今一度力を貸してくれ!」




錬は飛燕の能力を限界以上に引き出し、彗星に向かい武器を構え、一撃を加えた。


その一撃は彗星を遂に砕く。その際、大きな衝撃波と閃光があり誰も目を開けてられない程だったという。その様子を観測していたすべてのカメラの映像も彗星が砕けた後はしばらく見ることすら叶わなかったという。

彗星は砕けると地球のあちこちへ、その欠片が散らばった。


そう、この日リコンの野望は遂に潰えたのである。








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